ロシア極東タイガノス半島の付加体とオフィオライト

石渡 明・宮下純夫*・齋藤大地・辻森 樹
金沢大学理学部地球学教室 (920-11 金沢市角間町)
*新潟大学理学部地質科学教室(950-21 新潟市五十嵐二ノ町8050)

このページの文章や図版は,地質学雑誌 Vol. 104, No. 1, pp. I-II (1998)に掲載されました.

 

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2006年10月12日作成,2006年10月13日更新


Accretionary complexes and ophiolites in Taigonos Peninsula, far-eastern Russia

A. Ishiwatari, S. Miyashita*, D. Saito and T. Tsujimori
Department of Earth Sciences, Faculty of Science, Kanazawa University
*Department of Geology, Faculty of Science, Niigata University

Journal of the Geological Society of Japan, Vol. 104, No. 1, pp. I-II (1998)


 カムチャッカ半島の基部からベーリング海沿いに北東方向に伸びるコリヤーク山地は、古生代前期から新生代までの長期間にわたって成長し続けた付加体群よりなり、陸側から海側へ若くなる付加体の分布や、古い付加体がより上位に重なるナップ構造は、日本列島の付加体群とよく類似する(Ishiwatari, 1994)。タイガノス半島の東海岸(図1)にはコリヤーク山地最南端の付加体群とオフィオライトが分布する。この付加体は主にジュラ紀後期から白亜紀前期のチャート・玄武岩層や島弧安山岩類、グレイワッケで構成されるが、前弧盆に堆積したタービダイト(図2)も断層で挟まれる。付加体の地層は一部でひどい変形(図3)や低圧型の広域変成作用を被っている。また、キンゲバヤム地域には斑れい岩体を伴ってオルドビス系や石炭系が分布する(石渡, 1996)。

 我々は、科学技術庁の「全地球ダイナミクス:中心核に至る地球システムの変動原理の解明に関する国際共同研究」の一環として、ロシア科学院地質研究所と共同で、1997年8月3日から9月5日まで、タイガノス半島エリストラートバ地域のオフィオライト(図4)を調査した。新潟からウラジオストック、マガダンを経由してエベンスクまで飛行機を乗り継ぎ、そこから船を借り上げて現地に入り、海岸にベースキャンプを設営し、海岸や谷沿いを徒歩で調査した。

 このオフィオライトは、恐らく環太平洋地域で最も露出が良く、一応すべてのメンバーが揃っていて、層状構造の発達した5x10km大の斑れい岩体(図5)が中央に広く分布するが、典型的なオフィオライトとは産状が異なる。斑れい岩体は南東側のマントルかんらん岩(ハルツバージャイト)に貫入する(図6)。超苦鉄質沈積岩(レールゾライト等)は主に斑れい岩体の北西縁に分布するが、斑れい岩体内部にもレーヤーや貫入岩体としてしばしば産する。斑れい岩体は至る所で細粒斑れい岩や輝緑岩の岩脈に貫かれ(図7)、いくつかの地域では100%岩脈からなる典型的な層状岩脈群を形成する(図8)。北部の岩脈群は、形成後に傾動したためか多くの貫入面が水平に近く、大規模な褶曲も見られ、広い範囲で角礫化を被っている。この岩脈群は下部白亜系に不整合で覆われていて、主に玄武岩・輝緑岩礫からなるその基底礫岩には、かんらん岩や斑れい岩の礫も含まれる。そして、これより北東の海岸沿いには、ほぼ白亜紀全体にわたる見事な層序が露出する。このオフィオライトの北西側はジュラ紀後期〜白亜紀前期の安山岩質火山岩類と断層で接するが、その断層に沿って蛇紋岩メランジが発達し(図9)、ジュラ紀のチャート、枕状溶岩、塩基性片岩などのブロックを含む。

 エリストラートバ地域の斑れい岩や超苦鉄質沈積岩には斜方輝石や角閃石が多く含まれ、マントルかんらん岩は比較的枯渇していて、全体として島弧的なマグマ活動の産物であることを暗示している。しかし、南方のポボロートヌイ地域のマントルかんらん岩は肥沃なレールゾライトである。タイガノス半島東岸には、他の環太平洋地域と同様、岩石学的に多様な、形成場や形成年代の異なるオフィオライトが混在するらしい。今後は持ち帰った標本について岩石学的・地球化学的・地球年代学的な研究を進め、付加体中のオフィオライトに記録された大規模な海洋性火成活動の性質とスーパープルームとの関連を明らかにしたい。

 現地ではロシア科学院地質研究所(モスクワ)のS.D.Sokolov教授とO.L.Morozov氏に大変お世話になり、往路復路ではウラジオストックの極東地質研究所のS.V.Vysotskiy, O.V.Chudaev両氏、及びマガダンの北東科学センターのS.V.Byalobzhesky氏にお世話になった。この調査は科学技術振興調整費によって行われ、これについては東京工業大学の丸山茂徳教授と石井仁子氏、理化学研究所の斎藤智恵氏にお世話になった。以上の方々と調査に同行したスタンフォード大学のJ.Hourigan氏,及び船の乗組員ほか我々の調査を援助して下さった多数の方々に深く感謝する。


文献 (追加文献


Belyi, V.F. and Akinin, V.V. (1985) Geologicheskoe Stroenie i Ofiolity Poluostrova Elistratova (Geologic Structure and Ophiolites   in Elistratova Peninsula). USSR Academy of Sciences, North-East Science Centre (Magadan), 57 (Vol. 1) and 64 (Vol. 2) pp. 
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Ishiwatari, A. (1994) Circum-Pacific Phanerozoic multiple ophiolite belts. In: A. Ishiwatari et al. (Eds.) "Circum-Pacific Ophiolites: Proceedings of the 29th IGC, Vol. D", pp. 7-28. VSP Publ., The Netherlands. 
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石渡 明(1996)ロシア極東タイガノス半島のオフィオライト。総合研究(A)付加体形成における緑色岩の意義(代表:宮下純夫)、研究報告、No. 1, pp. 143-149. 
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図・写真

図1.タイガノス半島位置図及び調査地点位置図(Elistratova地域は1997年、他の3地点は1995年に調査)(齋藤作図)。
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図2.時代未詳タービダイト層。恐らく付加体上の前弧盆に堆積した。チャート・玄武岩層の間に断層で挟まれる(ポボロートヌイ地域、1995年石渡)。 (もどる)

図3.変形した付加体の地層(ナブリュデニー地域、1995年石渡) (もどる)

図4.エリストラートバ地域地質略図。Belyi and Akinin (1985)を簡略化し加筆した(齋藤作図)。以後の写真はすべて1997年にエリストラートバ地域で撮影。 (もどる)

図5.斑れい岩体に発達する火成層状構造(辻森)。右の写真は石渡撮影. (もどる)

図6.ハルツバージャイトを捕獲岩として含む斑れい岩(石渡)。 (もどる)

図7.粗粒斑れい岩中に貫入する細粒斑れい岩の岩脈。キャップは直径6cm(石渡)。 (もどる)

図8.オフィオライト北東部の輝緑岩岩脈群。ほぼ100%岩脈よりなる(辻森)。右の写真は石渡撮影. (もどる)

図9.オフィオライト北縁のメランジ(手前側。3つの山はブロック)と断層で接するジュラ紀火山岩(向こう側の丘陵地)(石渡)。 (もどる)
 


【2006年10月12日追加文献】 (文献にもどる)

Bazylev, B.A., Palandzhjan, S.A., Ganelin, A.V., Silantyev, S.A., Ishiwatari, A. and Dmitrenko, G.G. 2001. Petrology of peridotites from the ophiolite melange in Cape Povorotny, Taigonos Peninsula, NE Russia: Mantle processes beneath a subduction zone. Petrology, 9, no. 2, 142-160.

Ishiwatari, A., Sokolov, S.D. and Vysotskiy, S.V. (2003) Petrological diversity and origin of ophiolites in Japan and Far East Russia with emphasis on depleted harzburgite. In: Dilek, Y. and  Robinson, P. T. (eds) "Ophiolites in Earth History", Geological Society of London Special Publication, 218, 597-617.

齋藤大地・石渡 明・辻森 樹・宮下純夫・S.D.Sokolov (1999) ロシア極東タイガノス半島のエリストラートバ・オフィオライト:海洋底マントルに貫入する島弧オフィオライト.地質学論集, 52(「オフィオライトと付加体テクトニクス」), 303-316.

Sokolov, S.D., Luchitskaya, M.V., Silantyev, S.A., Morozov, O., Ganelin, A.V., Bazylev, B.A., Osipenko, A.B., Palandzhyan, S.A., Kravchenko-Berezhnoy, I.R. (2003) Ophiolites in accretionary complexes along the Early Cretaceous margin of NE Asia: age, composition, and geodynamic diversity. In: Dilek, Y & Robinson, P.T. (eds) "Ophiolites in Earth History", Geol. Soc. London Spec. Publ. 218, 619-664.

Tsujimori, T., Saito, D., Ishiwatari, A., Miyashita, S., Sokolov, S.D. (1999) Electron microprobe element image of zoned chromian spinel with hydrous mineral inclusions in a chromitite from Elistratova ophiolite, Far East Russia. Sci. Rep., Kanazawa Univ., 43, No. 2, 1-11. ( 文章にもどる)


 

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