火山学会ホームページ 「火山学者に聞いて見よう 」(新版) (旧版)
私は「火山学者」ではありませんが,どういうわけか回答陣に加わっています.
「Q&A火山噴火―日本列島が火を噴いている」出版のお知らせ
日本火山学会[編],講談社ブルーバックス,4月20日発売 [講談社のページ]
火山学会ホームページの「火山学者に聞いてみよう」コーナーを運営している中田節也教授(東京大学地震研究所,金沢大学出身)が,これまでのQ&Aから111の質問と回答を選んでまとめました.各章のタイトルは,1.あの山は大丈夫? 2.火山てどんな“山” 3.灼熱のマグマの正体は? 4.噴火で何が噴き出るのか 5.流れ出ているのは何? 6.火山大国日本の火山の特徴は? 7.ふるさとの火山について教えて 8.火山の恵みを知りたい! 9.火山の災害から身を守る法 となっていて,回答2つにつき1つ程度の説明図か写真が入っています.皆さん,どうぞお買い求めの上,ご一読下さい.
なお、下記の目次の中で*印がついている私の回答は、多少編集者が手を加えたり、私自身が編集者の求めに応じて少し書き換えたりしていますが、ほぼ原型を保ったままこの本に載っています。(*)印のものは、編集者がかなり書き換えたり、他の回答と合成したりしていて、本に載っているものが私の回答かどうか、よくわかりません。本の質問(Q)番号を下に記します.この本の回答者総数は32人(本の巻末に記載)ですから,一人平均3〜4問に答えていることになりますが,各人の回答数には相当開きがあるようです.(2001年03月12,
19日追加)
【中田先生からのお知らせ(2001年4月6日)】
講談社ブルーバックスシリーズとして以下の書籍が、4月20日、全国で一斉発売になります。これは日本火山学会のホームページQ&A「火山学者に聞いてみよう」の一部をまとめなおしたものです。
*********************************
B番号 1326
メイン・タイトル Q&A 火山噴火
サブ・タイトル 日本列島が火を噴いている!
編 者 日本火山学会
総ページ数 224ページ
ジャンル 地学
定価(本体) 860円
(税込み903円)
ISBN 25326-1
(帯文) 火山学者に聞いてみました。
………………………………………………………
揺れ続ける不安定な地下構造を持ち、90近い活火山が並ぶ狭い国土に暮らす私たち。次の噴火はどこで? 富士山はどうなる? 一般の人たちからの素朴で切実な111の質問に、専門家がやさしく答えた!
*******************************
目次 (もどる)
[火山の成因と海嶺・海溝の関係(*Q18?)] [地殻とプレートのちがい*Q19] [島弧はなぜ弓なりか?]
NEW[海洋地殻とプレートとアイソスタシーの関係] [さんご礁をもつ火山島はなぜ沈降するか]
[東太平洋海嶺が南北アメリカ大陸と衝突したら?] [中央海嶺とは?]
NEW[海嶺の地形 中軸谷の成因] NEW[海嶺の地形 太平洋と大西洋] NEW[火成岩の分類]
[溶岩の粘り気*Q37] [マグマのSiO2量と粘性の関係*Q37] [流紋岩の流紋と溶岩ドーム*Q54,Q55]
[柱状節理*Q61] [結晶がマグマの中で溶けちゃう?] [火山の成因と利用法(*Q95?)]
[花崗岩の形成場と火山の関係] [花崗岩は泥岩との接触部で流紋岩になる?] [火山と水の酸性度の関係]
[岩石の色について] [黒い珪素が酸化するとなぜ無色の石英になる?] [ハワイの緑色の溶岩]
[金沢付近の火山] [医王山の火山活動] [白山は活火山か] [白山の火山活動の歴史] [白山トンビ岩の成因]
[福井県の火山] [大日ヶ岳・鷲ヶ岳(岐阜県の火山)] [丹波篠山の大昔の火山?]
NEW[高松クレーター] [立山と立山カルデラに関する本] [立山カルデラと六甲山の花崗岩]
[偏光顕微鏡鑑定のヒント] [火山灰中のアルカリ長石の識別] [かんらん岩を見分ける方法]
NEW[かんらん石はオレンジ色?]
全回答数 37
1998年11月10日作成,2007年01月31日更新
柱状節理 もどる
溶岩についての質問です。 沖縄県の久米島にある畳石のことなんですが、あれは、太古に噴火がありそのと きの溶岩が、急激に冷えて固まって、あのような、きれいな六角形なしていると 聞いたのですが、実際に溶岩が固まるとあのように形作ることがあるんでしょう か。また、一つ一つの六角形が、柱状になっているとのことですが、どのような 条件があると柱状になるのですか? (6/18/99)
畳石研究中:大学生:23歳
私は中学3年生です。理科では地震や火山について勉強しています。そして、今 度の7月9日に野外観察で地層などを見に行きます。それで、私は「柱状節理」 について調べることになりました。インターネットで色々調べたのですが、どれ も言葉が難しくてよく分かりません。そこで、「柱状節理とはどんなもので、ど うやってできるのか」 を、簡単に、わかりやすく教えて下さい。よろしくおねが いします。 (6/21/99)
大分F中学校生徒W:中学生:15歳
● Answer
(6/22/99)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
●【質問】1997.10.21.
**************************
山が生きているという神秘性と今は静かな美しい火山が過去にそして未来に噴火を起こす
という自然美と自然の怖さという神秘性に魅せられ小学校のころから火山に興味を持ってきました。前回の質問では、即刻、丁寧にご回答していだだき、ありがとうございました。
再度の質問ですがよろしくお願いします。
石川と富山県境の医王山の火山記録について。医王山は火山とききましたが、過去の噴火はどのような噴火だったのでしょうか? 火砕流、火山灰、溶岩流などの過去の記録として残る、現存の火山活動の跡は、 どのようなところにあるのでしょうか。 また、石川県側から登った時、奥医王山頂までの小さなピークに小さな池がいくつかありましたが,これは火口湖と考えていいのでしょうか。 富山県側の医王山北西部ふもとに「桑山」という小さな山がありますが、小矢部市南部からみると側火山(寄生火山)の痕跡に見えるのですが、それともただの山でしょうか? 石川県側の戸室山にいくつか池がありますが、これは前述したような火口湖と考えていいでしょうか?
* * * * * * * * * * * * * *
Name=火山研究サラリーマン
Sex=男性
Job=会社員
Age=38
**************************
●【回答】1997.10.21.
お尋ねの件についてご回答いたします。医王山・戸室山地域は毎年2年生の野外調査実習で回っておりますので、ある程度土地勘があります。
>石川と富山県境の医王山の火山記録について。医王山は火山とききましたが、過去の噴火はどのような噴火だったのでしょうか?
答え:流紋岩質の溶岩と火山灰を噴出する激しい活動でした。
>火砕流、火山灰、溶岩流などの過去の記録として残る、現存の火山活動の跡は、
どのようなところにあるのでしょうか。
答え:医王山全体が火砕流や火山灰、溶岩流などでできています。夕霧峠には流紋岩溶岩が見られますし、黒瀑山周辺には黒曜岩ないし真珠岩の溶岩がみられます。しかし、最も量が多いのは、火山灰や軽石が降り積もった流紋岩質凝灰岩で、夕霧峠から石川県側へ下る林道沿いによく見られます。医王山累層と呼ばれるこの火山岩の地層の厚さは1000m以上あります。
>また、石川県側から登った時、奥医王山頂までの小さなピークに小さな池がいくつかありましたが、
これは火口湖と考えていいのでしょうか。
答え:これらは火口湖ではないと思います。医王山の火山活動が起きたのは1500万年程度前で、既に火山体は深く浸食され、もとの火山地形をとどめている所はどこにもありません。
>富山県側の医王山北西部ふもとに「桑山」という小さな山がありますが、小矢部市南部からみると側火山(寄生火山)の痕跡に見えるのですが、それともただの山でしょうか?
答え:「桑山」というのが地図に載っていないので、どの山かよくわかりませんが、上の答えと同じ理由で側火山ではないと思います。そもそも、現在の医王山の山頂付近が火山体の中心であったかどうかはわかりません。
>石川県側の戸室山にいくつか池がありますが、これは前述したような火口湖と考えていいでしょうか?
答え:戸室山とキゴ山は比較的新しい火山で、清水他(1988)の年代測定によると43-61万年前とされています。そして、戸室山は2〜5万年前に大崩壊して、周囲に岩屑流(岩なだれ)を押し出しました。市営放牧場や金沢ゴルフ場付近の池の一部は、この岩屑流にせき止められてできたものかもしれません。しかし、見上峠や医王の里付近の池は、南北方向の活断層の運動に関係してできた可能性があります。個々の池について詳しく調べたわけではないので、上で述べたことはあくまでも全体の地質からみた推論です。
●【質問】1997.11.1
> **************************
>
先日は質問に答えていただきありがとうございました。今、学校で火山の形につい
>て調べています。調べた結果、火山の形が違うのは溶岩の粘り気のせいだというこ
>とが分かりました。
>
粘り気が強い火山は昭和新山の様に鐘状でごつごつしていて、粘り気が強くも弱く
>もない火山は富士山のような成層火山ができる、また粘り気が弱い火山はキラウエ
>アのようなたて状火山ができるということが分かりました。
>
質問なのですが、その粘り気とは何かわかりません。何か違うものが中に入ってい
>るのですか?
> * * * * * * * * * * * * * *
> Name=松本 卓
> Sex=男性
> Job=中学生
> Age=15
> **************************
●【回答】1997.11.1
「粘り気」は、物質の流れにくさを表す「粘度」または「粘性」と呼ばれる物理量を、やさしい言葉で言い換えたものです。身近な物質を例にとると、水飴、練り歯磨き、マヨネーズ、トンカツソース、グリセリンなどは粘性が高く、水や灯油などは粘性が低いわけです。粘性の単位は「パスカル秒」(Pa・s)ですが、昔はポアズという単位がよく使われました。1Pa・sは10ポアズです。水の粘性は0.01ポアズ、グリセリンは15ポアズ(いずれも温度20℃)です。そして溶岩の粘性は、ハワイや富士山のような「玄武岩」では100−1000ポアズですが、昭和新山のような
「安山岩」や「流紋岩」では1000万〜1000億ポアズに達します。粘性というのは、つまり物体に力を加えて変形させたときの、内部の摩擦力の大きさです。
粘性は、同じ物質でも温度によって大きく変化します。例えば、水の粘性は、0℃では0.018ポアズですが、100℃では0.003ポアズになります。一般に玄武岩の溶岩は温度が高く(1100-1200℃)、安山岩や流紋岩の溶岩は温度が低い(850-1000℃)ので、まず温度の効果があります。同じ溶岩でも、温度が下がると、粘性が大きくなり、流れにくくなります。
もう1つ重要なのは溶岩の成分の違いです。溶岩の主成分は珪素と酸素が結合したシリカ(SiO2)という分子で、玄武岩にはSiO2が50%程度含まれ、安山岩では60%、流紋岩では70%と多くなります。この分子は次々に結合(重合)して糸のようになったり網状の構造を作る性質があるので、この分子が増えると粘性が大きくなります。水に片栗粉を溶かすとトロッとしてくるようなものです。従って、同じ温度でも、玄武岩の溶岩より流紋岩の溶岩の方が流れにくいのです。
そのほか、溶岩の中に含まれる気体(火山ガス)や結晶の量など、いろいろな要素が粘性に影響しますが、主なものは上に述べた通りです。
以上
●【質問】1997.12.18
> **************************
>
火山は、なぜ出来たのですか?また、火山の利用法などはないのですか
> * * * * * * * * * * * * * *
> Name=karen/s
> Sex=女性
> Job=中学生
> Age=15
> **************************
●【回答】
普通の岩石は1200℃くらいの温度まで熱すると、どろどろに溶けてしまいます。このようにして溶けた岩石をマグマと言います。地球は内部に多量の熱をたくわえていて、例えば日本で深い穴を掘ると、その穴の中では、深さ1kmごとに約30℃ずつ温度が高くなります。つまり、単純に計算すると、地下40kmで温度が1200℃になり、そこで
は、普通の岩石は溶けていることになります。実際には、深くなるほど圧力も高くなるので、岩石は溶けにくくなるし、地下40kmはもうマントルの中で、そこはカンラン岩という溶けにくい岩石でできているので、どこでも溶けているわけではありませんが、地球のマントルはプレート運動とともにゆっくり動いていて、マントルのカンラン岩が上昇しているような場所では、特に溶けやすくなります。溶けてできたマグマは集まって上昇し、それが地表に噴出する場所が「火山」です。
火山では、マグマが地下から多量の熱を運んで来るので、その熱を利用して地熱発電が行なわれています。この熱は温泉の水を温める役もしていて、入浴はもちろん、農作物の温室栽培などにも利用されています。富士山のような大きな火山体は、大気に上昇気流を生じてしばしば雨を降らせ、穴だらけの溶岩の中に多量の水をたくわえて、貴重な水源の役もしています。地下のマグマのそばでは、岩石から熱水へいろいろな元素が溶け込み、熱水の温度が下がるとそれらが沈澱して、銅・亜鉛などの金属鉱床を作るので、我々にとって貴重な資源を作り出してくれる役もしています。
以上
●【質問】1998.6.8.
**************************
先日、ハワイのキラウエア火山にいってまいりました。黒い溶岩を眺めているうちにふと気がついたのですが、日本の黒い溶岩と違います。なぜ、キラウエア火山の溶岩は緑色の光沢を持っているのでしょうか? 教えてください。
* * * * * * * * * * * * * *
Name=熊本のお姉さん
Sex=女性
Job=主婦
Age=25
-----------------------------
●【回答】
これは困りました。私はハワイに行ったことがないし、緑色の光沢といってもそれだけではどんなものか想像がつきません。たまたま熱水変質を受けて、緑色になった部分を見たのかもしれないし、ガラス質の溶岩の表面近くでの光の散乱のために偶然緑色に見える溶岩なのかもしれないし、かんらん石の斑晶を多量に含む溶岩で、その部分が緑色に見えるのかもしれないし、はたまた、表面にコケ類や菌類がへばりついていて緑色に見えるのかもしれません。
明るい緑なのか、暗い緑なのか、割った面が緑なのか、自然の面が緑なのか、緑色の粒が多量に入っていて緑に見えるのか、更に割っても中まで緑なのか、その辺の、もう少し詳しい観察がないと、私には、この質問には答えられません。大学にあるハワイの溶岩の標本は、普通の黒い玄武岩です。
以上
●【質問】1998.09.04.
**************************
「SiO2の含有量が増えるとマグマの粘性が高くなる」
もう何年も当たり前のようにそう思ってきましたが,何でだろうとふと疑問に思い,
手近な本で調べてみましたが,よさそうな答えが見つかりません.
なぜだか教えて下さい.
* * * * * * * * * * * * * *
Name=地質の学生
Sex=女性
Job=学生
Age=21
-----------------------------
●【回答】
久城育夫・荒牧重雄編、岩波講座地球科学3、地球の物質科学U、「火成岩とその生成」195ー206ページの「マグマの粘性」(久城育夫執筆)を読むと「珪酸塩メルト(マグマ)においては、Si-O結合が基本構造をつくっており、Si-O-Siの結合の程度によって粘性が変化するらしい。たとえば、SiO2のメルトに....金属酸化物を加えると、連続したSi-O-Siは金属原子が途中に入ることによって切れたり、あるいは弱い金属結合が間に入ることで、その付近の結合が弱くなったりする。その結果、粘性も低下することになる」と書いてあります(カッコ内は石渡が追加)。
要するに、Si以外の金属元素、特に鉄やマグネシウムを多量に含む玄武岩質のSiO2の少ないメルトは、Si-O結合が金属元素に断ち切られているので粘性が低いというわけです。これは、言葉を換えれば、SiO2分子の重合度が低くなっているとも言えます。たとえば、基礎的な有機化学で、メタン・エタン・プロパン・ブタン....と重合度が高くなるに従って、化合物の性質は気体から液体(石油)、半固体(ろう)へと変化し、液体の粘性も重合度が高い分子ほど大きくなるのを思い出すと、よく理解できます。マグマ中ではSiO4四面体が立体的な編み目構造をつくって大きな「SiO2分子」になっていると考えられますが、この分子の大きさは、鉄やマグネシウムなどの邪魔者が少ない(つまりSiO2が多い)ほど大きくなると考えれば、上で述べたアルカン類(パラフィン系炭化水素)との類似で理解しやすいと思います。但し、アルカン類では、一般に重合度の大きいものほど融点が高いですが、マグマでは、SiO2の多いものほど融点(結晶化温度)が低いので、このアナロジーには限界があります。
詳しくは、上記の本を読んでください。
●【質問】1998.10.04.
火山灰の岩石記載的特徴として、よく、他国由来の火山灰(例:白頭山、鬱陵島由来)はアルカリ長石を含むといいますが、アルカリ長石を顕微鏡で識別できるのでしょうか? 分析するために、鏡下で選別したいのですが、日本の火山起源のテフラに含まれる長石との区別ができなくて困っています。よろしくお願いいたします。
FUJINE:建設コンサルタント:24
●【回答】1998.10.08.
火山灰の鉱物同定は,地学団体研究会の地学ハンドブックシリーズ4「火山灰分析の手びき」にあるように,通常は双眼実体顕微鏡で鉱物の色や形態を観察して同定しますが,アルカリ長石の正確な識別には,偏光顕微鏡を用いる方がよいでしょう.
直交ニコル下で,常に暗黒に見える鉱物粒を探せば,その粒の光軸は鏡筒と平行になっているので,その屈折率はω(オメガ:一軸性の場合)またはβ(ベータ:二軸性の場合)です.アルカリ長石は,正長石がβ=1.522-1.533,サニディンがβ=1.523-1.525,アノーソクレースがβ=1.526-1.536です.それに対し,石英はω=1.544,斜長石はβ=1.534-1.583です.通常の火山岩に含まれる斜長石はカルシウムが多く,β>1.54のものがほとんどです.したがって,屈折率が1.536-1.540程度の1種類の浸液を使えば,それよりβが低いものはアルカリ長石,高いものは斜長石や石英(これら2種は劈開や双晶の有無などで区別できる)というようにはっきり区別できます.火山灰の中のアルカリ長石は通常サニディン-アノーソクレース系列のものですから,屈折率1.52-1.54程度の浸液を予め多数用意しておけば,屈折率を決定してだいたいの化学組成を知ることもできます.浸液は直接スライドグラスにつけず,細かく割ったカバーグラスに数滴つけて,それをスライドグラスにかぶせるようにするのがコツです.火山灰の粉をスライドグラスに薄く塗り広げておけば,この方向で能率的に屈折率を決定することができます.
また,直交ニコル下で暗黒に見える鉱物粒について,コノスコープ観察を行えば,アルカリ長石は斜長石よりも光軸角が小さいので,アイソジャイヤーの曲がり方から同定することも可能です.偏光顕微鏡の載物台に「スピンドルステージ」を取り付け,その針の先に鉱物粒を接着して,直交ニコル下で鉱物粒を様様な方向に回転させて光軸角を測定する方法も
あります.
いずれにしても,鉱物の偏光顕微鏡観察法について詳しく知りたい場合は,都城・久城の「岩石学T」(共立全書189)や坪井誠太郎の「偏光顕微鏡」(岩波書店,絶版)などを参考にして下さい.
また,もし既に長石だけを集めておられて,その中からアルカリ長石を分離したいという場合は,重液分離が最も簡単で能率的です.アルカリ長石の比重はだいたい2.60以下ですが,斜長石はそれ以上ですから,この比重の重液を用意しておけば簡単に分離できます.
●【質問】1998.11.27
> **************************
>
火山の成因について教えていただきたいですが。
>
さらに、火山の発生については海溝や中央海嶺などと何の関係を持っていますか。
> * * * * * * * * * * * * * *
> Name=林
> Sex=男性
> Job=学生
> Age=17
●【回答】1998.11.29
地球は,内部に多量の熱をたくわえていて,地下では深いところほど温度が高くなっています(通常の場所では深さ100mにつき3℃程度).しかし,深いところほど圧力も高くなり,圧力が高いと岩石の融解温度も高くなって,岩石は融けにくくなるので,大陸や海洋の通常の場所では,どの深さでも,地殻やマントルの岩石が融けるほどの温度にはなっていません.
ところが,マントルの岩石(かんらん岩)がゆっくりと(1年に数mm〜数cm程度)上昇する流れがある場所では,地下深くにあった高温の岩石(1400℃程度)が浅くて圧力の低い場所に運ばれるので,そこで岩石がわずかに融解し,玄武岩質のマグマが発生します.マグマは周囲の岩石より軽いので,集まりながら上昇し,ついには地表や海底に噴出して火山をつくります(噴出時の玄武岩マグマは1200℃程度).大洋中央海嶺の下には,マントルが湧き上がって両側へ拡がる流れがあり,海嶺の中軸地溝帯に沿って活発な火山活動が起きています.アイスランドやアファー三角地帯では,海嶺の火山活動の様子を陸上で見ることができます.ただし,海嶺から離れた場所でも,スポット状のマントル上昇流(プルーム)によって,大きな火山体が形成されることがあり,ハワイに代表されるこのような場所をホットスポットと呼びます.
海溝は,逆に下へ向かうマントルの流れがある場所で,そこではマグマは発生しません.しかし,斜めに沈み込む冷たいマントルの上側には,熱いマントルが浅いところに上がってきていて,そこで発生したマグマが,海溝と平行に伸びる数列の島弧火山帯をつくっています.東北日本の那須火山帯や鳥海火山帯はその例です.海溝からは,多量の水を含んだ海洋底の堆積物や変質して水を含んだ海洋地殻の玄武岩が,冷たいマントルと一緒に沈み込みますが,深く沈み込むと温度が高くなるので水が放出され,この水が上側の熱いマントル中に浸透して,そこの融解温度を下げて岩石を融け易くするとともに,海嶺やホットスポットとは違った,島弧特有の水に富むマグマを形成すると考えられています.
以上
市井では地質の”プロ”と称して生計を立てているおじさん:会社員:45
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
(11/23/99) TEG:小学校の教員:39
(10/18/99) たいママ:兼業主婦:28
●Answer
福井県には活火山はありません.地質調査所1981年発行の「日本の火山」という地図に載っている福井県内の火山は,火山体の一部が福井県内にはみ出ているものも含めて,大日山火山,経ヶ岳火山(取立山,赤兎山,法恩寺山を含む),願教寺山火山の3つです.これらは九頭竜川の北に,福井・石川県境に沿って西北西方向に並んでおり,岐阜県内の大日ヶ岳火山,烏帽子・鷲ヶ岳火山と合わせて「九頭竜火山列」をつくっています.
清水ほか(1988)による溶岩の年代測定結果は,大日山が330-357万年前,経ヶ岳は88〜134万年前,願教寺山は272-311万年前(133万年前というデータも1つあります)です.大日山と経ヶ岳の間には,もっと古い505万年前の火打谷溶岩や430-463万年前の谷峠溶岩もあります.
経ヶ岳火山の山麓を観察されたとのことですが,九頭竜火山列の中では,経ヶ岳火山が最も新しく,大野市側の山麓には,火山体の崩壊による流山や岩屑流堆積物が広く分布しています.しかし,最近数10万年間は噴火の証拠がなく,九頭竜火山列の他の火山も含めて今後噴火する可能性はほとんどないと考えられます.ただし,地震や集中豪雨などをきっかけとして,山体崩壊を起こし,災害をもたらす危険性はあります.
この他,福井県内の「火山」としては,若狭地方の高浜町西部に青葉山があり若狭富士とも呼ばれています.この火山は恐らく鮮新世(170-520万年前)のもので,かなり侵食されています.また,観光地として全国的に有名な東尋坊や越前松島など,三国海岸にも安山岩〜流紋岩質の溶岩や火砕岩が分布していますが,これらは約1300万年前のものです.一方,越前海岸一帯から丹生山地,福井市内(足羽山など)を経て丸岡町・金津町まで,そして南は勝山・大野を経て荒島岳まで,「グリーンタフ」とよばれる火山岩類が大規模に分布していますが,これは1600-2000万年前の激しい海底火山活動で形成されたものです.これらはいずれも相当古い時代のもので,青葉山以外は火山体の形を全く残していません.
以上,福井県内の火山について,概略を述べました.
(11/11/99)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
(02/20/00) 唐澤 譲 :中学校教員:31
●Question #- 532
●Answer
どうも読んだ本の書き方がまずかったようですね.
「地殻」と「プレート」は全く違う概念です.単純に言えばプレート=岩石圏(リソスフェア)であり,言いかえればプレート=地殻+最上部マントルです.地表からモホ面までが地殻で,厚さは海洋地域で約5km,大陸地域で約30kmです.その下がマントルですが,地下約100kmの深さのマントル中に地震波の速度が数%遅くなる柔らかい層(低速度層)があり,それより上が硬いプレートです.低速度層はアセノスフェア(軟弱圏,軟流圏,岩流圏などと訳す)とも呼ばれます.海嶺や島弧の下では,プレートが薄くてアセノスフェアが地殻の直下まで上昇してきている場所があり,そこでは地殻=プレートということになりますが,他の多くの場所ではプレートはもっと厚くて,100km程度の厚さがあるということです. 地殻は長石を主とした花崗岩や玄武岩・斑レイ岩でできていますが,最上部マントルは長石を含まないカンラン岩でできています.低速度層ではカンラン岩が部分的に溶けていると言われています.
(5/09/00)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室)
白山は活火山か もどる
●【質問】NO. 652
石川県にある白山は、死火山ですかそれとも休火山ですか近いうちに
活火山になるおそれがありますか。6月7日早朝にあった地震は、火山活動と関係ありますか?
Name=ひろみ
Sex=女性
Job=会社員
Age=32
●【回答】
白山は立派な活火山です.現在の気象庁の「活火山」の定義は「約2000年以内に噴火した火山」で,白山は西暦1042-1239年と1547-1659年に何回も噴火した記録があります.数え方にもよりますが,日本には活火山が86個あり(世界全体の1割以上),白山はその中の1つです.ただし,常時観測を行っている20個の活発な活火山の中には入っていません.金沢大学の河野芳輝先生らのグループは白山周辺で地震観測を行い,山頂の直下で火山性の微小地震が頻発していることを明らかにしました.これは現在もマグマが地下で活動していることを示します.石川県白山自然保護センターの東野外志男博士によると,昭和10年に山腹で噴気活動が発生したことがあり,白山のこれまでの火山活動には約400年の周期があるので,そろそろ次の活動期に入った可能性があります.白山は周辺の村落からも遠く,噴火しても直接的な被害が出る可能性は低いですし,火山性の地震や噴気活動など前兆現象に注意していれば,登山中にいきなり噴火ということにはならないと思います.金沢大学の守屋以智雄先生は大規模な火砕流や山体崩壊が発生した場合の被害を心配されています(白山では過去にそれらが発生した証拠があります)が,現時点で
特に差し迫った危険があるというわけではありません.6月7日の北陸地方の地震は海岸から100km程度離れた日本海の海底下で発生した地震で,白山の活動とは何の関係もありません.
白山の火山活動の歴史 もどる
(07/21/00)
マミー:高校生:16
これによると,白山で最も古いのは加賀室火山で,その溶岩のカリウム・アルゴン年代は42.7万年前と31.8万年前の2つの測定値が報告されています.白山の北西側山腹の「加賀室」付近から噴出したと考えられています.
次の古白山火山の溶岩のカリウム・アルゴン年代は13.2万年前と10.8万年前です.現在の地獄谷付近に中心をもつ大規模な富士山型の成層火山だったと考えられていますが,山体崩壊と侵食によって,現在は一部の溶岩だけが残っています.
新白山火山は現在の白山山頂部から噴出した溶岩や火砕流の重なりです.カリウム・アルゴン年代は,測定限界(10万年程度)より若すぎるため測定できませんが,広域火山灰層との上下関係から,8,000年以上前から活動が始まったことがわかり,歴史記録からは約350年ほど前まで何度も噴火していたことがわかっています.新白山火山は活火山で,将来も噴火の可能性があります.(8/3/00)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
流紋岩の流紋と溶岩ドーム もどる
質問1;「二酸化珪素が多い岩石は流動性に乏しく、少ない岩石は流動性に富む」わけですよね。したがって、流紋岩はきわめて流動性に乏しいと思うのですが、あの流紋は文字からすると流れた紋様となるのですが、どういうことなのでしょうか。
質問2;普賢岳にしろ有珠山にしろ安山岩のドームだと思うのですが、粘性が高いからドームをつくるわけですよね。マグマから水や火山ガスの抜けて、粘性を増しているのかなと思うのですが、とにかく溶岩ドームをつくるのは安山岩しか聞かない気がします。最初にも述べたように、二酸化珪素の量からすれば、流紋岩がもっともドームを作りやすいと思うのですが、聞いたことがありません。なぜ安山岩ドームばかりで、流紋岩ドームがないのでしょうか。
教えていての素朴な疑問ですがよろしくお願いします。
(08/17/00) 地学大好きの先生:中学理科教員:40
●Answer
質問1(流紋岩マグマは流動しにくいのになぜ流紋がある?)
流紋岩の流紋は,もともと化学組成や発泡の程度,結晶度や色が違う,流れにくいマグマのかたまりが不規則に混在していて,それらが流動によって引き伸ばされ,縞模様になったものだと思います.もし流れやすいマグマだったら,かきまぜると拡散して混じり合ってしまい,流紋は残りません.例えばコーヒーに薄い牛乳を混ぜてかきまわしても,白と黒の縞模様にはなりませんね.コーヒーに濃いミルクを混ぜると,最初は白と黒の流紋がはっきり見えますがそのうち均等に混ざってしまいますね.しかし,白と黒のチョコレートを少し暖めてかきまわし,均質になる前に冷やすと.きれいなマーブル模様のチョコができますね.粘性が大きく,なかなか混じり合わないことが,流紋が残る条件だと思います.流動しにくいからこそ,流紋があるのだと思います.
質問2(溶岩ドームをつくるのは安山岩マグマしかない?)
確かに日本では安山岩の溶岩ドームが多く,流紋岩のドームは少いですね.
【理由の第1】は,そもそも日本には安山岩の火山が多く,流紋岩の火山が少ないためです.「理科年表」の「日本の主な火山」には,北方領土の火山や寄生火山も含め,199の火山について岩石の種類が示してありますが,その中で流紋岩(SiO2>70%)はわずか8個,デイサイト(SiO2=62-70%)が18個,玄武岩(SiO2<53%)が34個で,残りの139個(70%)は安山岩(SiO2=53-62%)です.
【理由の第2】は,例として挙げられている普賢岳や有珠山の溶岩は,実は安山岩ではなく,デイサイトなのです.普賢岳の溶岩はSiO2=65%ですし,有珠の昭和新山の溶岩はSiO2=69%で,流紋岩に近いものです.つまりドームをつくる溶岩には,やはりSiO2に富むものが多いということです.
【理由の第3】は,流紋岩マグマは伊豆諸島の神津島・式根島や新島の南部のように溶岩ドームをつくることもありますが,マグマの粘性が大きいために火山ガスの圧力が高くなり,大爆発して火砕流や火山灰として周囲に撒き散らされてしまう場合が多いということです.十和田,八甲田,姶良,阿多などのカルデラ火山がその例です.
(8/18/00)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
●Question #- 1217 岩石の色について もどる
初めまして、授業で火成岩についてやったのですが、岩の色について教えてください 。色は岩中の鉱物の石英、黒雲母、輝石、長石、角閃石、カンラン石の量に関係して決まるそうですがその鉱物の色を出している物質、黒雲母だったらどんな物質が黒色、緑色の原因になっているのか青色だったら銅とか赤だったら第二酸化水銀などを教えてください 。
(10/31/00)
会長:学生:14●Answer
ある鉱物や岩石がどんな色を示すかは,様々な要因が複雑にからみ合って決まります.元素の種類だけでは決まりません.例えば,かんらん石や輝石は「有色鉱物」ということになっていますが,これは地球表層部のかなり酸化的な環境での話しで,例えば隕石中のかんらん石や輝石は,地球に落ちてきた直後は真っ白です.地球上で色が出る原因になっている元素は鉄で,鉄が少ないかんらん石や輝石は,地球の岩石でも淡緑色〜灰色です.流紋岩は鉄を含まない石英や長石が多いので,結晶質の場合は白色の岩石ですが,ガラス質の場合は半透明で,岩石内部で光が吸収されてしまうために黒く見えます(黒曜石など).長石も微細な赤鉄鉱の包有物を含む場合は濃い赤色になりますし(赤色花崗岩など).無色透明の長石でも,内部の細かな層状構造のために光が干渉して青色に見えることがあります(月長石).放射線の照射によっても無色透明の鉱物に色がつくことがあります(黒水晶など).まとめると,通常の岩石を造っている鉱物(造岩鉱物)の色を決めている元素は何かと言われれば,それは多くの場合「鉄」ですが,磁鉄鉱Fe3O4(黒色)または赤鉄鉱Fe2O3(赤色)の細かい結晶を含んでいるために色が出る場合と,鉱物の結晶構造の中に組み込まれている鉄イオンが色を出す場合とがあるということになります.もっと詳しく知りたい場合は,「地球色変化 〜鉄とウランの地球化学〜 叢書名:近未来科学ライブラリ− 中嶋悟 近未来社」を読んで下さい.
(11/1/00)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
大日ヶ岳・鷲ヶ岳(岐阜県の火山) もどる
●Question #- 1502
はじめて、質問させていただきます。
私は、名古屋市に住むものですが、スキーで大日岳、鷲ヶ岳方面によく出かけます。さて最近、鷲ヶ岳も大日岳も火山であることを知りました。そこで、鷲ヶ岳・大日岳について、どのような特徴があって、いつごろまで活動していたのか、また、今後活動を再開する可能性があるのかなど、教えて頂けませんでしょうか?(01/28/01)
ひろくん:教育関係:25
●Answer
どちらも岐阜県の火山だとしたら、「大日岳」は「大日ヶ岳」のことでしょう。日本火山学会のCD-ROM版火山カタログによると、体積16立方kmの火山で、溶岩のK-Ar年代値は93-103万年です。鷲ヶ岳は隣の烏帽子山と一体になった火山で、体積は66立方km、溶岩のK-Ar年代は120-150万年です。因みに、富士山の体積は548立方kmです。石川県にも「大日山」がありますが、これは330-360万年前の古い火山です。これらの火山は、間にある経ヶ岳、願教寺山とともに、石川・福井県境から岐阜県内にかけて、西北西−東南東方向に並んだ「九頭竜火山列」をつくっています。この火山列のうち、大日山と願教寺山は約300万年前を中心に活動し、経ヶ岳・大日ヶ岳・烏帽子・鷲ヶ岳は約100万年前を中心として活動しました。どれも安山岩の溶岩や凝灰岩を主とする成層火山ですが、玄武岩やデイサイトを含む火山もあります。この地域で、60万年前から現在までに活動した火山は、南北方向に並ぶ白山火山列をつくっており、九頭竜火山列が今後活動を再開する可能性はほとんどないと思いますが、経ヶ岳では大規模な火山体の崩壊が起こったことがはっきりしており、今後九頭竜火山列の他の火山でも、このような大崩壊が発生する可能性はあります。
(01/29/01)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
結晶がマグマの中で溶けちゃう? もどる
Question #1801 Q 初めまして^^/
レベルの低い質問ですが、質問します。
先日、授業で火山岩のスライドガラスの観察をしました。
大きな形の良い斜長石の結晶があって、その中に形の悪い別の斜長石が入っていました。
先生は、一回溶けて、そのあとにまた成長したのだと説明していました。
結晶がマグマの中でできるときに、溶けちゃうんですか?
マグマがもっと熱くなるのでしょうか?? (07/10/01)さおちゃん:高校生:18
A
この質問はかなりレベルの高い質問です.「結晶がマグマの中でできるときに,溶 けちゃう」ということは,不思議なようですが,実際によくあることです.溶ける原 因としては,(1)温度が上昇する,(2)圧力が低下する,(3)別のマグマや水 などの流体と混合する,などの場合があります.
斜長石は「固溶体」で,カルシウムの多いものからナトリウムに富むものまで,い ろいろな化学組成のものがあります.一般に玄武岩にはカルシウムの多い斜長石が含 まれ,安山岩,流紋岩とSiO2が増えるに従ってナトリウムに富む斜長石を含むように なります.これは,温度が下がって結晶作用が進行するに従って,マグマも斜長石 も,カルシウムの多いものからナトリウムに富むものへ,連続的に化学組成が変化す るためで,斜長石は「連続反応系列」とも呼ばれます.
さて,例えば地下のマグマ溜まりの中で,流紋岩質のマグマ(低温)の中に玄武岩 質のマグマ(高温)が入ってきて混合すると,流紋岩のマグマの中に浮いていた,ナ トリウムに富む斜長石は溶かされ,新たにもっとカルシウムの多い斜長石が結晶する ようになります.三宅島や有珠山の火山活動を見ても,マグマは数年〜数10年ごと に繰り返し上昇してきますし,その間の静かな時期にもマグマ溜まりの中で結晶作用 が進行しますから,結晶が成長したり,溶かされたりすることが繰り返し起きても不 思議ではありません.
ところで,これとは別に,ただマグマの温度が下がって,結晶が成長しているの に,ある温度まで下がると,その結晶が逆に溶けてしまうという不思議なことが起き ます.例えば,ある種の玄武岩質マグマの中で,カンラン石という鉱物が結晶化して いるのに,ある温度まで下がると,カンラン石が溶けてしまい,この温度以下では, 斜方輝石という別の鉱物が結晶し始めるのです.この場合は,マグマの結晶作用の進 行とともに,別の種類の鉱物が結晶するので,「不連続反応系列」と呼ばれます. (逆に温度を上げて斜方輝石を溶かすと,カンラン石+マグマになります.これは 「分解溶融」と呼ばれます.)
マグマは,いろいろな成分が混ざった複雑な液体なので,それが結晶化するときに はいろいろと不思議なことが起きます.水が0℃で氷になるような,単純な結晶化と はだいぶ違います.
(07/12/01)石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
黒い珪素が酸化するとなぜ無色の石英になる? もどる
Question #1925 | |
Q | 黒いケイ素と酸素が結びつくとなぜ無色の石英になるのですか?
(08/15/01) ミッチ−:中学生:14 |
A | これはトンチ問題みたいですね.私の知識ではこの問題にまと
もに答えることはできないので,問題の周囲を回るだけにしたい
と思います. まず珪素が黒いかどうかですが,純粋な珪素の結晶は金属 光沢を持っていて,表面は「銀色」です.理化学辞典によると 結晶質のものは「暗青灰色」,無定形のものは「褐色」と書いて あります.鉄,銀,亜鉛などの金属元素に比べて,色が濃いこと は確かなようです.ただし,例えば炭素の結晶も,石墨(セキボク, グラファイト)は真っ黒ですが,ダイヤモンドは無色透明であるよう に,同じ元素でも結晶構造によって色は大きく変化します. 次に酸素が結びつくと無色になるという点ですが,酸化物の 色は様々です.酸化アルミニウム,酸化マグネシウム,酸化 亜鉛などは白色ですが,鉄は酸化すると黒い磁鉄鉱になり, 更に酸化すると赤い赤鉄鉱になります.マンガンの酸化物も, 酸素とマンガンの割合によって,黒,緑,赤など様々な色を呈し ます.そもそも,酸素自身が必ずしも無色ではなく,例えば酸素 を冷却して液体にすると,青い色になるそうです.オゾンも酸素 だけでできているガスですが,やや青みを帯びていて,冷却固 化させると黒紫色になるそうです. 要するに物質の色というのは元素の種類だけでは決まらず, 元素の結合の状態によって大きく変わります.これは,物質を通 過する(または反射される)光の性質は,その物質をつくる原子 の一番外側の電子に影響されていて,隣の原子との結合状態 を決めているのもこの外側の電子だからです.石英もわずかな 不純物の存在や放射線を照射することによって黒,紫,黄など 様々な色を呈します.物質の色の問題は不思議で,だれでも 疑問に思うことですが,きちんと説明するのは難しいことです. (10/11/01) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) |
Question #2362 さんご礁をもつ火山島はなぜ沈降するか もどる |
|
Q | さんご礁の形成について調べ、ダーウィンの沈降説を知りました。しかし、なぜ火山が沈降するのかいまいち分かりません。詳しく教えてください。 (06/26/02) ようこ:学生:19 |
A | サンゴ礁が火山島の沈降に伴って裾礁→堡礁→環礁へと変化するというのがダーウィ
ンの沈降説です.しかし,例えば南西諸島や琉球列島などのサンゴ礁には隆起して段
丘になっているものもあり,隆起するか沈降するかはその場の構造的な条件によりま
す.海洋の真中にある火山島がなぜ沈降するかは,プレート構造論でうまく説明でき
ます.つまり,海洋底のプレート(リソスフェア)は海嶺でのマグマ活動で形成され
ますが,両側に拡がっていくにつれて冷却され,それとともにプレート(硬い岩石の
層)が厚くなっていきます.海嶺では数kmだったプレートの厚さが,海嶺から何千
kmも離れると100km以上の厚さになります.プレートは,その下の高温でやわらかい
岩層(アセノスフェア)の上に浮かんでいるので,プレートが厚くなれば,それに比
例してプレートは沈みます.それで,ある場所の海面から海洋底までの深さは,その
場所の海洋底の年代(海嶺で形成されてから現在までの経過時間)とともに深くなる
という顕著な関係があり,海嶺付近では海の深さは2000m程度ですが,1億年くらい
前の古い海底の深さは5000m以上になります.海洋底のプレートが沈む(沈降する)
なら,その上に載っている海山(火山島)も当然沈降します.また,火山島自身が,
マグマ活動の沈静化とともに地下の温度が低下し,周囲に対してそれ自身が沈降する
という局地的な動きもあります.これらによって裾礁→堡礁→環礁と変化する理由が
説明できますが,それだけでなく,山頂部が波に削られて平らになり,それが沈降し
てできた平頂海山(ギヨー)が海面下にたくさんあることも説明できます.この考え
方は杉村新先生の教科書「グローバルテクトニクス」(東大出版会)の第VI章に詳し
く説明されていますので,是非読んで下さい.
(07/02/02) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室) -- |
Question #2344 東太平洋海嶺が南北アメリカ大陸と衝突したら? もどる | |
Q | 世界の海底地形図を見ていて思ったのですが、太平洋プレートの生産地である東太平洋海嶺は、はるか未来には大西洋の拡大に伴って西進してくる南北アメリカ大陸と衝突してしまうのではないでしょうか?もしそうなったら海嶺や大陸はどうなってしまうのでしょうか?
(06/23/02) しろしろ:フリーター:24歳 |
A | 東太平洋海嶺は,実はもうすでに北米大陸と「衝突」しています.南米沖の東太平洋
海嶺はメキシコの沖で北米大陸に接近し,カリフォルニア湾で北米大陸に割って入っ
ています.そして米国北部沖〜カナダ沖で再び海底に現れます(ファンデフーカ海
嶺).両者の間の部分は,サンアンドレアス断層に代表される長大な横ずれ断層系に
なっています.この地域の内陸側では,大陸下のマントル上昇流が地殻の構造に大き
く影響しており,ネバダ州〜ユタ州のベーズン・アンド・レンジ地域では大陸の地殻
が薄くなっていますが,これらの原因が海嶺衝突かどうかはわかりません.
また,南米沖ではココスプレートとナスカプレートの境界のガラバゴス海嶺がエクア ドル〜コロンビア付近で大陸と「衝突」していますし,ナスカプレートと南極プレー トの境界のチリ海嶺がチリ南部で大陸と「衝突」していますが,そこで特に変わった 現象が起きているわけではありません.しかし,インド洋中央海嶺がアフリカ大陸と 「衝突」している部分ではアデン湾と紅海の海嶺がアフリカ大陸からアラビア半島を 分裂させていますが,これはアファー三角地帯(ジブチ付近)にホットスポット(マ ントルからの上昇流)があって,そこが東アフリカリフト帯とこれらの海嶺との三重 点になっていることが原因と考えられます. つまり,海嶺が大陸と衝突するだけなら,たいしたできごとは起きませんが,大陸の 下に大きなホットスポットがきて,そこから3本の海嶺が派生するような状況になる と,大陸が分裂すると考えられます.最近は,日本海のような縁海の形成も広域的な マントル上昇流(ホットリージョン)の働きによるという説があり,地球上の大陸が 全部集まった「超大陸」の形成やその分裂には,マントル底部からの数千km規模の上 昇流(スーパープルーム)が関与したという説が有力です.地球の固体部分の変動 は,プレートの動きだけでは説明できず,もっと深いところのマントルの動きが重要 視されるようになってきています. (07/03/02) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室) -- |
立山と立山カルデラに関する本 もどる
Question #2454 | |
Q | 今度、立山カルデラの体験学習会に参加する予定の地学の素人教師なのですが、この貴重な機会を使って体験学習以外にぜひ貴重な資料があれば記録に残したり採集して帰りたい(特に岩石類)と思っています。何かありましたら教えてください。また、それが(漠然としすぎて)困難である場合は事前に呼んで置いたらいいような本、資料があれば教えてください。
(07/31/02) 青葉マーク1号:教員:40 |
A | 「立山カルデラの体験学習会」ですか.いい天気に恵まれることを祈ります.実 は,昨年金沢で開催された日本地質学会の見学旅行に「立山カルデラ―新湯・砂防と 跡津川断層」コースがありました.この見学旅行は幸い好天に恵まれ,地形,地質, 鉱物,断層など様々な見どころを予定通り廻って大成功でした.やや専門的になりま すが,そのコースの見学旅行案内書(赤羽久忠ほか著)があります.しかし,これは 同学会の他の10コースの見学旅行案内書と合冊になっていて,分売はできません. 合冊は若干残部があり,一般の方には\3,000でお分けしています.必要な場合は石渡 まで連絡して下さい.
体験学習会が無事に成功し,大きな成果を得られるよう期待します.
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) -- |
丹波篠山の大昔の火山? もどる
Question #2477 | |
Q | 初めまして。自分が中学生の時に聞いた話ですが、丹波篠山付近に大昔富士山より高い火山があったと聞いたのですが、本当でしょうか?
(08/12/02) シゲ:会社員 :29 |
A | 私はあまり丹波篠山(たんばささやま)付近の土地カンがないのですが,回答を試みます.1998年に出版
された「ひょうごの地形・地質・自然景観」(兵庫県監修,田中眞吾・中嶋和一編)
という本には篠山付近(丹波)の見所がいくつか紹介されています.その中に山南町
の「白亜紀火砕岩中の二次噴気孔」という節があります.篠山盆地周辺は中生代ジュ
ラ紀から白亜紀前期の堆積岩類が広く分布しているのですが,盆地の西方から南方に
かけて,白亜紀後期(1億年前〜6500万年前)の火山岩類がこれらの堆積岩類を覆っ
ています.「丹波篠山付近に大昔火山があった」というのは,恐らく山南町〜今田町
〜三田市にかけて分布するこれらの火山岩を指すのだと思います.しかし,1/5万地
質図幅「篠山」によると,これらの火山岩はほとんどが流紋岩質の火砕流堆積物で,
富士山の本体を作るような安山岩や玄武岩の溶岩はありません.上で紹介した本の
「二次噴気孔」というのは,火砕流が堆積して冷却するときに,堆積物の中から出て
くるガスが表面に噴出する孔で,直径10cmほどの丸い模様が岩盤一面に散在する面白
い(気持ち悪い)ものです.従って,篠山盆地の西から南にかけて,白亜紀後期に火
山があったことは確かだと思いますが,これは富士山のような安山岩〜玄武岩質の成
層火山ではなく,十和田火山や阿蘇火山のような流紋岩質のカルデラ火山で,富士山
ほど高い山ではなかったと考えられます.
(08/12/02) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) |
立山カルデラと六甲山の花崗岩 もどる
Question #2478 | |
Q | 先日、立山カルデラの質問をしたものです。体験学習会の日は快晴で非常に有意義でした。ところで私は関西に住んでいて六甲山によくいくのですが。六甲花崗岩は浸食を受けると岩石に含まれる鉄が酸化して溶け出して茶色っぽくなるように思うのですが。立山の花崗岩は緑っぽい色に変色しているような気がします。これはどうしてなのでしょうか…。
(08/12/02) 青葉マーク1号:教員:40 |
A | 体験学習会は天候に恵まれ,有意義だったそうで,よかったですね.立山カルデラ 内に露出する花崗岩は,地質図によるとジュラ紀の船津花崗岩類で,一部は変成作用 や変形作用(マイロナイト化)を受けています.緑っぽい色はおそらく緑簾石(りょ くれんせき:鉄・カルシウム・アルミニウムに富む珪酸塩)の色で,変成作用を受け た花崗岩中に散在していたり,石英と一緒に幅数cm程度の緑色の脈として花崗岩を 貫いたりしています.飛騨山地一帯に広く分布する船津花崗岩類には,緑簾石がごく 普通に含まれており,露頭で黄緑〜緑色を呈するものも多いです. 六甲山の花崗岩は白亜紀末期のもので,船津花崗岩類より1億年程度新しい時代の ものです.そのためか変成作用はほとんど受けておらず,緑簾石もあまり見られませ んが,仰るように「深層風化」が進んでいて,地表付近のものはほとんど真砂(マ サ)化しています.これが原因で,兵庫県南部地震の時は六甲山の山腹に多数の斜面 崩壊が生じました.私は昨晩ある会合に招待され,六甲山の山頂でバイキングを食べ てきましたが,あの曲がりくねった道路や急斜面に立つレストランの下に深層風化し た花崗岩があると思うと,ちょっと心配でした.その時ご一緒した神戸大学の先生 は,「学生を六甲山に連れて行っても,新鮮な花崗岩を見せることができないので残 念だ」と仰っていました. (08/12/02) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) -- |
偏光顕微鏡鑑定のヒント もどる
火山についてのQ&A集 |
|
---|---|
Question #2689 | |
Q | 偏光顕微鏡を使用して、岩石の同定等を命ぜられました。何がどういう風にすればよいのか全くわかりません。花崗岩、安山岩、玄武岩くらいの説明をしなければなりません。なにかひんとをください。取り留めのない質問ですみません。
(09/17/02) くずきり丸:アルバイト:30 |
A | あなたが偏光顕微鏡や岩石についてどの程度の知識と経験をお持ちなのかわからな いので,具体的な指導はできませんが,大学で一通り偏光顕微鏡の原理を理解し,使 い方を覚え,岩石学の基本を学習し,岩石鑑定の実習を受けて,一応普通の岩石を同 定できるようになるまでには最短でも1年間かかります.大学の地学関係の先生と相 談し,「科目等履修生」として勉強させてもらうのが最も早道だと思います.岩石は 動物や植物と違い,それぞれの種類が固有の色や形を持つわけではないので,図鑑と 見比べただけでは同定困難な場合がほとんどです.従って独学での鑑定はどうしても 間違いが多くなりますが,それでもやってみようという場合は,次の書籍のうちのど れかを購入し,よく読みながら勉強して下さい.いずれにしても,偏光顕微鏡で見る 岩石の世界は非常に美しくて奥が深く,単に「鑑定技術を身につける」以上の経験が できると思いますよ.
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室) |
島弧はなぜ弓なりか? もどる
Question #3464 | |
Q | 典型的な鳥弧・海溝系地形であるアリューシャン列島、千島列島、日本列島などの形状は、潜り込む太平洋プレートに向かって凸の形状になっているように見えますが、これは単なる偶然なのでしょうか?理由があるとすれば何なのでしょうか?
(11/20/02) 19歳 学生:学生:19 |
A | 島弧がなぜ弓なり(弧状)なのかという疑問は誰もが持つと思います.私は岩
石学をやっていて,地球物理学には疎いのですが,深尾良夫氏の「地震・プレ
ート・陸と海 地学入門」(岩波ジュニア新書92,
2000年)の165頁に「島弧
はなぜ弓なりか」という節があり,「ピンポン玉ペコペコモデル」という面白
い考え方が述べられているのをみつけたので,これをザッと紹介することにし
ます.学生さんは是非このような一般向けの本を何冊も通読して下さい.
島弧―海溝系は海洋プレートが沈み込む場所ですが,地球の表層を覆うプレー トが地球内部に向かって凹んでいる場所と見ることもできます.しかし,プレ ートは平板ではなく,地球を覆う球形の殻ですから,ちょうどピンポン玉のよ うなものです.ピンポン玉を2つに切り割って半球形の「プレート」(太平洋 プレートだと思って下さい)を作り,その切断部を指で内側に曲げ(沈み込ま せ)ようとすると,どうしても凹みの周囲が円弧の形になります.プレートの 縁全体を沈み込ませようとすると,円弧が連なったペコペコの形になります (西太平洋の状態).ただし,島弧の中にはトンガ弧やニューヘブリデス弧, アンデス弧中部などのようにほとんど直線に近い場合もあり,必ず円弧になる というわけではありませんが,一般的にはこの考え方(ペコペコモデル)で説 明できそうです.プレートが平板でなく,湾曲した板であるため,これを内側 に曲げると必然的にその縁が弧状になるということだと思います. これとは別の考え方もできます.沈み込み帯は地下700kmに達する大断層で, 巨大な「地球の切れ目」です.例えばミカンを地球に見立て,表面からナイフ で適当な角度で切れ目を入れると,ナイフを垂直に立てた場合以外はミカンの 表面に表れる切れ目の形が弧状になります.これはプレート論が広まる以前か らあった考えですが,弧状になる原因はやはり地球が丸いためです. しかし,インドネシアのバンダ弧のように極端に湾曲した島弧の場合は,指で
凹ませたり平面的なナイフで切り込むモデルだけでは説明できません.ウェー
ゲナーが「大陸と海洋の起源―大陸移動説」(都城・紫藤訳,岩波文庫)の上
巻181-191頁で述べているように,オーストラリア大陸の北西への移動によっ
て,もともと緩いカーブを描いていた島弧が押し曲げられてヘアピン型になっ
たという考えに説得力があります. 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) -- |
かんらん岩(蛇紋岩)を見分ける方法 もどる
|
|
---|---|
Question #3741 | |
Q | 大学4年生で卒論を書いているものです。卒論は「富士海岸の海岸浸食対策」という題名なのですが、富士海岸には現在、海岸侵食対策として三重県鳥羽市菅島産のかんらん岩を養浜材料として海に投入しています。その投入されたかんらん岩がどの辺まで、どのくらいの量が、流されていっているのか?を調べているのですが、現在かんらん岩を見分ける方法として 1.まず見た目で黒っぽいものを見分ける。2.比重を計って重いものを(密度が3くらい)見つける。ということをやっているのですが、作業行程1のかんらん岩の見分け方がどうも微妙で、安山岩なども一緒に持ってきてしまいます。なんとか比重を測定しなくても「これかんらん岩だ」と分かる方法はないでしょうか?目で見分けるコツとかあったら教えてください。あと、もしほかに見分ける方法があれば教えてください。勝手な質問ですいません。お願いします。
(01/05/03) おの やまと:学生:22 |
A | 面白そうな卒論研究ですね.石の大きさにもよりますが,何m程度沖 までかんらん岩が流されているのか私も興味があります.鳥羽菅島産の岩石を 使っているのは,採石場から目的の海岸まで船で低コストで運 べるからでしょうか. さて,かんらん岩を見分ける方法ですが,菅島のかんらん岩は相当蛇紋岩化 しているので,必ずしも水に対する比重が3.0以上とは限りません.ほぼ完全に 蛇紋岩化している場合の比重は2.7程度で,花崗岩や安山岩と同様になります. 比重が3.0以上で黒い石だったら絶対にかんらん岩かというとそうでもなく,菅島 に産する斑れい岩や角閃岩でも,黒くて比重3.0以上のものがあります.しかし, 角閃岩でも斑れい岩でも,菅島から来た岩石であれば,この研究の場合 はかんらん岩と区別できなくても構わないわけで,むしろ富士川上流や周辺の 海岸から自然に流されてきた黒い玄武岩,安山岩,頁岩などから区別できれば, 目的は達せられるわけですね. 玄武岩や安山岩は斜長石という長方形の白い鉱物を含むことが多く,火山 ガスの発泡による気泡(穴)があることが多いですが,かんらん岩や蛇紋岩 はこれらを含みませんから,斜長石や気泡の有無でだいたい区別 できるでしょう.玄武岩,安山岩,黒色頁岩の比重は普通2.6-2.9程度で,3.0 以上になることはまずありませんから,岩石の鑑定に自信がなければ, とにかく黒い石をたくさん取ってきて,一生懸命比重を計るのが得策でしょう. 海岸でそれぞれの種類の小石を集め,大学の地学関係の先生に直接確認 してもらって,「これは間違いない」という標本セットを作り,それをいつも持 ち歩いて,現場で比べながら判断すると,間違いが少なくなります. それから,もう一つ,アッと驚く裏技をお教えしましょう.それは磁石を使う 方法です.ピップエレキバンや黒板貼付用の丸磁石などを細いヒモの先につけ, ヒモの他端を持ってぶら下げた状態で岩石に近づけると,多かれ少なかれ磁石は 岩石に引かれます.これは岩石に磁鉄鉱が入っているためです.蛇紋岩や 蛇紋岩化したかんらん岩は特に磁鉄鉱が多いので,磁石が岩石に吸い付いて逆 さにしても落下しないほど強い磁力を持ちます.新鮮なかんらん岩の磁力は微弱 ですが,そういう物は菅島には稀です.玄武岩や安山岩もかなり磁鉄鉱を含 みますが,蛇紋岩ほど強くはありません.黒い頁岩や砂岩の磁力は,普通は微弱 です.この方法は比重が小さい蛇紋岩にも適用でき,これでかなり区別 できるはずですから,是非試してみて下さい. なお,菅島のかんらん岩に関する最近の研究として,「水上知行(2002)ミカブ 帯菅島超苦鉄質岩体の斜方輝石の産状と組成層状構造.岩石鉱物科学,31, 87-96」があるので,是非読んでみて下さい. (01/05/03) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) |
花崗岩は泥岩との接触部で流紋岩になるか?もどる
Question #3878 | |
Q |
花こう岩が貫入して接している泥岩などは接触変成岩になることを習いました。そのとき貫入岩体としての花こう岩の中心付近はゆっくり冷えるので、花こう岩になるとは思いますが、泥岩と接している貫入岩体の部分は、急冷されるので流紋岩になるのでしょうか?それとも、花こう岩は底盤として存在するので、その場所の地温が高くて接しているところは急冷されず、ゆっくり冷やされて花こう岩になるのでしょうか。
(02/21/03)
うみぞう:高校生:17 |
A | これは花崗岩体のサイズにもよりますが,接触変成帯があまり発達しない小さな岩 体の場合でも噴出岩(火山岩)の典型的な「流紋岩」と全く同じような岩石にはなり ません.流紋岩は一般に石英や長石の「斑晶」がガラス質または微晶質の「石基」に 埋まっている組織をしていますが,花崗岩体の周縁相は石基の結晶がかなり成長して いたり,全体が細粒結晶の集合体になっていたりすることが多く,「流紋」(流れの 模様)も見られません.接触変成帯が発達する大きな花崗岩体の場合は,周縁の境界 近くまで粗粒な花崗岩のことが多いですが,周縁部では「アプライト」や「グラノフ ァイアー(文象斑岩)」といった白色細粒な岩石の岩脈が粗粒な花崗岩や周囲の母岩 の中に貫入していることがよくあります.特に花崗岩体が石灰岩に貫入した部分では こうした岩脈が多く,境界部付近には珪灰石,灰鉄輝石,ベスブ石などの鉱物や銅・ 亜鉛・鉄などの鉱石が形成されていることがあります(「スカルン鉱床」).日本国 内は至るところに花崗岩体があるので,是非近くの露頭に行って,実際に花崗岩体の 周縁部がどうなっているのか,ご自分で観察されることをお勧めします.関東なら丹 沢山地や甲府盆地周辺,関西なら京都東山や六甲山周辺に見所がたくさんあります. (02/22/03) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) -- |
白山火山,トンビ岩のでき方 もどる
Question #3984 | |
Q | 質問するのは久しぶりです。 火山研究サラリーマンです。 2002年8月に9年ぶりに白山登山を行いました。1日目は頂上まで行き、室堂に宿泊しました。ご来光をみるために、早朝早く起きました。今までみたことがない見事な天の川と真夏のオリオン座に感動しました。 質問の本題です。8年前に遠くから見たトンビ岩の印象が強く、トンビ岩を見るために、下山ルートは南竜ヶ馬場経由で下山したのですが、トンビ岩のほかにも大きな岩石が多い印象を持ちました。下山しながら思ったのですが、トンビ岩は黒ボコ岩同様に白山の火砕流によってできたものなのか?、白山火山の火道がそのまま地表に出現したものなのか?どちらでしょうか。自分としては火砕流説たと思いますが。。 よろしくお願いします。 (06/02/03) 火山研究サラリーマン:会社員:44 |
A | 白山火山のトンビ岩については,高橋正樹・小林哲夫両氏編の「フィールドガイド 日本の火山6,中部・近畿・中国の火山」(築地書館, 2000年)の80-81ページに, 守屋以智雄氏によるわかりやすい解説があります.新白山火山で最も古い黒ボコ岩火 砕流(数万年前?)の次に,約2万年前に南龍溶岩流が噴出しました.この溶岩流 は,室堂東方から南方向へ南龍ヶ馬場を横切って更に下流まで全長3km以上流れま した,この溶岩流の両側には,溶岩堤防がよく発達します.これは,溶岩流の両側の 部分が急冷されるために早く固まり,まだドロドロ状態の中央部は流れ去って「溶岩 の水位」が低下し,その状態で固まったために,溶岩流の両側が中央部より高い堤防 のような地形になっているものです.トンビ岩は,中央部の溶岩が流れ去る時に,溶 岩堤防の内側を引き剥がして行ったためにできたものです.トンビ岩は南龍溶岩の西 側の溶岩堤防の一部で,その100mほど東に反対側の溶岩堤防があります.従っ て,火砕流で運ばれてきた大きな溶岩塊(パン皮状火山弾のような冷却割れ目が発達 する)である黒ボコ岩とは,成因が異なります.白山には他にも面白い火山地形が沢 山あります.上記の本を読んでから,また白山に登って観察してみて下さい. (06/03/03) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) -- |
中央海嶺とは? もどる
Question #4106 | |
Q | 高校時代に火山のなかには、中央海嶺に沿って分布するものがあると習いました。 この中央海嶺とは、海嶺の大規模なものなのか大西洋中央海嶺の略称なのか また別のものを意味しているのか。このサイトを見つけ、高校時代からの 疑問を思い出しなんとか解決し、すっきりしたいのでよろしくお願いいたします。 (07/23/03) 高校時代の疑問:会社員:30 |
A | 「中央海嶺」は「大洋中央海嶺」(mid-oceanic
ridge)を縮めた言い方です.大西洋,インド洋,南太平洋のほぼ中央にある「海底山脈」です.東太平洋海膨は太平洋の中央にはありませんが,地質構
造から言うと中央海嶺の仲間です.もっと短くして,単に「海嶺」ということもありますが,海嶺には小規模な海洋性島弧や縁海の中の山脈状の高まりも含ま
れ,本来はもっと広い意味の言葉です.意味を広げずに言葉を縮めるには,「中央海嶺」が限度ということでしょうか. (08/17/03) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) |
高松クレーター もどる
Question #5325 | |
Q |
香川県高松市にあります屋島の成り立ちが、1300万年昔の溶岩流による、その後の地形の逆転によりできたものだったとのことでした。先日新聞で、同時期に発生した、大きなクレーターが発見され、その位置での重力が高いとの報道でした。当時のこの地は、瀬戸内火山帯で活動期の火山がたくさんあったものと考えられます。どっちにしても、クレーターのその当時の形は、全く変わってしまっているのでしょうが、今は落下した隕石が表面近くに露出しているのではと考えられます。その分析とかでどんな種類のものと考えられているのですか。その当時の陸地のうえには、どんな生き物がいたと考えられられますか。その隕石の衝突で、その近辺の火山活動がどのように変化するんのでしょうか。 、 (11/27/03) 大西 慧:社会人:60 |
A | 高松クレーターは,高松市仏生山町の法然寺付近を中心とする直径約4kmの円形,深さ1〜2kmの地下の盆地状構造です.厚い堆積物が溜まっているの
で,表面の大部分は周囲の平野と同じ高さの平らな土地になっており,飛行機や山の上から眺めても盆地状の地形は判別できません.また,クレーターの範囲
内にはデイサイト質溶岩や流紋岩質凝灰岩の小山が8つほどあります.高松クレーターは,金沢大学の河野芳輝先生らが,詳しい測定によってこの地域の重力
が異常に低い(「高い」は誤りです)ことを見出し,発見したものです.
この盆地状構造の成因については,隕石衝突説と火山カルデラ説が唱えられ,それぞれの説を支持する学者が現在でも口角泡を飛ばして議論していて,まだ決 着しておらず,国際的にもまだ「隕石孔」とは認められていません.仰るように,高松付近は「瀬戸内火山帯」に属し,この火山帯には愛媛県石鎚山や愛知県 設楽盆地などの火山性陥没構造(過去のカルデラ)があります.高松クレーター内部の掘削試料が厚い火砕流堆積物であること,隕石説の証拠となる高圧変成 鉱物が未発見であることなどから,今のところ火山カルデラ説(コールドロン説)の方が優勢のようです.どちらの説にせよ,高松クレーターが形成されたの は第三紀中新世の1400-1300万年前頃と考えられますので,人類はまだ存在しなかったでしょうが,いろいろな哺乳類がいたと思います.もっと詳し く知りたい場合は,次の書籍や論文,講演要旨を参照して下さい. ・河野芳輝編(1996),高松クレーターの謎を探る.四国新聞社.高松,231頁. 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) |
海嶺の地形 中軸谷の成因 もどる
Question #5452 | |
Q | 社会人になってからプレート・テクトニクスのような地球科学の基礎的な書籍から遠ざかっておりましたが,最近,ケネス・J・シュー博士が書かれた「地球科学に革命を起こした船グロマー・チャレンジャー号」を読む機会があって,たいへんおもしろく読ませていただきました。その時から疑問に思っている中央海嶺の形態について,質問させて下さい。 大西洋中央海嶺は,海底から比高2〜3kmで,中軸部は正断層によって明瞭な中軸谷が形成されているということです。新しい溶岩はこの中軸谷の谷底付近から噴出し,ここがプレートの拡大軸となっているようです。しかし,ここから拡大が進むとすると,大陸地域のリフトバレーと同じように中軸谷の幅が拡がるのみで,現在の大西洋中央海嶺で見られるような幅の狭い中軸谷の両側に海嶺頂上部をもつ断面形態は維持できないと思うのですが,何か私の考えが及ばない特別な機構があるのでしょうか? 私の貧弱な頭で思いついた考えは, @溶岩の噴出と中軸谷の拡大・形成が交互に起こり,中軸谷から大量のマグマを噴出する時期には大量の噴出物が中軸谷を海嶺頂上部の高さまで埋め,その後マグマが噴出した場所で拡大が生じて中軸谷が形成された。 A中軸谷を形成した正断層が,拡大によって移動するとともに逆断層的に動いて,変位を解消しながら高くなって海嶺頂上部を形成した。 くらいです。ただ,Aの動きは比較的狭い範囲で,応力状態が変わらなければならないので,難しいような気がします。どのように考えられているのか教えて下さい。 (02/20/04) 地質コンサルタント:社会人:48 |
A | 私もプレート拡大境界のテクトニクスを専門に研究しているわけではないので,教科書的な知識とアフリカのジブチにおける観察(昔,「地球大紀行」の取材
に同行した)に基づいてお答えします.ジブチではインド洋中央海嶺が地表に露出しています.海嶺軸と平行な正断層が何本もあり,軸から両側へ高くなる階
段状の地形が見事に発達しています.1978年にこの海嶺軸上で噴火が起こり,アルドゥコバという小さな火山ができました.この前後の期間は海嶺軸に
沿って地震が頻発し,この間に海嶺軸の両側で最大2m地殻が拡がり,海嶺軸付近の中軸谷は50cm以上沈下しました.この部分は乾燥した陸地ではありま
すが,標高は海面下150m程度にもなります.重要なことは,このような「拡大イベント」の時は正断層が活動して地殻が両側へ拡大し,中軸部が沈降しま
すが,通常この地域全体としてはゆっくり隆起していることです.これは下から熱いマントル物質が湧き上がってくるためで,海嶺軸の両側の階段状の地形全
体がドーム状に盛り上がっている部分も見られます.つまり,正断層が逆断層のように動いて中軸部が盛り上がるのではなく,一度できた正断層はそのまま,
またはやや外側に傾くようにして両側へ運ばれ,中軸部の新しく形成された火山岩の地殻に新たな正断層ができると考えられます.これは「アキレスと亀」の
ような話で,考え出すと難しくなりますが,実際の事例に即して理解することが肝要だと思います.ジブチと同様の火山活動と地殻の動きは大西洋中央海嶺上
のアイスランドでも見られますが,拡大速度の大きい東太平洋海膨では隆起速度も大きいためか,中軸谷の地形が不明瞭になっています.丸善の「空からみる
世界の火山」の50節や61-64節を読まれるとよいと思います. (02/23/04) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室) |
火成岩の分類 もどる
Question #5476 | |
Q |
以前地学を教えたころから疑問を抱いて幾年月、微妙なケースが出題されない入学試験はいいものの、刺さる小骨が気になるように、今となっては興味本位、学会ではどうなっているのか気になります。すなわち火成岩の分類表に、{火山岩,(半深成岩,)深成岩}と{(超塩基性岩,)塩基性岩,中性岩,酸性岩}という2成分でまとめた表がありますが、その後者の成分は{SiO2比,色指数,造岩鉱物の比率,酸化物の比率}のいずれをもって普通は定義されているのか宜しければ教えていただけないでしょうか。
(04/20/04)
AXY:高校生/大学生:28 |
A | 日本の高校地学の教科書ではご指摘のような火成岩の分類表が用いられていますが,地質学,岩石学,地球化学などの学会では,国際地学連合 (IUGS) の分類案が尊重されています.これは,火山岩については,化学組成(主にシリカSiO2と全アルカリNa2O+K2Oの量)を用い,深成岩については鉱 物の量比(モード組成)を用いるやり方です.火成岩は鉱物の種類と割合で分類するのが基本ですが,火山岩はマグマの急冷によって形成されるために結晶の 成長が悪く,多かれ少なかれガラス(分子の構造は液体と同じ)を含み,ガラスの多い岩石(例えば黒曜石)は鉱物の量比では分類できないためで す.IUGSの分類案 (Le Basほか, 1986, Journal of Petrology, 27, 745-750; 1991, Journal of the Geological Society, London, 148, 825-833) によると,アルカリが少ない通常の火山岩は,SiO2=45-52%が玄武岩,52-57%が玄武岩質安山岩,57-63%が安山岩,63-69%がデ イサイト,69%以上が流紋岩(ただし,69%以上でもアルカリが非常に少ないものはデイサイト)となっています.IUGSの分類案は,「記載的である こと」,「解釈に基づかないこと」,「広く用いられている語であること」,「数値で区分されること」,「分類が単純であること」,「可能な限りモード組 成に基づくこと」,「不可能な場合は化学分析値によること」など10条の基本方針に基づいています. 火山岩と深成岩を一緒にした日本の教科書の分類表は,日本や外国の岩石学の専門書ではあまりお目にかかりませんが,非常にわかりやすく説明に便利なの で,今後も使っていけばよいと思います.縦に深成岩・半深成岩(2種類)・噴出岩,横に鉱物成分をとって岩石名を並べた表は,坪井誠太郎先生の「岩石学 I 」(1939岩波全書,手許にあるのは1950第7刷,p. 22の第3表)に載っており,恐らく戦後地学の教科書を作る時に,誰か気の利いた人がこの表にSiO2量の目盛りや鉱物量比の図を加えたのでしょう.そ の後1980年代に「半深成岩」が削除されて,現在の形になりました.教育的には優れた表だと思います. (05/05/04) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) |
海嶺の地形 太平洋と大西洋の違い もどる
Question #5500 | |
Q | 海嶺について 北大西洋海嶺は側面から見て激しいジグザグが見られるが、太平洋海膨は名前があらわすように ふわっとしている。 この違いはどこから来ているのか? 私は 大西洋か異例は ウェゲナーの言う大陸移動説による考えの通り元は大陸だったため マグマが噴出したときは 急激に冷やされて枕状溶岩というか 激しい亀裂があつが 太平洋のほうは海水の中の地下深くゆっくり冷えて固まったので 亀裂のような激しい野が見られないのだと思うが。 プレートテクにクスの説明で葉どのように違いを言えばいいのだろうか? よろしくお願いいたします。 大陸移動説にまで 結びつけるのは 無理があるかな? (06/01/04) ムーミンママ:社会人:50 |
A | 「太平洋海膨は...ふわっとしている」という表現は実に女性的で的確ですね.大西洋中央海嶺と東太平洋海膨では,プレートの拡大速度が2倍くらい違 う(太平洋が速い)ので,海嶺下のマントル内でのマグマ発生量も太平洋の方が相当大きいと考えられています. 大西洋では,プレートの拡大は主に正断層で引きちぎられるようにして行われているのに対し,太平洋では多量のマグマが噴出・固結して新しい海洋地殻が どんどん形成され,海嶺の両側へ移動しているようです.従って大西洋の海嶺軸付近では,マントルかんらん岩が多くの場所で海底に露出している(つまり, そこには地殻がない)のに対し,太平洋ではそういう場所は非常に少ないことがわかっています.このように,2つの海嶺の地形の差は,プレート拡大速度, 拡大様式,マグマ供給量の差(この3つは互いに密接に関連)によるものという解釈が一般的だと思います. (06/02/04) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) |
Question #6157
Q
先日、海嶺で形成された海洋プレートは海嶺から離れるにつれ厚くなり、それにともなってアイソスタシーを保つために海洋底はマントル内に沈み込むため、海洋底の水深も海嶺から離れるにつれて深くなる。との記述を見ました。確かに海洋底の水深は深くなっているので、海洋プレートが厚くなっているのは何となくわかるのですが、海洋地殻の厚さが水深が深く(2000メートルは深くなっているように思えるのです)なっているのに見合うだけ海洋地殻が厚くなっているとは思えないのです。プレートが厚くなっているというのは、マントル部分が厚くなっているということでしょうか?そうであるならば、どのような仕組みでアイソスタシーは成立しているのでしょうか?教えていただけたら幸いです。
(05/22/06)
masa:社会人:28
A
この辺のことは杉村新氏の「グローバルテクトニクス」という教科書(東大出版会)の第VI章「大洋底リソスフェアの生成」に詳しく書いてありますので,是非お読み下さい.
まず,おっしゃるように,「プレートが厚くなっているというのは,マントル部分が厚くなっているということ」です.プレートは「リソスフェア」とほぼ同義で,(地殻)+(硬くて重くて冷たい最上部マントル)のことです.海洋底のリソスフェアの厚さ(d
km)と年代(t Ma)の間には,d=7.5×(tの平方根)という関係があります(Maは百万年).つまり,できたてのリソスフェアは厚さ0
kmですが1億年前(100 Ma)のものは厚さ75 kmということになります.この75 kmのうち海洋地殻は表面の5 km程度で,残りはマントルです.
アイソスタシーは海洋底全体でよく成り立っていることが,重力異常の測定からわかっています.しかし,大洋底では密度の大きいリソスフェアが密度の小さいアセノスフェアの上にあるために,リソスフェアが厚い部分は沈んでいます.これは地殻(密度小)とマントル(密度大)の間のアイソスタシーとは逆の関係になります(山脈など地殻の厚い場所は地形的に高くなっている).海洋下のマントルの密度の逆転構造(上のリソスフェアが重く,下のアセノスフェアが軽い)は根本的に不安定なので,この不安定を解消するために,プレートの縁でリソスフェアがアセノスフェアに沈み込んでいくと考えられています.
(05/23/06)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
Question #6333
Q 授業でカンラン石について調べました。
教科書では、緑色でしたが顕微鏡で観察したカンラン石はオレンジ色でした。
学校の先生に色の事で質問をしたところ成分の率で色は変わると教えてもらいました。
けれど、どんな成分がどのくらいの率で何色に変わるのか知りたいです。
カンラン石の色の変化について詳しく教えて下さい。 (12/27/06)
のだかん:中学生:13
A
う〜ん,カンラン石がオレンジ色でしたか.私は今までカンラン石を含む岩石をいろいろ見てきましたが,岩石薄片(プレパラート)を顕微鏡で見て,オレンジ色に見えるカンラン石はあまり見たことがありません.
学校で使用したのはどんな顕微鏡でしたか? もし偏光顕微鏡だった場合,直交ニコル(クロスニコル)の状態で観察した時の鉱物の色は,実際の色とは関係ない「干渉色」になります.カンラン石は複屈折(鉱物の中を光が通る時に,屈折率の違う2つの光に分かれること)の程度が大きいので,干渉色は赤・青・緑・黄色などの派手な色になります.オレンジ色の場合もあるでしょう.この場合,岩石薄片をステージの上でグルッと回転させると,1回転の間に4回,90度ごとに暗くなるはずです.干渉色は,例えば雨の日に駐車場の水たまりに自動車からこぼれた油が浮いていると,油も水も無色透明なのに,表面には様々な色が現われますが,あれと同じ原理で見える色です.
もし単ニコル(オープンニコル・平行ニコル)の状態または偏光板がない生物顕微鏡などで見たのにオレンジ色だった場合は,そのカンラン石は,火山が噴火したときに,溶岩や噴出物の中で酸化されて変質している可能性があります.そのようなカンラン石は,周辺部から黄色や褐色(オレンジ色の場合もある)の「イディングサイト」と呼ばれる物質に変化し,ついには全体が黄色〜褐色になってしまいます.この場合,中心部には無色透明のカンラン石が残っていることが多く,残っていない場合でも,周辺部と中心部で色の違いが見られる(中心部の色が薄い)ことが多いです.
上で述べたような場合以外,カンラン石は顕微鏡(単ニコル)で見るとほとんど無色透明ですが,肉眼で見るといろいろな色のものがあります.「カンラン」というのはオリーブのことで,英語ではカンラン石のことを「オリビン」と言います(ただし,中国の「カンラン」とヨーロッパの「オリーブ」とは,本当は別の種類の木だそうです.名古屋圏などではキャベツのことを「カンラン」と言うそうですが,キャベツの色からついた名前ではありません.また,宝石名としては「ペリドート」と言います).従って,カンラン石にはオリーブ色(緑色)のものが多いのですが,上で述べた「イディングサイト」になっているものは黄色〜褐色に見え,鉄が少ないカンラン石は灰色に近いものもあります.隕石の主成分もカンラン石ですが,隕石中のカンラン石は真っ白のことがあります.隕石の場合,カンラン石はかなり鉄を含んでいるのですが,宇宙空間は地球上に比べると酸素が少ないので,鉄が還元されて色が消えているのだと思われます.
同じ物質でも,色はいろいろな要因で変化します.色に惑(まど)わされないように気をつけて,色の変化を楽しんで下さい.
(12/28/06)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)