鉱山廃水の沈殿処理と重金属の堆積形態について

○佐藤大介*・田崎和江**・佐藤 努*

*金沢大学大学院自然科学研究科,**金沢大学理学部

  1. はじめに

     石川県小松市の尾小屋鉱山は,1878年(明治14年)に操業が開始され,1971年(昭和46年)に閉山するまで,銅鉱物を中心に採掘が行われていた.その鉱山廃水が流入する梯川ではかつて,環境基準値を上回るカドミウムが検出され,流域の住民の中にはカドミウムによる腎尿細管障害や,神通川流域に見られたイタイイタイ病と同じような症状をもつ骨軟化症が認められた(城戸,1998).

     この鉱山では,坑口(第六立坑)から現在も高濃度の重金属を含む酸性の廃水(pH 3.5)が流出し続けており,消石灰の投入による中和凝集沈殿処理が行われている.このような処理法は,鉱山廃水や工場廃水等の産業廃水中の重金属処理に一般的に用いられている.しかし,その処理の効果とともに処理後の重金属の安定性などを総合的に評価する研究は少ない.本研究では,処理後の廃水が流入する沈殿池をボーリングし,中和処理によって沈殿した重金属の堆積形態および元素の挙動について研究を行った.そして,沈殿池の堆積物中における元素の移動や含有鉱物の変化が明らかになったので報告する.

  2. 試料および実験方法

 鉱山内の廃水が流出する第六立坑と,沈殿池において廃水試料を採取した.そして原子吸光分析(AA)で,廃水中の重金属濃度を比較した.

 また,沈殿池において深さ約60cmの堆積物のコアを採取し,主に色の違いによって44層に分け,重金属を中心とする元素および鉱物の分布を調べた.コアの色は全体的に褐色であるが,ところどころに白色の層が認められる.エネルギー分散型蛍光X線分析(ED-XRF)で,層ごとに含有元素の分析を行い,さらにX線粉末回折分析(XRD)で鉱物の同定を行った.

3.結果と考察

 第六立坑の重金属濃度はFe:13 ppm,Cu:8.0 ppm,Zn:16 ppm,Mn:1.3 ppm,Cd:90 ppbであった.沈殿池における各重金属濃度の減少率は,Fe:約90%,Cu:約90%,Zn:約70%,Mn:約45%,Cd:約70%であった.これは,消石灰の投入によって廃水のpHが3.5から6.3になったことで, Feをはじめとする重金属が沈殿したためと考えられる.しかし,堆積物中における多量のFeの存在にもかかわらず,鉄鉱物の存在はXRDでは認められなかった.

 採取したボーリングコアの粒度は細粒な砂質から泥質まで様々であった.一般的に,黄褐色や白色の層ではCaが多く,赤褐色や黒褐色の層にはFeが多く含まれる.また,上層から下層にかけて,次第に褐色が薄れ,Feの濃度変化と一致している(図1).一方,Sは上層から下層にかけて次第に増加していく.堆積物中のSiと AlはCdと同じ挙動を示し, ZnとMnは類似した濃度プロファイルを示す(図1).

 XRD分析の結果,あらゆる層にカルサイトCaCO3やジプサムCaSO42H2Oが認められた.しかし,Sの増加に伴ってカルサイトの量は減少し,代わってCaとSを含むエトリンガイトCa6Al2(SO4)3(OH)1226H2O,またはそのAlの部分がFeに置換したCa6Fe2(SO4)3(OH)12XH2Oが認められる.2 μm以下の粘土分のXRD分析の結果,試料No.15(深さ約18 cm)において10Åと7.1Åに反射が認められた(図1 ☆).

 以上の結果から,堆積物の色の変化は,鉱物組成の変化と一致しているほか,元素分布と鉱物組成の変化にも関連がある.さらに,試料No.15に見られるようにSiとAlの存在は粘土鉱物の存在を示し,Cdが吸着されていることも考えられる.

 消石灰の投入時にはカルサイトのみが存在するが,時間が経つにつれ,S, Fe, AlとCaが化合し,ジプサムやエトリンガイトといった鉱物を堆積物中に形成する.その陽イオンサイトを置換する形でMn, Cu, Zn, Cdなどの重金属が鉱物中に取り込まれていることが明らかになった.