学会講演要旨集

金沢大学理学部地球学科 石渡研究室

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[1996年度の目次]

地惑関連学会合同大会合同大会(1996年3月26〜29日.大阪大学.)

  • 大浜 啓・石渡 明「北陸地域,岩稲累層中の単斜輝石の巨晶を含む玄武岩岩脈の岩石学」
  • 辻森 樹「中国山地三郡-蓮華帯,大佐山蛇紋岩メランジュ中のオンファス輝石岩を貫くオンファス輝石−Na普通輝石脈」
  • 寅丸敦志・石渡 明・松澤真樹・中村 克・荒井章司「佐渡島小木ピクライト岩床における気泡レーヤリング」
  • 日本地質学会(1996年4月3〜6日.東北大学.)

  • 石渡 明「環太平洋地域のオフィオライトかんらん岩の岩石学的多様性について」
  • 辻森 樹「中国山地の三郡-蓮華帯:古生代後期のフランシスカン型高圧変成帯」
  • 三鉱学会「日本鉱物学会・日本岩石鉱物鉱床学会・日本資源地質学会秋季連合学術大会」(1996年9月26〜29日.金沢大学.)

  • 辻森 樹「飛騨山地九頭竜地域,上部ジュラ系手取層群中の中圧-低圧型泥質変成岩礫」
  • 辻森 樹・板谷徹丸「Phengite K-Ar ages of the tectonic blocks within the Osayama serpentinite melange: 320 Ma blueschist metamorphism of the Sangun-Renge metamorphic belt」
  • 石田勇人「新第三系中新統北陸層群鷲走ヶ岳月長石流紋岩の岩石学的意義」
  • 石渡 明・古橋美恵「ロシア極東コリヤーク山地マイニッツ帯及びタイガノス半島のオフィオライトの岩石学的性質」
  • 石渡 明・大浜 啓「北陸地方の新第三系岩稲累層(グリーンタフ)を貫くショショナイト質単斜輝石玄武岩脈」
  • 石渡 明・辻森 樹・齋藤大地「1995年2月18日落下根上隕石の岩石学的性質」

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    北陸地域,岩稲累層中の単斜輝石の巨晶を含む玄武岩岩脈の岩石学

    大浜 啓・石渡 明 (金沢大 理学部)

    (コメント: この要旨の内容はその後進化発展して,次の論文として公表されました.石渡 明・大浜 啓(1997)北陸地方の中新統岩稲累層中の単斜輝石玄武岩脈:ショショナイト系列を含む多様な陸弧マグマと単斜輝石斑晶の成因.地質学雑誌,103, 565-578.)


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    新第三系中新統北陸層群鷲走ヶ岳月長石流紋岩の岩石学的意義

    石田勇人 (金沢大 理学部)

    The petrological significance of Early Miocene moonstone rhyolite, Mt. Wasso in the Hokuriku district, central Japan.

    Hayato ISHIDA (Kanazawa Univ.)

     鷲走ヶ岳月長石流紋岩 (石川県石川郡鳥越村鷲走ヶ岳北麓) は,新第三系中新統北陸層群最下 部に位置する層厚約80mの流紋岩質溶結凝灰岩である.岩石の発達史を知るため岡山大学固体 内部研究センター (当時,地球内部研究センター) で87Sr/86Sr 同位体比を測定したところ,非常 に相関の良いRb-Sr全岩アイソクロン (MSWD=0.27) が得られた.その初生同位体比は 0.708971±0.000075 であり,年代値は19.5±0.6Ma であった (石田ほか, 1995,岩鉱学会発 表).しかし,なぜ単一の溶結凝灰岩中のRb/Sr比が大きくばらつき (0.17-12.1),この様な相関 の良いアイソクロンが得られたのか,その解答を示すことができなかった.今回はこの岩石の岩 石学的・地球化学的特徴を再検討し,その成因及び得られた年代値の意味について考察した.

     鷲走ヶ岳月長石流紋岩は大きく上・下部に区別でき, 下部は下位から,@非溶結凝灰岩層, Aピッチストーン層,上部はBリソフィーゼ層,C強溶結凝灰岩層,D弱溶結凝灰岩層によって 構成される.Aのピッチストーン層はユータキシチック組織の発達した強溶結凝灰岩であり,扁 平な本質岩片を多量に含む.Bのリソフィーゼ層はピッチストーン層の直上に位置する.本岩層 のリソフィーゼ (リソフィーゼとは中央部に気泡を持つ大きなスフェルライト様の楕円体) は 平均長径約8cmのノジュール状楕円体であり,中央部にメノウが発達していて一見同心円状の 構造を見せる.しかし,溶結凝灰岩のユータキシチック組織は同心円状構造とは無関係に伸びて いる.このリソフィーゼ層は上位ほどその外形が不明瞭になり,中央部のメノウも葉理に平行な アメーバ状となって上方ではC強溶結凝灰岩層〜D弱溶結凝灰岩層に漸移する.このAピッチス トーン層及び直上に発達したBリソフィーゼ層及びメノウの形態変化は,凝灰岩の溶結作用の際 にピッチストーンから絞り出された高温の揮発性成分の上方への移動・滞留が成因と考えられる.

     岩石の地球化学的性質を検討すると,下部ピッチストーン層はCaO (2.28-2.41 wt.%), Sr (506- 672 ppm), Cs (54.3-82.2 ppm) に富み,K2O (1.52-2.72 wt.%) に乏しいのに対し,上部溶結凝灰岩 はCaO (0.13-0.27 wt.%), Sr (22-39 ppm), Cs (1.1-1.9 ppm) に乏しく,K2Oに富む (6.18-7.76 wt.%) 性質を持つ.下部ピッチストーンのCaO含有量は上部溶結凝灰岩の8〜19倍,Srは13〜31倍, Csは29〜75倍であり,K2Oの含有量は1/5〜1/2倍,Rbは約1/2倍である.この様なLIL元 素含有量の対称性はまさに揮発性成分の移動を示唆していると考えられる.また逆にいわゆる HFS元素は岩層に関わらずほぼ一定である (Zr=436-487 ppm, Y=70-97 ppm, Nb=30-34 ppm). この事は従来から言われているようなHFS元素の流体中での安定性を支持している.

     この流紋岩中のRb/Sr比の多様性は溶結時の揮発性成分の移動と密接な関係があると考えら れることから,得られたRb-Sr年代は月長石流紋岩の噴出年代を示している可能性がある.


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    中国山地の三郡-蓮華帯:古生代後期のフランシスカン型高圧変成帯

    辻森 樹 (金沢大学理学部)

    Sangun-Renge belt in the Chugoku Mountains: a Late Paleozoic Franciscan type high-pressure metamorphic belt

    Tatsuki TSUJIMORI (KANAZAWA UNIV.)

    【はじめに】中国山地に断片的に分布する三郡-蓮華変成岩(関宮-大屋地域,若桜地域志谷層,大佐山蛇紋岩メランジュ)は本来,1つの高圧変成帯を構成していたものと考えられ,青色片岩の岩石学的検討から,その一連の変成作用の性格を明らかにした.

    【三郡-蓮華青色片岩の産状】三郡-蓮華青色片岩は大江山オフィオライトのカンラン岩体に衝上される小岩体(志谷層,関宮-大屋地域)か,蛇紋岩メランジュ中のテクトニック・ブロック(大佐山蛇紋岩メランジュ)として断片的に産する.従って,温度・圧力構造を連続的に追うことは不可能である.大佐山蛇紋岩メランジュの構造的上位に塊状カンラン岩が存在することから,この蛇紋岩メランジュは大江山オフィオライトの衝上運動により形成された,構造的なメランジュ帯と考えられる.

    【青色片岩の鉱物共生関係】中国山地の三郡-蓮華青色片岩は主としてCa-Al含水珪酸塩鉱物と角閃石の種類により,変成度の異なる3つのグループ(Fig.a-b: タイプ氈C,。)に分類できる.タイプ汾ツ色片岩は石英+アルバイト+流体相+緑泥石(C)を過剰とする系(Fig.c)においてローソン石(L)(パンペリー石(P))+藍閃石(G)の鉱物組み合わせにより特徴づけられ,鉄の多い全岩組成(FeO*/SiO2>0.2)においてはNa輝石(N)(Jd32Ae50)+ローソン石(Fe3+に富む)+ヘマタイト(H),クロス閃石+パンペリー石±Na輝石(Jd28Ae29)の組み合わせが安定となる.タイプ青色片岩は緑レン石(E)+藍閃石±ヘマタイト,緑レン石+パンペリー石+藍閃石の組み合わせで特徴づけられ,変成度が高いとザクロ石が安定である.タイプ。青色片岩はウィンチ閃石ないしバロア閃石の存在で特徴づけられ,橋本(1972)のバロア閃石帯の一部に相当する.タイプ汾ツ色片岩のNa角閃石にはタイプ青色片岩のそれよりリーベック閃石成分に富むものが存在し,タイプ青色片岩にはタイプ氓謔閭`ェルマック閃石成分に富むものが多い.しかし,いずれの青色片岩に含まれるNa角閃石も藍閃石成分に富み(最大Al2O3=13wt.%),リーベック閃石・アクチノ閃石成分に乏しく,三郡-智頭変成岩中の角閃石とは組成傾向が全く異なる.タイプ青色片岩の一部には藍閃石と共存するアクチノ閃石が見られ,アクチノ閃石と緑泥石との間のFe-Mg分配関係(KDAct-Cpx=0.56)はアクチノ閃石が青色片岩相で形成したことを示す.志谷層のタイプ。青色片岩ではウインチ閃石とアクチノ閃石が共存し,Na角閃石を欠くことからタイプ-青色片岩より低い圧力/温度比が示唆される.

    【エクロジャイト相の発見】最近,辻森(1995年2月岩鉱学会講演)は大佐山蛇紋岩メランジュにおいて最高変成度のザクロ石を含むタイプ青色片岩ブロックの緑レン石斑状変晶中の包有物としてザクロ石(KDGrt-Cpx=8.7−10.9)+オンファス輝石(Jd42)+ルチルのエクロジャイト相(約15kbar−620℃)の鉱物組み合わせを発見した.変成組織及び鉱物の組成共生関係は緑レン石-角閃岩相からエクロジャイト相を経て青色片岩相に至る反時計回りの圧力温度経路を示す(Fig.a).また,エクロジャイト相以前の変成作用は三郡-蓮華帯で見られるタイプ。青色片岩や大江山オフィオライトに伴う中圧型緑レン石-角閃岩,志谷層中のザクロ石-ホルンブレンド片岩(新発見)を形成した変成作用と一連であった可能性がある.

    【他の高圧変成帯との比較】タイプ-青色片岩において,ローソン石+藍閃石から緑レン石+藍閃石への鉱物組み合わせの変化は,フランシスカン帯(FRN),ニューカレドニア,神居古潭帯(KM)と同等で,三波川帯(SB),常呂帯(TR)より高圧の変成相系列示す(Fig.b).ところが,Na輝石+ローソン石+ヘマタイト+緑泥石の鉱物組み合わせは4成分(Ca-2Al-2Fe3+-Fe/Mg)7相(L-P-E-N-G-H-C)系におけるシュライネマーカースの解析ではローソン石+藍閃石の安定領域の低温・低圧部に出現するので,その組み合わせが見られる三郡-蓮華帯(SR)や神居古潭帯ではその低温部に限りフランシスカン帯やニューカレドニアより低圧であったのかもしれない.

    【結論】鉱物の組成共生関係の示す非常に高いP/T比,青色片岩相の後退作用を被ったエクロジャイト相や角閃岩の存在,青色片岩相より後の低圧での後退変成作用を欠くことはフランシスカン変成帯に極めて似ており,古生代後期の揚子地塊縁にフランシスカン型の沈み込み帯があったと考えられる.


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    中国山地三郡-蓮華帯,大佐山蛇紋岩メランジュ中のオンファス輝石岩を貫くオンファス輝石−Na普通輝石脈

    辻森 樹 (金沢大学理学部)

    Omphacite - sodic augite vein in an omphacitite block from the Osayama serpentinite melange in the Sangun-Renge belt, Chugoku Mountains: Tatsuki TSUJIMORI (Kanazawa Univ.)

    【はじめに】オンファス輝石は青色片岩相からエクロジャイト相の高圧変成岩や蛇紋岩に伴う交代性のアルカリ輝石岩(石英を欠く)に含まれる.また,ヒスイ輝石と透輝石の中間的な組成をもつオンファス輝石と透輝石の間には組成ギャップが存在することが知られている(例えば,Carpenter, 1980b, Contrib. Mineral. Petrol., 71).今回,岡山県北西部の大佐山メランジュにおいて,オンファス輝石岩ブロック中の細脈から共存するオンファス輝石とNa普通輝石のペアを見出したので,それらの産状・化学組成及び,オンファス輝石−Na普通輝石間の組成ギャップについて報告する.

    【大佐山蛇紋岩メランジュの地質】大佐山蛇紋岩メランジュにはエクロジャイト相の鉱物組み合わせを残したザクロ石藍閃石片岩(辻森,95年2月岩鉱学会講演要旨)をはじめ,ローソン石-青色片岩,緑レン石-青色片岩,曹長石岩,ヒスイ輝石岩(Kobayashi et al., 1987, Mineral. Jour., 13),オンファス輝石岩,含クロムオンファス輝石トレモラ閃石岩(辻森,95年10月三鉱学会講演要旨)などが大江山オフィオライトの蛇紋岩(ハルツバージャイト起源)中に大小の構造岩塊として産する.

    【オンファス輝石とNa普通輝石間の組成ギャップ】片理に平行なマトリクス中のオンファス輝石の化学組成はJd37.1−46.3Ae0−2.5Aug53.8−60.4であるのに対し細脈中のNa普通輝石(Jd4.3−6.3Ae0−0.4Aug93.6−95.6)と共存するオンファス輝石の化学組成はJd46.1−53.9Ae0−8.39Aug37.68−51.2とマトリクス中のオンファス輝石よりヒスイ輝石成分に富む.これまで共存するオンファス輝石とNa普通輝石(あるいは共存する2つのCa−Na輝石)は三波川帯五良津緑レン石角閃岩岩体(Jd35−Jd15,Jd44−Jd10: Enami & Tokonami, 1984, Contrib. Mineral. Petrol., 86),イタリア ピーモント帯(Jd35−50−Jd3−12: Brown et al., 1987, Contrib. Mineral. Petrol., 67),フランシスカン帯(Jd28-41−Jd8-15: Carpenter, 1980a, Am. Mineral., 65; Jd32−Jd50: Murauyama & Liou, 1987, Jour. Metamorphic Geol., 5)などから報告されている.Carpenter (1980b)のモデルによれば低温になるほどソルバスは拡大する.大佐山メランジュのオンファス輝石岩に見られる組成ギャップ(Fig. 2: Jd46−54−Jd4−6)とパンペリー石の存在,及びオンファス輝石−Na普通輝石脈の組織は,片理形成後にソルバス以下の温度で溶液からそれぞれ2相の単斜輝石が独立に形成された可能性がある.

    【地質学的意義】大佐山蛇紋岩メランジュにおいてオンファス輝石はオンファス輝石岩の他に,ザクロ石藍閃石片岩ブロックの緑レン石斑状変晶中のエクロジャイト相の鉱物組み合わせとして,また,1つの泥質片岩ブロック中に(これも新発見)産する.オンファス輝石岩は石英を欠くものの,岩石中の片理を切るオンファス輝石−Na普通輝石脈の存在から少なくともオンファス輝石岩の片理形成後も比較的低温高圧の条件下(オンファス輝石のヒスイ輝石成分が@H2Oと反応してアナルサイトに変化する反応と,Aネフェリンと曹長石に分解する反応のそれぞれの高圧側と低温側の条件)にあったことが示唆される.ただし,オンファス輝石−Na普通輝石脈の形成が蛇紋岩メランジュ形成の先か後かは証拠がなく分からない.

    (コメント: この要旨の内容はその後進化発展して,次の論文として公表されました.Tsujimori, T., 1997, Omphacite-diopside vein in an omphacitite block from the Osayama serpentinite melange, Sangun-Renge metamorphic belt, southwestern Japan. Min. Magazine, 61, 845-852.)


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    飛騨山地九頭竜地域,上部ジュラ系手取層群中の中圧-低圧型泥質変成岩礫

    辻森 樹 (金沢大学理学部地球学教室)

     福井県九頭竜地域には上部ジュラ〜白亜系の手取層群が飛騨帯と宇奈月帯相当層を覆うモラッセ堆積物として広く分布している.最近,Tsujimori (1996) は同層群石徹白亜層群の山原坂礫岩層より,中圧の変成条件を示す十字石片岩礫[Sil-St-Bt(XMg=0.35)-Mus-Qtz-Pl(An11)-Ilm]を報告した.今回,同地域より新たに見出した泥質変成岩礫15個について岩石学的な特徴を記載し,その地質学的意義について予察的に報告する.

    泥質変成岩礫は@ザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩礫[Sil-Grt(Sps1.3-3.1Alm94.1-98.0Pyr0-2.8Grs0.6-1.5) Qtz-Bt(XMg=0.06-0.19,TiO2=1.8-3.0wt.%)-Pl(An6-9)-Ilm-Mus*-Chl*],A菫青石-ザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩礫[Sil-Crd(XMg=0.14-0.17)-Bt(XMg=0.10-0.12,TiO2=1.1-3.4wt.%)-Grt(Sps3.1 3.3Alm93.4-95.4Pyr0.5-2.5Grs0-0.9)-Qtz-Pl(An6-8)-Ilm-Mus*-Chl*],Bザクロ石-珪線石-石墨片岩礫[Grt-Sil-Qtz-Pl-Gph],Cザクロ石-珪線石片岩礫[Sil-Grt(Sps1.3-6.6Alm86.3-94.9Pyr1.0-8.3Grs0-1.7) Bt(XMg=0.18-0.25,TiO2=1.8-2.6wt.%)-Qtz-Pl(An12-15)-Ilm],Dザクロ石-石英片麻岩礫[Grt(Sps0.6 1.1Alm89.6-93.7Pyr3.9-7.5Grs1.5-2.4)-Qtz-Pl(An23-25)-Sil-Bt]に大別される.

     @ザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩礫は粗粒でマトリクスは珪線石(フィブロライト)に富み,変形が強い.ザクロ石斑状変晶(平均径1cm)が最大径2.5cmに達する礫もある.ザクロ石にはしばしばコアからリムまで連続的に少量の珪線石と黒雲母が包有され,特にコアにはまれに緑泥石化した鉱物と珪線石・黒雲母の集合体からなる部分が存在する.ザクロ石はリムや割れ目に沿ってのみ逆累帯構造を示す.全岩化学組成はAl2O3に富み(21wt.%,A=(Al2O3−3K2O−Na2O)/(Al2O3−3K2O−Na2O+FeO+MgO)=0.50),CaO・Na2Oに乏しく(共に0.3wt.%),特にMgOに極めて乏しい(0.6wt.%,Mg/(Mg+Fe)モル比=0.09).Aザクロ石-黒雲母-菫青石-珪線石片麻岩礫のザクロ石は菫青石に置換されている.Bザクロ石-珪線石-石墨片岩礫中の珪線石斑状変晶(長径5〜1.5cm)はしばしば空晶石(包有物によるセクター構造を示す紅柱石斑状変晶)の外形や内部構造を示す.これまで飛騨山地の飛騨片麻岩や宇奈月片岩中から空晶石あるいはその仮像の報告はなかった.マトリクスはフィブロライトに富む.ザクロ石斑状変晶(径3〜5mm,最大径1.2cm)はその周囲や割れ目に沿って黒雲母に置換されている.Cザクロ石-珪線石片岩礫のマトリクスはフィブロライトに富み,ザクロ石斑状変晶(径1〜4mm)は石英の細粒包有物がコアから放射状に配列した組織上のセクター構造を示す.これまで飛騨片麻岩や宇奈月片岩中のザクロ石(パイラルスパイト)からこのようなセクター構造の報告例はなかった.ザクロ石はしばしばその周囲や割れ目に沿って黒雲母に置換され逆累帯構造を形成しているが,コアからマントルにかけてMnが減少する正累帯構造を示す.Dザクロ石-石英片麻岩礫中のザクロ石斑状変晶(平均径5mm)は自形性が高く,しばしばコアからリムまで連続的に少量の珪線石が包有されている.ザクロ石はリムにのみ逆累帯構造を示す.

     今回記載した泥質変成岩礫はいずれも中圧の変成条件を示す十字石や藍晶石を欠き,珪線石が安定なAl2SiO5鉱物である.全岩化学組成を分析していない礫岩についても,Dを除く@ABCの礫種は鉱物モードと黒雲母の化学組成から宇奈月変成帯の泥質岩に特徴的なアルミナスでMgOに乏しい全岩化学組成であると思われる.Cを除く礫のザクロ石はコアからマントルにかけて化学組成がほぼ均質化しており,意味のある温度・圧力値が得られない.@においてGASP圧力計で600℃において最高8.4kbarの圧力値が見積もられるが,何を意味するか分からない.Cのザクロ石ではコアからマントルにかけて正累帯構造が保持されており,ザクロ石のリムと共存する黒雲母のFe-Mg分配関係は500℃程度の温度を示す.これまで飛騨変成帯では変成ピーク以前に中圧型の変成作用を被った可能性が指摘されているが(例えば,鈴木ほか,1989;相馬・椚座,1993),もし,Bの空晶石仮像を含む片麻岩礫が飛騨変成帯起源とするなら飛騨変成帯は広井(1978)が指摘したように中圧型の宇奈月帯とは別の典型的な紅柱石-珪線石タイプの低圧高温型変成帯と言える.([ ]:鉱物組み合わせ; *:二次鉱物)


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    Phengite K-Ar ages of the tectonic blocks within the Osayama serpentinite melange: 320 Ma blueschist metamorphism of the Sangun-Renge metamorphic belt

    Tatsuki TSUJIMORI (Kanazawa Univ.) and Tetsumaru ITAYA (Okayama Univ. Sci.)

    The Osayama serpentinite melange in central Chugoku Mountains is a typical serpentinite-matrix melange tectonically overlain by the Osayama peridotite body of the Oeyama ophiolite. The blueschist facies metamorphic rocks and the genetically related metasomatic rocks (albitite, jadeitite, omphacitite, rodingite, tremolite schist, etc.) are enclosed as tectonic blocks in the serpentinite matrix. The tectonic blocks of the Sangun-Renge metamorphic rocks are composed of three types in metamorphic conditions; lawsonite-glaucophane schist (230-270。C at 6-8 kbar) and epidote-glaucophane schist (garnet-free) (>300。C at 6-8 kbar) and garnet-glaucophane schist (400-530。C at 11-13 kbar). The last one preserves eclogite-facies (620。C at 15 kbar) mineral assemblage (Grt(KDGrt-Cpx=8.7-10.9) + Omp(Jd42) + Rt) in its epidote porphyroblast.

    K-Ar ages were determined for nine phengite separates from six metamorphic rocks (Table 1); three albite-spotted mica schists and a graphite-bearing schist from the lawsonite-glaucophane (or epidote glaucophane) schist blocks, and two samples for phengite-rich part of the garnet-glaucophane schist block. Chromian phengite from a tremolite schist was also dated.

    Phengite K-Ar ages from the lawsonite-glaucophane (or epidote-glaucophane) schists and the garnet glaucophane schist blocks yield 289-324 Ma which are significantly older than a whole-rock K-Ar age of 251 Ma from the Osayama melange reported by Watanabe et al. (1987). The phengites with the potassium content higher than 7 wt.% from both the lawsonite-glaucophane (or epidote-glaucophane) schists and garnet-glaucophane schist blocks give 319-324 Ma which are slightly older than the phengite K-Ar and Rb-Sr ages from the Wakasa and Toyogadake areas (Shibata and Nishimura, 1989), and rather correspond to those from the Omi blueschists in the eastern Hida Mountains (Kunugiza et al., 1994). Chromian phengite (up to 5 wt.% Cr2O3) from a tremolite schist block gives 354 Ma which is significantly older than the phengites from the blueschist-facies metamorphic rocks.

    Tsujimori (1996, G.S.J. Meeting) argued that the Sangun-Renge blueschists including these metamorphic tectonic blocks resembled the Franciscan blueschist in very high-P/T features. The phengite K-Ar ages of the Osayama blueschists suggests that the Sangun-Renge blueschist metamorphism took place about 320 million years ago, and that blueschist-facies overprinting of the predating eclogite block was in the time of the Sangun-Renge blueschist metamorphism.

    The K-Ar ages of the phengite separates from the blueschist facies metamorphic rocks have some variations which are larger than analytical error of individual analysis. This may be due to the following possibilities: 1) the cooling age was different among the schists by different argon depletion process during ductile deformation in exhumation of schists and 2) inpurities in the phengite separates affected the age determination because the finer grained fractions have significantly lower potassium content and younger age. There is a possibility that the chromian phengite having significantly older age had excess argon because the host rock was mantle derived one.


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    環太平洋地域のオフィオライトかんらん岩の岩石学的多様性について

    石渡 明(金沢大学理学部)

    Petrologic diversity of ophiolitic mantle peridotites in the circum-Pacific orogenic belts.

    Akira ISHIWATARI (Kanazawa University)

    ジュラ紀〜白亜紀に一斉に形成されたアルプス・ヒマラヤ造山帯のオフィオライト、及びオルドビス紀に一斉に形成されたアパラチア・カレドニア造山帯のオフィオライトと比べ、環太平洋造山帯のオフィオライトは、形成年代が古生代前期から新生代までの広い範囲にわたる。しかも狭い地域に様々な時代のものが混在していて、一般に若い時代のオフィオライトほど、付加型造山帯のナップ累重構造の下位を占める傾向があり、環太平洋顕生代多重オフィオライト帯と呼ばれる(Ishiwatari, 1994: Proc. 29th IGC, Vol.D)。

    オフィオライトのマントルかんらん岩の鉱物モード組成や化学組成の多様性は、玄武岩成分に富む肥沃なパイロライト質マントル物質から、部分溶融によって玄武岩成分が色々な割合で取り除かれ、枯渇していくと考えることによって説明できる(Ishiwatari, 1985). ここでは、比較的データの揃っている北米西岸、ロシア極東、及び日本のオフィオライトについて、マントルかんらん岩の岩石学的多様性を比較検討する。

     オフィオライトのマントルかんらん岩はレールゾライト、単斜輝石を含む普通のハルツバージャイト、単斜輝石を含まない純粋なハルツバージャイトの3種に大別され、それぞれ鉱物化学組成も特徴的に異なる(図1).そして各々斜長石型、単斜輝石型、斜方輝石型の火成沈積岩を伴う.

     日本ではこれら3種のマントルかんらん岩が全て存在し、特に北海道では、神居古潭帯北部の幌加内オフィオライトの純粋なハルツバージャイトと、日高帯の幌尻オフィオライト・幌満かんらん岩体などのレールゾライトの対照が顕著である.夜久野、大江山、宮守など、本州の主なオフィオライトのマントルかんらん岩は全て普通のハルツバージャイトで、単斜輝石型沈積岩を伴う.

     ロシア極東コリヤーク山脈でも、レールゾライトを主とするTamvatney岩体と、純粋なハルツバージャイトを主とし斜方輝石型沈積岩を伴うKrasnaya岩体がMainitsオフィオライト帯中に共存する.

     北米西岸では、典型的なレールゾライトはクラマス山地北西部のクリッペとして小岩体が産するのみで、レールゾライト型とされるTrinityオフィオライトのマントルかんらん岩はかなり枯渇した組成を持つ.一方、最も枯渇したかんらん岩はTwin Sisters岩体だが、これは純粋なハルツバージャイトではなく、普通のハルツバージャイトの領域に入る(図1).Wirth(1994)やHarris(1995)によると、アラスカでもほとんどのオフィオライトのマントルかんらん岩は普通のハルツバージャイトである.

     環太平洋造山帯において、非常に枯渇した純粋ハルツバージャイトのマントルかんらん岩と斜方輝石型の沈積岩を持つパプア型オフィオライトは、今のところコリヤーク山地、北海道、パプアニューギニア、タスマニアなど、西太平洋地域のみに存在し、アメリカ大陸縁には存在しない.西太平洋地域は現在でも島弧・縁海火成作用が活発な地域であり、ボニン岩や高マグネシア安山岩のように,非常に枯渇した給源マントルから生成されたマグマが新生代の前弧域に噴出した。顕生代全体を通じての、西太平洋地域における活発なマントル対流(サブダクションと島弧・縁海火成作用)、及びそれに伴う高温マントル中への水の浸透が、この地域特有の高枯渇度マントル及びそれを供給源とするマグマ活動を生み出してきたと考えられる.


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    ロシア極東コリヤーク山地マイニッツ帯及びタイガノス半島のオフィオライトの岩石学的性質

    石渡 明・古橋美恵 (金沢大・理)

    Petrology of ophiolites in the Mainits zone and Taigonos Peninsula, Koryak Mountains, Far-Eastern Russia

    A. Ishiwatari and Y. Furuhashi (Kanazawa Univ.)

    ロシア極東コリヤーク山地は主に白亜紀に形成された付加型造山帯であり、日本に比べて新生代の変動や花崗岩の貫入が少なく、山地全体がほとんど全面露頭なので、アクセスの困難を別にすれば、付加型造山帯の研究には最適の地域である。石渡は1990年7-8月に同山地中央部のマイニッツ帯、1995年8月に同山地最南端のタイガノス半島のオフィオライトを調査する機会を得た。ここでは、現地での観察及び持ち帰った岩石試料の分析結果をまとめる。

    【マイニッツ帯】

    アナディールから南へ200km、北緯63.2゚東経175゚を中心とする東西80km, 南北30kmの地域。白亜紀のグレイワッケを主とし、二畳紀〜白亜紀前期のチャートや石灰岩ブロックを含む付加帯が、北東走向で北西へ緩く傾斜するパイルナップ構造をなす。グレイワッケに挟まれ、あるいはその構造的上位を占めて、数km〜30km規模の多数のオフィオライト岩体が北東方向に3列分布する。地域北西部には巨大なTamvatneyレールゾライト岩体があり、中央部にはYagel蛇紋岩メランジとKrasnaya山ハルツバージャイト岩体がある。南東部にはSeraya山斑レイ岩体、Srednaya山ダナイト岩体、Chirinaiハルツバージャイト岩体が並ぶ。

    今回分析したYagelメランジの溶け残りカンラン岩は、Fo92のカンラン石とAl2O3=4%の斜方輝石、Cr#30-40のスピネルを含むレールゾライトであり、Tamvatney岩体のレールゾライト(Dmitrenko et al. 1990)とよく類似する。沈積性カンラン岩はカンラン石がFo78-88、スピネルのCr#が45ー80,Fe3+#が10ー30のレールゾライトとウェルライトであった。Krasnaya山のダナイト・ハルツバージャイトはFo92のカンラン石とAl2O3=1.0%の斜方輝石、Cr#80前後のスピネルを含む非常に枯渇した溶け残りカンラン岩で、Dmitrenko & Palandzhyan(1985)によると岩体の北部に斜方輝石型の沈積岩を伴う。これはパプア、幌加内などと同様、世界でも数少ない斜方輝石型のオフィオライトである。南列のSrednaya山のダナイトは著しく変形し、Fo92のカンラン石とCr#85のスピネルよりなり、ボニン岩質マグマを形成した溶け残りカンラン岩であろう。狭い地域ながら、オフィオライトの岩石学的多様性が著しい。

    【タイガノス半島】

    東にカムチャッカを望む半島東岸の3ヶ所を調査した。北緯61.1゚のKengeveem河口にはコートランド岩を含む幅1kmほどの斑レイ岩体があり、その南のNablyudeniy岬には変形した付加帯中に接触変成された枕状溶岩や蛇紋岩が見られた。北緯60.7゚のPovorotnyi岬では白亜紀の緑色岩とそれを覆うチャート層、及び時代未詳の厚いタービダイト層の間に幅3kmの蛇紋岩メランジがあり、その中に新鮮なレールゾライト岩体やザクロ石角閃岩のブロックが含まれていた。チャート層中にはレールゾライト礫を含むオリストストロームがあった。


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    北陸地方の新第三系岩稲累層(グリーンタフ)を貫くショショナイト質単斜輝石玄武岩脈

    石渡 明・大浜 啓*(金沢大・理(*現所属:富山県庁))

    Shoshonitic clinopyroxene basalt dikes cutting the Miocene Iwaine Formation (Green Tuff), Hokuriku Province.

    A. Ishiwatari and H. Ohama* (Kanazawa Univ.(*Toyama Pref. Gov.))

    北陸の中新世グリーンタフ地域の岩稲累層には、径8mmに達する大きな単斜輝石斑晶を多量に含み、斜長石斑晶を含まない(または乏しい)玄武岩質岩脈(または岩床)が多数存在する。西部地域(石川県山中町)の岩脈はかんらん石斑晶に富み、化学組成はショショナイト質(K2O=2-3%;我谷)またはアルカリ玄武岩質(四十九院)である。中部地域(石川県鳥越村)の岩脈は中〜低カリウム系列の高アルミナ玄武岩であり、東部地域(富山県平村)の岩脈は斜方輝石斑晶に富む中カリウム系列のカルクアルカリ玄武岩質安山岩である。

    一般にショショナイト系列の玄武岩〜安山岩は、K2Oに富みカリ長石を含むが準長石を含まず、島弧の背弧側に噴出するが、マリアナ島弧北部やプエルトリコでは火山フロントにも噴出する。日本では西南日本内帯の第四紀アルカリ玄武岩マグマの活動に伴って、隠岐や阿武で少量噴出したことが知られているが、グリーンタフからは報告されていない。

    岩稲累層中の単斜輝石玄武岩はどれもZr/Y比(4-6)や(Ce/Yb)n比(3-5)が高く, Zr(100-150 ppm)や希土類元素((Ce)n=30-40)に富み、NbやTi, Pに乏しく、大陸性島弧の玄武岩に特徴的な化学組成を示す。これらの玄武岩類は、日本海の縁海盆の拡大とほぼ同時に進行した大陸地殻をもつ島弧での火山活動を表し、ショショナイトもこの火成作用の一環として、マントル中のフロゴパイトを含む部分の溶融によって形成されたのであろう。

    鳥越地域三ツ屋野の高アルミナ玄武岩は火山ガラスと単斜輝石のコロナに取り囲まれた融食石英の捕獲結晶を含む。これは高アルミナ玄武岩からカルクアルカリ安山岩への進化が、花崗岩類を同化する作用によって行われた証拠である。これとの組織の類似からみて、単斜輝石の集合斑晶は溶融した石英や長石の周囲に形成された可能性が高い。単斜輝石の集合斑晶/単独斑晶比は西部から東部へ高くなり、FeO*/MgOがほぼ一定のまま東へSiO2が増加する傾向と合わせて、花崗岩類を同化する作用が東部ほど進行したことを示唆する。我谷のショショナイトは単独斑晶に富み、同化作用の証拠は見られない。恐らく西部地域の花崗岩質地殻は中・東部地域に比べて薄く、マントル中にマグマ溜りが形成されたのだろう。

    単斜輝石斑晶はMg/(Fe+Mg)比が0.90〜0.70まで変化する顕著な組成累帯構造を示す。しかし、全岩のFeO*/MgOはどの岩脈でもほぼ一定であり(1.2-1.5)、岩石はノルム単斜輝石に乏しく、石基の単斜輝石のモードも少ない。単斜輝石の結晶核が少数しか形成されず、その周囲の小さい体積(<1 cm3)のマグマを母体として、非常に過飽和な状態から、その場で結晶分化作用を行ったために、Fe-Mg累帯構造の顕著な単斜輝石斑晶が形成されたのであろう。波状累帯構造は、おそらく噴火や地震などによる擾乱の度に、単斜輝石斑晶の周囲の分化したマグマと、斑晶から遠かった未分化のマグマが混合してできたものと考えられる。


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    1995年2月18日落下根上隕石の岩石学的性質

    石渡 明・辻森 樹・斎藤大地(金沢大・理)

    Petrology of the Neagari meteorite fallen on 18 Feb. 1995

    A.Ishiwatari, T.Tsujimori and D.Saito (Kanazawa Univ.)

     1995年2月18日(土)深夜23:55頃,JR北陸線寺井駅に近い根上町の中心部に隕石が落下した.この時,金沢周辺及び富山県西部で複数の人が北から西へ飛行する火球を目撃した.この隕石は,笹谷啓一氏の自宅の横に駐車中の同氏の白いスバルレオーネの後部トランクに一辺10cmの三角形の孔(隕石孔)を穿ち,多数の破片に分裂したが,最大破片(全体の2/3程度)は貫通せずに孔の上で停止した.翌19日午前8時40分,車を発進させようとした同氏がこの隕石を発見した.車に落下した隕石としては、1938.9.29のBenld(米),1992.10.9のPeekskill(米)に続き世界で3例目である(Sky & Telescope, Sep.'95, p. 12)。この隕石については,地球科学,49,71-76+179-182; 天界,76,184-193; 地質ニュース95年8月号表紙などで既に報告したが,ここでは新たな顕微鏡観察と鉱物化学分析の結果を報告する.

     根上隕石の最大破片は幅6.5cm, 高さ4.0cm,長さ6.0cm(割れる前は10cm程度か)の偏平な楕円体で,質量は325gである.この他40g, 30g, 18gの破片3つと,多数の小片が回収された.回収された破片の総量は約420gである.笹谷氏のご好意により,30gの破片から5枚の薄片を作って観察し(10g消耗),小片2個の一面を研磨して化学分析を行った.

     この隕石は厚さ1mmの黒色の殻層に覆われるが,殻層は3層構造になっていて,外側は発泡したガラス,中間は無変化層,内側は酸化鉄の多い黒色層よりなる.この隕石の内部は白色細粒の基質に黒色と金色の微粒(金属鉄と硫化鉄)が散在する脆い岩石で,一見アルコース砂岩のように見えるが,持つとずっしり重い.肉眼でも平均径1mm程度(最大7mm)のぼやけた白色の球粒が見え,鏡下では針状の斜方輝石とカンラン石が放射状に集合した球粒,細粒で不均質な球粒,薪束状のカンラン石の球粒など,様々な組織が見られる.

     金沢大学理学部の明石α-30A SEM - Philips EDAX9100システムで化学分析を行った結果,最も多い鉱物はカンラン石で,全体の体積の70%程度を占め,組成はFo76である.次いで斜方輝石(mg#=79, Wo=2.0),単斜輝石(mg#=85, Wo=44.7),斜長石(Or7An11Ab82のオリゴクレース)が多く,ニッケルを若干含む硫化鉄(トロイライト)とニッケルを4-5 wt.%含む金属鉄(カマサイト)が存在する.金属鉄と硫化鉄の量は体積で5%を越えない.どの鉱物も化学組成は均質である.なお,クロマイトやクロルアパタイトは確認していない.

     小沼(1987, pp. 59-62)によると,球粒隕石(コンドライト)のカンラン石のFo値はH,L,LL型でそれぞれ88,75,70前後であり,単斜輝石のWo値は同じ順に45.2, 44.7, 43.9である.E型にはこれら2つの鉱物は出現せず,斜方輝石のWo値はE,H,L,LLの順に1.3, 1.6, 1.8, 2.2である.上で述べた根上隕石の各鉱物の化学組成はL型球粒隕石の特徴を示す.さらに,この隕石ではマトリックスの斜長石がよく再結晶していることから,変成作用の最も進んだL6型球粒隕石に属すると思われる.


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