研究について


何を研究しているか?

主として,上部マントル〜下部地殻の構成と岩石学的プロセスの解明をおこなう
上部マントル起源の岩石分布地を歩き,露頭にハンマーを当て,岩石を手に取り,実験室でよく調べ,上部マントルでの諸プロセスを考える.)

地球環境学に対して一言

地球環境の理解に対する重要性が叫ばれて久しい.
金沢大学でも地学教室に新講座として「地球環境学」が誕生したのに続き,大学院博士課程の改組に伴い,「地球環境科学専攻」が1994年に誕生した.
現在私は同専攻の3つの講座の一つ「環境動態講座」の主任教授を務めている.
私は,地球環境学は今や旧来の地質学をも包含した広い意味にとらえるべきであると考える.
人間の身の回りの手近な環境のみを近視眼的にとらえるべきではないと考える.
人間が生活するのは固体地球の上であり,連綿としたマグマの活動も地球環境の形成に大きな影響を及ぼしてきた.
こうして見ると岩石学もりっぱな「地球環境学」の一部なのである.
「われわれの身の回りの地球環境の成立から固体地球の形成まで一つの連続したプロセスでとらえる」ことこそ金沢大学で誇るべきユニークな「地球環境学」である.
私は,今や人文科学を含むすべての分野の人が「地球環境学」を理解し,それにのっとった教育をすべきであるとさえ考える.
これを金沢大学の教育の特長にしたらいい.
すべての人が「地球環境」の保全を考え実行せねば人類の未来は危ういのではないだろうか.
人間はとかく目先の利益のために動く.
政治も経済も工業生産もすべて地球環境を視野に入れて動くべきである.
すべての分野の人が,自分たちのしていること,しようとしていることが地球の環境に対してどのようなインパクトを与えるかをじっくり考えるべきなのではないだろうか.
地球の歴史と環境形成の時間的重みを理解している「地球科学者」の役割は重要である.

マントル学への誘い:求む!意欲的な若者

マントルを研究してみよう.
地殻は地球の薄皮にすぎない.
薄皮を剥いでみれば,その下には分厚いマントルが地球を覆っているのである.
マントルはマグマの形成,深発地震の発生など重要な地学現象の舞台である.
マントルの理解は固体地球の理解に直結する.
われわれの立場はマントルを構成している岩石に直接アプローチし,物質としてのマントルの理解を試みることである.
さあ,楽しいフィールドワークに出てみよう.
マグマの生成・移動を観察してみよう.
小さな捕獲岩から日本列島の深部に思いを馳せてみよう.
そして地球の成り立ちを考えてみよう.
しかし,地下深部を構成している物質をどうやって知ることができるのであろう.
例えば,金沢ではそれらの岩石は30キロメートル以深に存在しているはずである.
この深部を構成している岩石は2つの過程で地表にもたらされ,われわれは手に入れることができる.
一つはプレート境界でのマントル物質の貫入である.
プレート境界にはしばしば上部マントルを構成しているはずのかんらん岩が露出している.
まず消費的境界(収束境界)ではプレートののしあげ(obduction)が時により起こる.
これは軽くて沈みにくい小大陸や大陸縁が沈み込みきれずウェッジ・マントル側がのしあげるものである.
オフィオライトなどはその典型例である.
大陸性マントルかんらん岩よりなる造山性レールゾライト岩体などもこのプレート同士の衝突に伴って上昇・貫入すると考えられている.
また,海溝の陸側斜面にはしばしばかんらん岩(蛇紋岩)が露出している.
プレートの生産的境界(拡大境界)である海嶺にもなぜか上部マントル物質であるかんらん岩が露出していることがある.
これは海嶺下に想定されるマントル・ダイアピルが上昇の慣性力で浅部まで突っ込んでしまったものであると思っている.
また,プレートのすれ違い境界である海洋断裂帯にもかんらん岩(蛇紋岩)の露出が認められる.
他の一つはマグマ中の捕獲岩である.
上部マントルから急激に上昇するマグマは上部マントル物質などの深部岩を礫として捕獲してくることがある.
ちょうど川の流れが上流の山を構成している岩石を礫や小石として下流にまで運んでくるのと似ている.
これにはキンバーライトやアルカリ玄武岩マグマなどの発生深度が深く,上昇速度が大きいマグマほど都合がよい.
このようにして,マントル物質は地表でも案外入手可能なのである.
このようにして入手したマントル物質のほとんどが「かんらん岩」と呼ばれる岩石なのである.

研究テーマの数々


上部マントルかんらん岩の成因

中心テーマの一つ.
上部マントルかんらん岩の岩相変化の成因など.博士論文で扱った三郡帯のかんらん岩から続いている.対象は幌満などの造山性かんらん岩体,オフィオライトのマントル部分,かんらん岩捕獲岩と広範囲である.これにより各種のセッティングに対応した対象を得ることができる.もっとも主要なテーマ.かんらん岩体やオフィオライトでは高橋奈津子,松影香子,森下知晃,牧田宗明,角島和之,田村明弘,宮本浩二,上田夏代さんなど,捕獲岩では阿部なつ江,喜田恵美,根塚みのり,田中小満さんなど多くの学生諸君がこのテーマに挑み,多くの成果を上げてきている.

Mgに富む火山岩の成因

上部マントルかんらん岩と実際に観察されるマグマを是非結びつけたいと思い,1992年頃から始めた.従来,かんらん岩の研究とマグマの固結物の研究は切り放されて行われていた.ひどく蛇紋岩化したかんらん岩もかつてはマグマと関連があったはずであり,かんらん岩〜マフィック火成岩に共通な鉱物であるかんらん石とクロムスピネルの組成を手がかりになんとかしようとしている.二ノ宮淳君のピクライト玄武岩の研究や青木龍一郎,飯田淳一君の鳥海火山のクロムスピネルの研究など.

層状貫入岩体の研究

最近始めた新しいテーマ.後述のクロミタイトや白金族鉱物の生成や,Mgに富むマグマの成因・挙動の解析とも関連する.現在,ジンバブエのグレート・ダイク貫入岩体を小幡吉広君が研究中.

クロムスピネルの化学組成の研究

古くから言われているクロムスピネルの岩石成因上の重要性を自分なりに追求した.マグマの化学組成とスピネルの組成を一応対応づけるのに成功した.この結果を変成したマフィック岩などの成因に応用した.山梨大石田高氏と共同で小仏-瀬戸川帯の岩石を研究している.また,この理解があるからこそ砕屑性クロムスピネルの研究が可能となる.

オフィオライトの成因・形成場の解明

オフィオライトの典型例としてのオマーン・オフィオライトの解析は極めて重要である.リッジフラックス計画,海外学術研究を通して1996年より深くかかわっている.荒井が代表者で申請していた1999年度からの科研費海外学術研究のオマーン調査が採択され,金沢大学荒井研が事務局を務めることとなった.さらに2〜3年間はオマーンへ通うことになる.オマーンのほか,シェトランド,リザード,トリニティー,トルードスなどのオフィオライトを調査してきた.最近の主要テーマの一つ.松影香子,阿部なつ江,森下知晃,角島和之,上杉次郎君がこのテーマにかかわったか現在かかわっている.

ポディフォーム・クロミタイトの成因

卒論〜修論とクロマイト鉱山に入っていたが,当時は坑道を詳細なサンプリングに利用していたのみで,当のクロミタイトの成因には余り興味がなかった.興味が出てきた現在,それらの鉱山が廃山となり残念至極である.このテーマには金沢大学に赴任後1990年過ぎより着手した.最近の私自身の主要テーマの一つ.同和工営の松本一郎氏と共同研究を行っている.また金属鉱業事業団のCr(レア・メタルの一つ)の探鉱調査にも関与した.クロミタイトの生成は単に鉱床成因の一現象に止まらない重要性を有する.マグマ/かんらん岩相互反応に伴うことが明らかになり,島弧火山の深部現象の一つではないかとにらんでいる.

白金族鉱物(PGM)の成因

1997年イギリス,ウェールズ大学に滞在した際,H.M. Prichard氏の手ほどきを受け開始した新しいテーマ.いち早く西南日本の蛇紋岩中からpotariteなどのPGMを発見し,Min. Mag.に印刷中.北海道神居古潭帯のクロミタイトからもPGMを発見し,Res. Geol.に印刷中.白金族元素の挙動も深部のマグマ活動の解析に使える見通しがついた.また,変成作用や変質作用での同元素の挙動も重要である.現在,博士課程1年のAhmed Hassan Ahmed Mohamed君がエジプトの南東部のオフィオライト中のPGMを研究中.日本とアメリカで世界の白金の7割を消費していると言われている.消費するだけでなく,研究にも貢献すべきである.

日本列島の下部地殻・上部マントルの岩石学的性質

静岡大学に赴任後,目潟,高島の研究から着手した.それまで,蛇紋岩化の激しいかんらん岩を扱っていたため,新鮮な岩石に対する憧れもあった.静岡では佐伯泰広,藤原正人,小林靖子氏,筑波では平井寿敏,後藤潔君,金沢では阿部なつ江,池田誠,村岡弘康君らが研究した.

海洋底の岩石の成因

1993〜94のODP Leg147ヘス・ディープ掘削へ参加したのを契機に深くかかわるようになった.それまでもODP Leg45やLeg66のそれぞれ玄武岩,かんらん岩を研究した経験がある.Leg147のヘス・ディープのドリルサンプルや中央ケイマントラフのドレッジ・サンプル(S.ヴィソツキー氏と共同研究)のダナイト,トロクトライト,かんらん岩の研究で大きな成果をあげる.いままで松影香子,礒部栄一君が研究.

アルカリ玄武岩の成因

かんらん岩捕獲岩の母岩として,またMgに富むマグマとして興味を持ち,筑波大学時代から続けている.得意の偏光顕微鏡観察で未記載のネフェリンをいくつか発見したりもした.坪井誠太郎氏によると浜田のネフェリナイト中のネフェリンは外国人が発見したものであり,われわれによるネフェリン・ベイサナイト発見は,日本人による初のネフェリン発見であったらしい.筑波では平井寿敏君が,金沢では宿野浩司,井原伸浩君が活躍した.

蛇紋岩砂岩(堆積性蛇紋岩)と砕屑性クロムスピネル

静岡大学着任後,瀬戸川帯の研究から始まった.静岡大学の当時3年生下川浩一,高橋輝章君の進論で,堆積性蛇紋岩が瀬戸川帯で発見されたのに端を発し,下川浩一,南里宗弘君が卒論で研究した.静岡では岡田博有氏,筑波時代には伊藤谷生氏,現在は筑波大久田健一郎氏と共同研究をしている.また,博士課程の角島和之君が砕屑性クロムスピネルの研究に情熱を燃やしている.砕屑性クロムスピネルの検討は過去の堆積岩中のもののみでなく,現在のかんらん岩体の研究にも使える,簡便で極めて有用な手法.

緑色岩の岩石学的研究

主としてみかぶ帯の緑色岩を研究している.自分の中では,堆積性蛇紋岩のテーマの延長にある.静岡時代に池田靖,圓子潔君を投入し,金沢では村山豪,上杉次郎君を投入した.

土器や石器の岩石学

地球科学と歴史科学の接点.金沢大学で岩石学の応用として興味を持った.根塚みのりさんが卒論で土器を研究.このテーマでは環境公害研究センターの中野寿氏のご協力を仰いでいる.地質の土器への反映は大変面白く,印象的である.かつてオマーン産の現代の陶器の薄片を観察したことがある.その中に,クロムスピネル,かんらん石,斜方輝石などのオフィオライト起源の鉱物粒子を発見して感動した.また,中近東の陶磁器の褐色系の色づけにクロムスピネルの粉末が使用されているのをご存じか?.

嶺岡帯−葉山帯−小仏帯−瀬戸川帯

房総半島嶺岡帯は東京にもっとも近いかんらん岩の露出地という理由で東京大学時代に研究を始めた.東大時代は後輩の内田隆氏を指導し,静岡では渋江隆彦君,筑波では阿部直樹君を投入した.また東京に近く,アクセスが容易なため多くの人と現地を歩くことができた.また,変成岩中の角閃石と筑波大平井寿子氏と共同で研究した.ここでは分析電顕が活躍した.三浦半島,瀬戸川帯なども東大時代から調査を始めていた.その後石田高氏の小仏帯の成果を合わせ「環伊豆地塊蛇紋岩帯」を提唱した.現在は千葉県中央博物館の高橋直樹氏と共同研究をしている.

接触変成を受けたかんらん岩

卒論〜修論で行った,私の研究のルーツをなすテーマ.当時のフィールドだった鳥取県のクロマイト鉱山(広瀬,若松)も閉じられ寂しい気がする.多里-三坂岩体の変成されたクロミタイト中にArai (1975)によって発見されたOlivine + cordieriteの組み合わせは,かんらん岩系の超低圧鉱物組み合わせで,いまだに他では発見されていない.この脱蛇紋岩化作用は地表付近のローカルな現象に止まらず,沈み込む海洋スラブ中のプロセスとして重要であろう.また,最近の喜田恵美さんのバタン島の捕獲岩の研究から初期の島弧下マントル過程としても重要である可能性があり,今後の発展が期待される.

今後やってみたいテーマ


現在までに調査したことがある主要なフィールド

( )は共同研究者および同行した荒井研の学生諸君


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