地質学会ニュース2003年5月号(第6巻5号)14頁

 

携帯用小型レーザー距離計を使ってみて

 

金沢大学理学部地球学科 石渡 明

 

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地質研究者にとって,野外でのルートマップ作りは基本的な作業であるが,従来は方位をクリノメーターやブラントンコンパスで測定し,距離は歩測するのが一般的なやり方だった.これはあまり正確とは言えないが,一人で調査を進めながらルートマップを作成できる簡便で実用的な方法であった.正確さを必要とする場合は巻尺を用いるが,一人で行ったり来たりしながら距離を測るのは大変だった.また,野外で露頭や巨礫などの幅や高さ,川や谷の幅,火口の大きさ,洞穴の高さや深さなどを知りたい場合もしばしばあるが,それは目分量で見当をつける以外に方法がないことが多かった.しかし,最近比較的安価な小型のレーザー距離計が入手できるようになり,野外での距離測定が容易かつ正確に行えるようになった.仕様の異なる2つの携帯型レーザー距離計を購入し,実際に野外で使用してみた具合をお伝えする.

 

【図1】

 使用してみたのはN社製品(1122x92x50mm8倍ファインダー,単3乾電池4本,電池込み320g)O社製品(2130x100x40mm1倍ファインダー,角型9V乾電池1本,電池込み330g)である.購入価格はそれぞれ約5万円と約9万円であった.いずれもフィールドバッグに入れたり,ケースにベルトを通して腰につけたりして,簡単に携帯できる大きさである.

 

N社は国内の光学会社だけあって,この製品はファインダーが高性能の8倍単眼望遠鏡になっており,しかも視野の中に測定した距離が大きく表示されるので便利である.説明書の記述を読むとゴルファーの使用を想定して開発した製品らしく,雨滴や雑草などからのレーザー反射をカットする「雨天モード」,視野を移動させながら距離を表示させる「スキャンモード」,150mより近い物体からのレーザー反射をカットして遠くの目標までの距離を表示させる「やぶ越えモード」もついている.測定ボタンとモード変更ボタンが別なのは便利である.目標物が岩石や樹木の場合,通常モードでの実際の測定可能距離範囲は20m500m程度であるが,自動車・標識など反射率の高い目標なら800mまで測定でき,更に「反射モード」にすれば999mまで測定可能である.距離の測定精度は±1mで,メートル(またはヤード)表示に小数点以下はない.谷の幅や火口の大きさなど,数10mから500m程度の距離を野外で手軽に測定できる便利な機械だが,狭い沢や曲がりくねった林道沿いなど,見通しが16m以下の場所でルートマップを作る場合や,16m以下の小さな露頭の幅や高さを測りたい場合,本機では測定不能であり,2030m程度の距離で測定精度が±1mというのも物足りない.そうは言っても,狭い場所での細かなルートマップ作りを必要としない野外調査や地質見学旅行などに,望遠鏡を兼ねた距離計として持参するには最適の機械であり,電源が入手しやすい単3電池なのも便利である.

 

【図2】

O社製品は米国製で,スイッチを押すとファインダー内に赤い点が表示され,そこまでの距離が本体上に液晶表示される.視野内に距離が表示されず,一度ファインダーから目を離して液晶表示を見なくてはならないので,やや不便である.ファインダーが望遠鏡になっていないので,遠くの物体に狙いをつけるのがやや困難である.しかし,この機械の利点は最短測定可能距離が4m弱であり,測定精度が距離200m未満なら±0.1mで,小数点以下1桁まで表示されることである.通常モードで測定可能な最大距離はカタログで300m以上となっているが,目標物が岩石の場合500m程度までは測定でき,反射率の高い物体を反射モードで狙えば999mまで測定可能である.雨天,スキャン,やぶ越えなどの測定モードはないが,メートル,ヤードの他にフィート表示も可能である.本機の特徴は重力センサー内蔵により「水平距離測定モード」や「樹高測定モード」があることで,後者は樹木,建物,崖の露頭などの中間部,頂部,底部の3点を順に狙えばその高さを計算して表示する.「高度角表示モード」では仰角や伏角を0.1度単位(または勾配の%単位)で表示する(精度0.3度, 範囲は伏角60度〜仰角70度).狭い沢の中や林道沿いでのルートマップ作りや,野外で水平距離や高さを測定する必要がある場合に非常に便利な機械である.ただし,測定もモード変更もボタン一つで行うため,モード変更するのにボタンを10秒間押し続けなければならないのはやや気長な感じがする.また,9V電池はどこでも手に入るとは限らないので,予備を持参する必要がある(1回の電池交換で1,000回測定できる).

 

それぞれ一長一短があるが,実際に野外で使用してみるとレーザー距離計は非常に便利であり,今後地質屋の必携アイテムの一つになると思う.ただし,不用意に測定ボタンを押さないこと,人に向けて使用しないこと,テレビ,ラジオ,通信機器などの近くで使用しないことに気をつける必要がある.今後,測定可能距離を5km程度まで伸ばし,地磁気センサーを内蔵して方位を表示したり,GPSを組み込んだりすれば,携帯用距離計・簡易測量機として一層便利になると思う.

 


 

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2003年06月26日作成 2003年06月27日更新