5. 震源域周辺の重力異常

図5.1. 奥能登地域におけるブーゲー異常図と地塊境界(HR: 宝立地塊,HB: 鉢伏地塊,SY猿山地塊,KT: 桑塚地塊)の対応(Honda et al., 2008)。白丸は気象庁一元化震源データによる能登半島地震の2007年3月25日の余震(図はクリックして拡大)。

 能登半島における既存の重力測定データをコンパイルし、能登半島の詳細な重力異常図を作成した。既存測定点の数は約13000点になり、平均して陸域においては2平方kmに1点の割合で測定点が分布する(河野ほか、投稿中)。震源域周辺のブーゲ異常図を図2.5.1に示す(Honda et al., 2008)。能登半島の大部分では、基盤岩を第三紀以降の地層が直接覆っており、それらの密度差が大きいことから、ブーゲ異常分布は近似的に基盤岩深度分布を表している

 図5.1には太田・平川(1979)による地塊構造の境界線がブーゲ異常分布図上に引かれている。桑塚地塊と鉢伏地塊は比較的高い重力異常、猿山地塊は比較的低い重力異常により認識できるが、鉢伏地塊と宝立地塊の境界は不明瞭である。桑塚地塊は猿山地塊に比べて高重力異常を示し、基盤岩の深さは桑塚地塊のほうが浅く、桑塚地塊の隆起運動が猿山地塊に比べて活発であったことが示唆される。また、測地学的に観測された能登半島地震による地殻の隆起がほぼ桑塚地塊内に限られていること、強震動データに基づくすべり量分布(Horikawa, 2008)も桑塚地塊内でのすべり量が大きく、猿山地塊の浅部ではすべり量が非常に小さいことから、地塊構造に本震の破壊領域が規制されていることが考えられる。

 この地震発生前年(2006年度)に能登半島北西部において詳細な重力測定を行っていた。したがって、その時の重力値や測定点標高と比較すれば、地震に伴う重力値の変化、測定点標高変化(=地殻変動)を検出できる可能性があった。そのため数十地点において再測定を行い、きわめて大きな重力変化(図5.2(左))と、他の方法から推定されているものと調和的な地殻変動分布(図5.2(右))とが得られた(本多ほか, 2007a; 2007b)。地盤が隆起すれば重力は減少するから、これらの測定結果はその意味では調和的である。この測定のためには、厳密に同一地点で再測定をする必要がある。これが可能になったのは、地震発生が2006年度の測定からあまり時間がたっていないため、測定地点に残したマーカーが保存されていたからである。通常は道路の改修や磨耗などで数年でマーカーがなくなってしまうため、地震発生に伴う重力変化の確認は世界的にも稀である。

図5.2.(左)能登半島地震前後における重力値の変化、(右)重力値の変化から推定された測定点標高変化。