大学・研究のこと

1,UCL
わたしがお世話になっている大学は一応イギリスでは5本の指にはいるといわれているところで,日本では伊藤博文が留学したことで知られている(と思う)。そのおかげかどうか。大学の顔とでもいうべき広場には桜が2本植えられていて(配置的には桃と橘を彷彿とさせる)とてもうれしくさせてくれる。ちなみにわたしがお世話になっているラボへのリンクはここ。(2001.4.1)

大学の顔。 両側の桜が満開。あまり色がきれいじゃないのは写真のせい

道を挟んだ反対側のキャンパスの建物は美しいゴシック建築。大学の名前が正面に書いてあるんだけど写真だとわかりにくいかな


2,オープンスクール
金沢大学理学部ではオープンスクールというものを毎年学祭の頃に催して(たぶん正式名称:ふれてサイエンス)地域のみなさまや受験生に私たちが何をやっているのかアピールしている。それと同様な取り組みをUCLでしていた。ただしこちらは純粋に受験生向け。学会のポスターセッション形式で,カレッジの全ての学部(とも限らないが)がお店を出すらしい。2001年3月のオープンスクールではやってきた学生の70%くらいがインド・パキスタンなどのアジア系住民で占められていて,いわゆるアングロサクソンは圧倒的に少なかった。我がトニー先生によれば彼らは怠け者だとのことだが.........。(2001.4.1)


3,火災報知器
ご多分に漏れず,この大学でもしょっちゅう火災報知器が鳴っている。たいてい火事ではなくなにかの間違いで鳴っているのである。日本でもこんな事はしょっちゅうあるし(特に京都にいたときはけっこう鳴ってた),鳴ったからといってたいして気にしないで仕事を続けてきた。しかしこちらの人はひじょうに厳密に避難する。なるとぞろぞろ外にでて,ガードマン(?)がチェックして問題なければ入れてもらえる。意外にまじめである。(2001.6.6)


4,図書館
UCLは理系の図書館が別にある。ここは現在工事中であるせいもあるのか,とにかく場所がない。どこの大学も図書館のスペースのなさには困っているものである。まず1990年代のものしか置いてない。それ以前ものはどこかにストックされているらしい。頼めば24時間以内に持ってきてくれるとのこと。思い切っているなぁと感心したのは,電子書類としてWebから手に入る論文をまったく置いてない。代わりにここに行けば手に入りますよとホームページのアドレスを書いた代本版が入っている。かなりのスペース節約になっているようだし,だいたい自分の机に座って手に入る論文なんて誰もわざわざ図書室に見に来ないから実害もない。(2001.6.6)

5,共同利用(ICP-MS)
イギリスではNatural Environment Research Council Scientific Services略してNERCという組織があって,これが各機関にお金を出して装置を買ったり人を雇ったり。するとそのお金で維持されているマシンは日本でいうところの共同利用施設のようになって,申請して通ればマシンタイムがもらえる。Kingston University という,いまはやりの(?)ウィンブルドンの近くにある大学がICP-MSをもっている。ジルコンの放射線損傷について研究する私としてはU・Th濃度の単粒子測定をめざしていて,現在申請書を提出中である。今回は付き添いでアパタイトの化学組成の測定に行ってきた。

きっと装置を維持する人の努力は計り知れないものがあるのでしょうが,ユーザーとして行くぶんにはきわめて簡単に測定ができる。基本的に,ブランク測定,スタンダード測定,試料測定をして,生カウントデータを得る。あとはそのデータ処理。このデータ処理がやはり難しい。

スタンダード試料の濃度よりきわめてはずれて多い場合の検量線の直線性は調べたくても調べられないので不確定要素が大きい。他の手法との比較といってもなかなか一筋縄ではいきません。ちなみにスタンダードとしてはNIST610,612のガラスを使っていました。原点とこの2点の合計3点で検量線が決まります。直線性は非常にいいが,測定毎にこの検量線がけっこうかわる。さてどうなのか?

レーザーでたたいたときにどれくらいの量を融かしたかを見積もるために,内部スタンダードとしてある元素の量(アパタイトの場合はCa,ジルコンはZr。ジルコンにはあまり選択肢がない。Siはあまりちゃんと測れない。)は既知とするんだけど,この値をどうするかもなかなか難しい問題である。今回はdilusion ICP-MSでの測定結果を持っていて,この値を使ったみたいですが。

この手の測定センターのようなところが充実すると,やはりデータはどんどんでるし,新しいことにも挑戦しやすいしとても便利。日本でも,マシンもさることながらとにかく人(マスの維持管理や共同利用のための様々を請け負う人々)にお金かけて,研究者フレンドリーな環境になるといいのにね。(2001.7.4)

6,Geological Walk
UCLで時々見かける,geological walk の宣伝。これは退官した名誉教授のエリックが案内者となって町中の建材観察をしながら地質学についてうんちくをたれるというものである。全くのボランティアで,当然参加費などもとられない。これに参加すると,思いがけない発見があるのもさることながら,なんと地質学の重要な学問であるかが納得させれて(エリックの名調にだまされているのか?)すばらしいのである。金沢大学では忙しい現役の教授が各種の啓蒙活動にかり出されている。その大車輪ぶりは涙を誘う。しかも少しはその負担を減らしてあげるべく活躍するはずの助手は優雅な海外研究暮らし(私以外の助手の人は気の毒なくらいの惨状ですが)。やはり日本でも貴重な人材である名誉教授の出番なのではないだろうか(でもみなさん第2の人生に大忙しかな?)(2001.7.4)


7,EUG
2年に一回開催されるヨーロッパ地球科学連合(この訳でいいのやら?European Union of Geocience)に参加しました。フランス・ストラスブルグにて。発表もしないのに学会行くのはほんとにばからしいというのが日頃のわたしの意見なのですが,今回ばかりはロンドンにきたときには講演申し込みがおわっていたのにも関わらず,こちらのホストにぜひ行けと言われて大枚はたいて行ってきました。
学会はほんとに面白かった。わたしがこちらで研究しようとしていることは,日本ではマイナーな部類に入り,研究費もままならない状態ですが,こちらでは関連・どんぴしゃのセッションがあってびっくり。ところ変われば興味も変わるということか,単に学会の参加者にその分野のひとが多い習慣なのか?日本の地球科学関連学会合同大会のようなものを想像していたが,研究内容の内訳はかなり違っていました。(2001.5.1)

8,新入生向け巡検ー巡検お国事情ー
こちらでは新入生が来るやいなや,授業も始まる前に巡検に連れていきます。
その巡検に参加してUCLと金沢大学の学生(1年生)を比較するチャンスもらいました。

巡検は金沢でいえば小巡検のような感じで,2泊3日の北部イングランドへのバスの旅でした。教官は5人で他にサポートする上級生が3人ほど。学生は43人。バスのなかやホテルでの学生の行動は金沢の学生とまったく同じで,国は違えども若い人のやることはかわらないなと苦笑いさせられました。二日酔いとなってバスのなかでヘルメットにもどす強者がいたのも一興でした。しかし以下の3点ほど,おっ違うな〜と感じました。

1) 装備。日本では巡検の前に「足まわりはしっかりしたもので。雨具も忘れずに」と伝えると,たいていスニーカーを履いて吹けば飛ぶような折り畳み傘を持って満足げに現れる学生がかなりいますが,こちらでは全員が,ちゃんとした山靴に雨合羽の完璧なフィールド装備。おそらく子供のころからの自然との親しみ方が反映されているのでしょうが,UCLに軍配。

2) 質問。採石場に行ってセメント工場を見学したときのこと。説明をしてくれる人が「〜についてどう思いますか」と質問をしながら話を進めました。日本ではほぼ確実に質問の後には気まずい沈黙が訪れ,私などはその沈黙が怖くてとてもそういう授業の進め方はできません。しかしこちらではみんな活発に遠慮なく答えるし,学生からの質問も多い。高校以前の教育の受け方の違いか,はたまた自己主張に対する捉え方に国民性の違いがでているのか。UCLに軍配。

3) ここまできて,金沢大学学生は「だめちん」なのかとがっくりきていたのですが,巡検の途中にちょっとした山登り(せいぜい500mくらいのもの)が組み込まれていたときのこと。登りたいくない人は行かなくてもよいということになったのですが,なんと半分くらいの学生が登らないですませてしまったのでした。金沢の学生ならほぼ全員が行くのは間違いないのに.....。というわけでこの点の積極性には金沢に軍配。というわけで胸を張ることができました。

うちの大学は頭脳派というよりは肉体派ということでしょうか?しかし少なくとも2番目の項目については逆転が可能なので,ぜひ学生のみなさんには積極的にいろいろなタイミングで発言してもらいたいものです。

ちなみに巡検では学生を追い立てるのも教官の仕事のひとつですが,こちらではバスの前に立ちはだかる牛の群を追い立てるのも重要な任務となっておりました。(2001.10.1)

9,新入生向け巡検2ー言葉の問題ー
巡検中の説明は当然ながら英語で行われます。当然英語だけ。日本で巡検に行くともちろん日本語で説明しますが,一緒に英語での名前も伝える事が多く,結局学生に伝える内容がほぼ2倍になるんだなと実感しました。覚えることが多くて学生もたいへんならば,説明に時間をとられる教官もたいへんです。(2001.10.1)

10,院生の駆け込み寺
私がお世話になっているラボには,現在寂しいことに大学院生がいない。でもなぜか時々学生がセンセを求めてちょくちょくやっている。聞いてみるとどうやら我がトニー先生は「院生のチューター」という仕事に当たっているらしい。何をするのか,全容はいまいちよく分からないのだが,なにかと忙しそうである。中でも重要な仕事にひとつ。院生が指導教官に相談できないようなトラブルを抱えたとき(特に指導教官とうまくいかないとか,あわないとか......)話を聞いて解決策を一緒に考えたり調停したりしているらしい。金沢では全学的にはセクハラ相談員がいて,その手のトラブルの相談にはのってもらえるような体制が整っているが,学科の中に,一般的な悩みに関する相談担当員は設定されていない。それが必要ないくらいみんなうまくやっていると胸を張っていいのか,それとも学生は内々に苦しい思いを抱えているのに気付いてあげられてないのか?(2001.11.20)

11,博士課程中間発表ー指導教官が代理?
日本では博士課程の大学院生の中間発表(うちわのゼミではなく教室単位のもの)はあと一年以内で学位が取れそうになったぞというタイミングで行われることが多いと思う。ここ,ロンドン大学ではなんと課程に入学して数カ月しか経っていない12月の頭に博士課程の一年生が発表を行う。ひとり15分でちょっとした学会の発表のようによく準備して臨んでいる。何を目的として何をするのか,地域地質に執着する人もいれば大きな枠組みの中で自分の仕事を捉えている人もいる。人によっては既にデータがでている人もいる。ピンからキリなのはイギリスだろうが日本だろうがどこも同じ。

おもしろかったのは,学生には必ず複数人の指導教官(中には他機関の人もいる)がついていること。研究のスポンサーも明確である。今年の一年生の中には,ちょうどスポンサー向けの発表の日が教室の日程と重なってしまった人がいて,スポンサーの方を優先してました。それであろうことが指導教官が代理で中間発表を!!そんなのありなの??とまったく狐につままれた気分です。(2001.12.5)

12,博士課程入学試験&不正入学!?
お世話になっている先生が,大学院のチューターなるものをやっている関係でこちらの大学院入試に接する機会があった。しかしそれは入学試験という形をとっておらず,奨学金の獲得のための面接というのがその実体であった。こちらでは金銭的なサポート無しに博士課程に進むことはあり得ないので,奨学金の獲得がすなわち入学の許可に通ずるようである。今回の奨学金は政府から支給されるものであったが,例えば企業からお金が出る場合なんかでも,奨学金の獲得ですぐに入学が許可される模様で,日本のようないわゆる研究能力に関する試験などは,ここではないのだとか(大学によっていろいろかも)。奨学金が獲得できるくらいなんだから優秀なのは間違いないというところか。

しかし今日オクスフォードのあるカレッジのスタッフが,日本でいるところの不正入試に関与したことがニュースになっていて,ちょっとあれって思った。だって親からの寄付がその子供の奨学金として受け入れられば,奨学金を獲得できた子供は入学の資格を得ることができるはず。日本人のセンスとしてはそんなんアリ!?って感じだけど,イギリスのシステムとしてはなんら問題ないのでは?まあ,今回は(たぶん)大学院じゃなくて大学入試に関する醜聞のようだから話題になったのだと思うけど,これが大学院入試だったら??

日本も大学改革で儲けられる大学への転換を狙っているようだけど,待っているのはこういう矛盾をはらんだシステムなのねと思った次第です。(2002.3.25)

13,3&4年生向け巡検ー巡検お国事情2ー
4月上旬,キプロス島への学生巡検に参加するチャンスがあった。またしても日本とのいろいろな違いを実感させられることが。

講義とフィールド
まず大きな違いは,この巡検がPetrology and Volcanology という講義の一部であったということ。日本では講義とフィールドワークは別物となっているところが多いと思うが,ここでは講義の一部ということで,より知識と密着した実践が行われやすいように感じた。例えは岩石分類のためにの図にしても,フィールドでは物事を迅速にすすめるため,多くの場合コピーを学生に渡すこととなる。ここでは露頭の前で(講義だから)口頭で説明して学生に図を書かせていた。時間はかかるが学生の理解のためにはいい方法だと感じる。巡検中に論文紹介の時間も急遽設けられて,学生は必死に準備&発表していた。反面,同じ大学からの同じ学年のグループが,環境関連の講義の一部として同様にキプロス島に滞在している(でももちろん別行動)のを目の当たりにすると,大勢の教官がフィールド入りしてることとなり,事務的なことも含めて負担が多いことも否めない。

ハンマー
学生はハンマーを全然使わない。最初はえっ,やる気あるのかな?と思ったが,どうやらここではハンマーを使うことは貴重な露頭&自然の破壊行為であるということで,最小限必要な時にしかハンマーを使わないというコンセンサスが得られているようである。理にかなっている。したがってそこにあるものを観察して(ちょっとくらい風化していても)判断できるよう教育されている。日本ではそれこそ露頭をハンマーでたたかない学生は怠け者のように取り扱われるが,この考え方は改めた方がよさそうである。

学生はお・と・な
学生の自主性は徹底して尊重されている。巡検中,エジプトへの観光旅行に行ってしまった学生がいたが本人の選ぶことだからと別に目くじらててることもない。帰りの飛行機でトラブル続きだったので,教官の一人はこんな信用できない飛行機には乗れないといって走り出した飛行機を止めておりてしまった。もちろんほとんどの学生を機内に残したまま... 。個人の責任で何とかしろといったところか(私はその個人主義にすっかり感心してしまっていたが,後でいろんな人の話を聞くと,さすがにちょっと特別な例だと思っている人が多かったけど)。私達も学生のことを心配したり悪い方(?)へ行かないようコントロールしようとするのはあきらめて,もう少しドライに学生を大人として扱った方が断然お気楽である。とはいえ日本には「こういう時はこうするべきだ」といったような型にはまっている(「常識的に行動する」とも表現される)ことを要求される文化があるのでなかなか難しい。

やっぱほめなきゃね
巡検の最終日には,朝フィールドノートを提出させ,そのまま学生は2人づつに別れてある地域の地質図を描くために自由行動となった。その間教官はフィールドノートを評価して,巡検の終了時にはAwardを。できのいい人に賞をあげたのは言うまでもないが,最も出来の悪い(?)人や特筆すべき点のあった人(今回は名前を書かずにノートを提出した人)にもそれにちなんだ賞と賞品が用意されていて微笑ましいかった。これで奮闘しようと思ってくれるといいね。(2002.4.25)

14,Geoccience Laboratory Technique
ここUCLでは面白い授業(演習)が今年から始まった。各分析手法(質量分析や粒度分析など)について学ぶ授業なのだか,それぞれの専門科の話を聞くのと平行して,各個人に仮想研究テーマを与え,どのような戦略で研究を実行するかを考えさせ,最後は仮想データがとれたことにして研究発表を行うのだ。イギリス的だと思ったのは,研究にかかる時間や手間を見積もるのに加えて,その研究にお金がいくらかかるかの見積もりが必ず必要とされたいたこと。せちがらい世の中である。発表を聞いたところ,みんななかなかよく考えていて人によってはパワーポイントを用いた華麗なプレゼンをした人も。学んだ分析法を実際に利用する計画を立てさせることで,身につくことは間違いないし,その後のFellowshipの申請などにもこの経験が生きてくる。もちろん学会発表にも。(2002.6.18)

15,合併!
日本では大学改革真っ盛り。金沢大学は、まだどこかと合併するらしいという話はきかないが北陸連合のようなものはできるのかな?最近はいってきたニュースによるとここUCLがImperial Collegeと2004年より合併するらしい。UCL、Imperial Collegeともにロンドン大学の中のカレッジではあるが、このロンドン大学というのは、それこそ北陸連合みたいな感じであまり大学としての実体はなく、日本と対比すると、カレッジ一つがそれぞれの大学と対応すると考えていい。この大変革にあたり大学は上へ下への大騒動となっている。わがトニー先生は常々雑用で忙しいと愚痴をこぼしていたが、日本の現状知っている私としては内心鼻で笑っていた。ところがこの合併が公表されるやいなや(これも全く突然、事前のうわさも何もなく、既定事実として発表されるのだから恐ろしいところである。それはさておき)さすがのトニー先生も会議で部屋を留守にすることが多くなってきた。カリキュラムや、入試などの実務レベルでの擦り合わせやラボの引っ越しなど、やらなければいけないことが天文学的レベルであるという。万が一金沢大学がどこかと合併することになったら.....。考えるだに恐ろしいとともに、すでに合併を意思表示した他大学の勇気に感心するばかりである。(2002.10.31)

後日談:その後この合併話しはなんと白紙に戻りました。あの大騒動は一体なんだったのかって感じ。いろいろ調べてプラス面マイナス面を評価したり、あるいは多くの人の反対運動(?)にあったり、大騒動の挙げ句のことだと思うけど、そもそもこうなりそうなことは最初から分かっていたんじゃないのか?ただあれだけ大々的に取り上げたことを「やっぱや〜めた」というのはかなり勇気のいることであるのは確かで、間抜けにみえることを恐れずに正しいと思う選択を選ぶ良識があるのはさすがである。日本のお役所・政治家(もちろん大学人にも)にもこの良識があればいいのにね(2003.1.1)

16,アンディ捕物帳・危機一髪!
私のいる研究室はもともとは階段のある大講義室だったところを改造したもので、部屋が一階の顕微鏡が置いてある部屋と、2階の質量分析計が置いてある部屋に別れている。2階で仕事していたら、同僚のアンディがやってきて、「ノリコ、君はラッキーだ」という。「Lottoでもあたったかな?いやいや買ったことないし」と思いつつ、なにかいいことあったっけ?と思い返してみると、今日は地下鉄には閉じ込められるし、調子の悪い機械についてアドバイスをもらおうとわざわざ化学の人にまで足を運んでもらったのに結局得ることがなかったしと悪いことだらけ。

どうも話をきくと、大学にこそ泥が入り込んで、私のコンピュータとお財布を盗もうとしたらしい。外から戻ってきたアンディが、すれ違った怪し気な人のポケットから電源ケーブルがはみ出しているのに気がついて、追いかけて荷物を取りかえしてくれた模様。ロンドンには常に「こそ泥注意報」がでていて、実験室に人がいなくなるときには必ずカギをかけることを習慣にしている。来た当初はそこまでするかなと驚いたが、今さらながら必要なことだと思い知った次第。その日はみんなが出たり入ったりしてて、一瞬人がいなかったその瞬間に(って私は上の部屋にいたんだけど、全く気付かなかった)狙われた模様。アンディが大きなお腹を抱えて走って追いかけていってくれたことを思うと、全く感謝のしようがない。正直いってお財布よりも何よりも、必要なコンピュータである。アンディいわく、こそ泥は大学にクスリを盗みにやってくるジャンキーではないかとのこと。どう見ても大学でうろうろしている人種には見えないヤツラには要注意!といったって、どんな人がいてもおかしくないところが大学なのだから困りものである。(2002.11.5)

17,地階の工事終了ー学長視察
長らく地階の工事をしていたのがようやく終了した。教室のだれかにお金があたって、それでいわゆるリフォームしていたのである。おかげで別棟にあった鉱物分離室が移動してきて、便利になりました。長い歴史を持つ国だけあって(しかも建物も石造りだしね)メンバーが変わって研究テーマが変わったら、それにあうように建物をリフォームするのに研究費を使う。とても実際的だし柔軟である。日本ではたとえば科研費があたってもそれで建物をなおしたりはできないのはなぜなのか?わからない。わが金沢大学では、現理学部の建物が設置されて以降、新しい講座や学科が増えたのに、昔の状態にとって最適なように建てられた建物に無理矢理閉じ込められていて、効率が悪いことこのうえない。何とかしてほしい。とはいえ文句いう前にリフォームできるくらい大きなお金をあてなきゃね。

というわけで、工事終了に伴い学長の視察というのが入ったらしい。視察って一体たかが学長何さまのつもりと思っていたら、こちらの学長は企業の社長のような人が務めていて、経営手腕を発揮して大学の健全経営を目指すとともに、大学の全体像についてもリーダーシップを発揮するような立派な人らしく、日本のシステムとはどうも違うようなのである。日本では学長というと、「仕事もしないで選挙運動している人」とか、「選挙に落ちたらファミレスで隣にすわっている汚いかっこのね〜ちゃんに配慮もせずに対抗馬について汚く罵ったり下の人の働きぶりについて文句を言ったりする人」という悪い印象があるが(「日本では」というより「私には」?)、よく考えたら、こういう人だから学長にはなれなかったと思うと、学長はこういう人ではないに違いない。なんにせよ、その日は学長視察に備えためったに見られないみんなのいいかっこが見られたのであった。(2002.12.10)

18,Kathleen Lonsdale
私の実験室はKathleen Lonsdaleという名前のついた建物の中にある。この名前は有名な鉱物学者にちなんでついていて、Lonsdalaleiteという鉱物もある、高名な人である。ということは知っていた。

知らなかったのこの人が女の人だということ!最近大学のディスプレイが変わり、彼女の業績についてのポスターが張られてはじめて知った。考えてみりゃ「カスリーン」女の人の名前に決まっている。でも20世紀なかばの有名な教授だなんて、ほとんど十中八九男だと思って間違いないし、「Kathleen Lonsdale、長い名字だな」ってなもんで、全く男性だと思い込んでいたのである。我ながらこのいわゆる常識的なものの見方に捕われて目が曇っていることに恥じ入らんばかり。これでは研究者としては2流である。

ここイギリスは日本にくらべて圧倒的に女性の研究者が多い。とはいえ、さすがヨーロッパなどと思っていはいけない。よく見ると教授になっている女性は少ないし、ロイヤルソサイエティに所属できている女性もほんのわずか。レディファーストの甘い言葉の陰でやはり女性差別は歴然とあるのである。でも彼女のような人がいたってことは、やっぱり当時は日本より格段進んでいたに違いない。このビルの名前が女性研究者にちなんでつけられていたって知ってたら、もっとお仕事がんぱったのにぃと口走ったら、アンディから、「今ならそういっても大丈夫だね」って。だってもう2週間ほどこの滞在もおわりだもの。さすが、アンディ分かってる?(2003.1.29)



ロンドン表紙に戻る

長谷部研究室表紙に戻る