国際オフィオライト会議'98(オウル大学・フィンランド地質調査所共催)報告

石渡明(金沢大・理)・中川充(地調・北海道)

(日本地質学会ニュース,1998年9月号掲載)    もどる→石渡ページ

 「地質時代を通じてのオフィオライトの形成と定置」をテーマとして,1998年8月10日〜15日に、地元フィンランドをはじめ露・伊・仏・日・米・ポルトガル・エジプトなど,世界20ヶ国から約70人の参加者を集めて開催された.

写真1.開会のあいさつをする主催者側のEero Hanski氏(フィンランド地質調査所)

 10-12日の講演会(於オウル大学)で,米国のMooresは,10億年前より古い時代の数少ないオフィオライトは,どれも地殻部分が非常に厚いので,原生代中期以前の地球の海洋地殻は大陸地殻に匹敵するほど厚かったとする、彼の1986年以来の持説を主張した.会議後に巡検する20億年前のJormua(ヨルムア)オフィオライトの海洋地殻部分は非常に薄く,顕生代のものと同様であるとの質問が出たが,それは例外だと答えた.カナダのScottは,同じく20億年前のPurtuniq(プルトニク)オフィオライトについて報告した.このオフィオライトは確かに地殻部分が厚いが,それは海嶺玄武岩組成の海洋地殻の上に海洋島玄武岩組成の火山体が載っているためで,これは原生代前期の海山の断片であり,原生代の海洋地殻が普遍的に厚かったとするMooresの説を支持するものではないと述べた.

 また,オフィオライト海嶺起源説をとる人にとって,オフィオライトの火山岩が島弧火山岩と同様の化学組成をもつことが悩みの種だったが,米国のElthonは,大西洋のSite 334や太平洋のチリ海嶺の一部では島弧マグマの性質を示す火成岩が海嶺から得られており,海嶺でもそのようなマグマが発生し得ることを指摘した.彼はまた,チリのタイタオ・オフィオライトを世界で最も若い(数Ma)ものとして紹介した.フランスのNicolasは海嶺上で発生するマイクロプレートがオフィオライトの形成と定置にとって重要だとする新しいモデルを提案した.これはキプロスやオマーンに見られる岩体全体の大きな回転を説明するのに都合がよい。

 ロシアのEfimovはウラル山脈極北部のオフィオライトに含まれるグラニュライト相変成岩は,オフィオライトが定置する前のドライな環境での沈み込みによって形成されたと解釈した.南アフリカのde Witは,34.8億年前という世界最古のジェームスタウン・オフィオライトについて,地殻部分の厚さは5ー6kmであること,わずか2千万年程度で海嶺的な環境から島弧的環境に変化したことを示し,顕生代オフィオライトとの形成過程の類似を指摘した.石渡は,ロシア極東地方タイガノス半島の「海洋底マントルに貫入する島弧オフィオライト」を報告した.中川は西太平洋地域のオフィオライトかんらん岩類の白金族元素組成に見られるルテニウム異常について報告した.

 写真2.ヨルムア・オフィオライトにおける巡検風景

13日以後は巡検で,Kontinenがヨルムア・オフィオライトの,氷河で削られた多数の素晴らしい露頭を案内し,この20億年前のオフィオライトが顕生代のものと何ら変わりないことを参加者に納得させた.14日はその南東方の始生代Kuhmo緑色岩帯,15日はオウトクンプ・オフィオライト内の銅・コバルト鉱山跡を見学した. 従来,オフィオライトの研究は欧州〜中近東の中生代のものを中心におこなわれてきたが,今回初めて,大陸楯状地の原生代前期のオフィオライトを,世界のオフィオライト研究者が一緒に巡検し,それが顕生代のものと全く同様であることを確認したことは意義深い.この会議の要旨集と巡検案内書は,既にGeological Survey of Finland Special Paper 26 として出版されている.

図3.ヨルムア・オフィオライト(1.96Ga)の層状岩脈群(氷河で侵食された羊背岩の表面の露頭).

写真4.ヨルムア・オフィオライト(1.96Ga)の枕状溶岩.

<以上>

石渡明(金沢大・理)・中川充(地調・北海道))

2001/06/21 21:20