3. 海岸隆起調査

図3.1. 海岸隆起調査地点(図はクリックして拡大)。

図3.2. 生物指標から推定された海岸隆起量(白丸)と断層モデルによる理論隆起量(十字)。

 4月〜5月にかけて計6回、能登半島西岸の珠洲市狼煙町から羽咋郡志賀町高浜に至る32地点、総延長約100kmの範囲で海岸線の隆起量調査を行った(図3.1)。32地点のうち、25地点は大小様々な漁港の岸壁を、残りの7地点は岩礁海岸を対象とした。特に、震源付近の輪島市皆月~輪島市赤神の範囲では、測定点を多くし、詳細な調査を行った。さらに、震災の被害が少なかった地域では、住民の聞き取り調査なども併せて実施した(守屋ほか, 2007)。

 各地点の隆起量は、潮間帯上限付近に生息する藻類やカキ類および潮下帯上限付近に生息するアラメやホンダワラ、および潮上帯下限付近に分布する地衣類やシアノバクテリアなど、潮間帯、潮下帯、および潮上帯生物のそれぞれのコロニーと、海水面との最大比高分布測定から推定した。測定された比高は石川県珠洲市長橋町において観測された潮位を用いて、東京湾平均海水面からの比高(標高)を算出し、地震による隆起量がほぼゼロであると考えられる狼煙町および珠洲市高屋町におけるカキ類の分布上限の標高との差を求め、地殻変動量の鉛直成分とした(図3.2)。

門前町赤神付近での隆起量は約44 cmと観測地点の中で最大となった。調査地点の南端に位置する高浜や赤住では、隆起量はほぼゼロであったが、赤住と赤神のほぼ中間点に位置する富来漁港での隆起量は約20 cm で、赤住から赤神までの地域では連続的で緩やかな地盤の隆起が観察された。これに対し、赤神以北では鹿磯付近で急激な隆起量の減少が見られ、鹿磯漁港から深見港の間でほぼゼロとなり、門前町深見では沈降に転じ、最大約8 cmの沈降が確認された。深見から皆月の間では沈降量が徐々に減少し、皆月以北での隆起量はほぼゼロとなった。能登半島地震では、InSARや水準測量でも海岸隆起量が測定されているが、本調査結果と調和的な結果を示している。

本震の震源メカニズムや余震の分布などから、今回の地震を引き起こした断層の延長は鹿磯付近を横切り、南側が隆起、北側が沈降という動きであったことが明らかとなっており、本調査により確認された隆起量の分布は、能登半島地震の断層運動から期待される隆起量の分布傾向と良く一致している。

なお、本調査で隆起量の最大値を記録した赤神付近から笹波付近までの隆起量が20 cmを超える地域の住民は、“海岸線の後退”を実感し認識していたが、これより南方の隆起量が10 cm以下程度の地域の住民は地殻の変動に関する認識は皆無であった。