浮遊性アルミニウム粒子に富む海水の色調変化とその要因

-薩摩硫黄島北平下海岸を例にとって-

○石田義人*,佐藤 努*,田崎和江**

金沢大学大学院自然科学研究科,**金沢大学理学部地球学科)

はじめに

初期地球の大気組成は二酸化炭素が多く含まれ、大気圧との平衡により海水のpHは酸性だったとされている(Sagan 1972)。また、初期地球の海水には多量のAlFeが溶存していたと考えられ、初期の生命体を考える上で、AlFeの存在は重要である。AlFeは地球上に広く一般に認められ多くの研究がされているにもかかわらず、それらの物質循環は不明な点が多く残されている。

薩摩硫黄島北平下海岸に噴出する強酸性の温泉水(pH=1.11.7)中にはAlFeイオンが大量に含まれ、海水と混合することにより、Alに富む粒子の沈殿により海水は白色を呈する(鎌田 1964, 小野ら 1982)。しかし、そのAl粒子の存在状態は不明である。1999639日の薩摩硫黄島北平下海岸の調査中、海水の色が白〜褐〜黄緑色と変化が認められた。本研究では採取した変色海水と浜辺の岩石表面の付着物について観察・分析を行い、海水の色調変化、構成微粒子、AlFeに富む環境と微生物への影響を評価する。

試料採取及び実験方法

199963日に船で北平下海岸沖合に向かい、色調の異なる変色海水の表層海水と深層海水を採取した。また657日にかけて薩摩硫黄島北平下海岸の変色海水、砂浜から自噴していた温泉水、浜辺の潮溜まりに堆積していた白色沈殿物とバイオマットを採取した。現地にて水質(pH,EC,Eh,DO,wt)測定を行い、採取した変色海水を0.20μmメンブランフィルターを用いて濾過した。変色海水中の浮遊物は光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、濾液はICP-MSにて定量した。濾紙の付着物、浜辺の潮溜まりの沈殿物とバイオマットについては、多量の蒸留水で脱塩した後に微分干渉・蛍光顕微鏡、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)を用いて観察・分析を行った。

結果

海水中の微粒子をDAPI染色し蛍光顕微鏡下で観察したところ、白色海水では100μm前後の透明な粒子と球菌が、褐色海水では100μm前後の褐色の粒子と球菌と糸状菌が認められた。SEM-EDXで観察・分析を行ったところ、褐色海水はAlに富みSi, S, Feを含む粒子が存在するとともに、510μmSiに富む粒子も点在した。一方白色海水はAlに富みS, Clを含む微粒子で構成されていた。TEMで観察したところ白色海水では1.54.0μmの星型、X型形状をしたNordstrandite Al(OH)3)の存在が認められた。また40200nmの微粒子が凝集したAlゲルが認められた。

現地で測定した変色海水の水質及び濾液をICP-MSで分析した結果を表1に示す。表層海水はpH=5.06.7Eh=145196であり、変色海水の色調が白色を呈する時のpH=5.5Eh=170mVと類似する。砂浜から自噴していた温泉水は374mVと酸化的であるが、深層海水はEh25145mVと低い値を示した。変色海水の色調が褐色を呈する時、pH3.14.7Eh230440mVであった。また変色海水中のAlの濃度範囲はが3.760.0ppmで、海水の色調に関係なく、Alはイオンや微少なゲルとして多量に含まれることが示唆された。

潮溜まり中のバイオマットには、DAPI染色を施し蛍光顕微鏡下で観察したところクロロフィルを持20μm前後の珪藻を確認し、SEM-EDXで観察・分析を行ったところSiを主成分とし、AlClを含んでいた。

考察

海水中の微粒子は、AlFeイオンが大量に含まれる温泉水が海水と混合することで100μm前後の粒子として海水中に存在し、40200nmの微粒子で構成されている。AlFeは混合しており、微粒子中のFeの量がpH, Eh条件により変化し、海水の色調を変化させると考えられる。また一般には堆積物中に見られるNordstranditeAl(OH)3)が変色海水中に認められた。Nordstrandite生成の新たな知見が得られる可能性がある。

Alイオンが体内に摂取されると毒性を発現する(川原ら1993)。Alの多い海水中に微生物が存在したことから、これらの微生物はAlに耐性を持つと考えられる。AlFeが多い環境でも微生物は生存しうると思われる。

1 Nordstrandite Al(OH)3)(左),Alゲル(右)のTEM