北陸地方の変成帯とオフィオライト

金沢大学大学院 自然科学研究科 生命・地球学専攻 前期博士(修士)課程

1998年度後期 「変成論」 (石渡担当) 受講者一同

1.飛騨変成帯(低圧型)    近藤美紀

2.宇奈月変成帯(中圧型)  上田夏代

3.青海蓮華変成帯(高圧型) 松田暁洋

4.夜久野オフィオライト    石田義人

5.大江山オフィオライト    上杉次郎

1999/02/26 製作 2001/06/21 更新

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飛騨変成帯

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 飛騨変成帯は西南日本内帯の最北端に位置する。かつては日本列島最古の基盤とされていたが、現在では付加帯の上にのる西南日本内帯の累重ナップの一部であると一般にみなされている(小松ほか,1993)。変成岩類の主な鉱物組み合わせと化学組成をもとに見積もられた温度圧力条件から、飛騨変成帯は内側地帯(大陸側、相対的に低変成度)と外側地帯(太平洋側、相対的に高変成度)に分けられる(鈴木,1987a,b)。  飛騨変成帯は片麻岩類、角閃岩、ミグマタイトなどで構成され、少なくとも3回の重複した変形−変成作用を受けている。第1期の変成作用は高角閃岩相〜グラニュライト相、第2期は低角閃岩相〜緑れん石角閃岩相、第3期は船津花崗岩による接触変成作用であり、その後にナップの形成運動が起こったと考えられる。

 

飛騨片麻岩類

飛騨片麻岩の初生的変成条件は第1期の高角閃岩相〜グラニュライト相で、後に角閃岩相の後退作用−変成作用を受けている。さらに、第2期では緑れん石角閃岩相の後退作用と緑色片岩相の後退作用を受け、それぞれマイロナイト帯の形成を伴う。構造的には南部が下位、北西部が上位である。石灰質片麻岩、石灰珪質片麻岩、泥質片麻岩、輝石片麻岩、角閃石片麻岩、黒雲母片麻岩などからなる。泥質片麻岩の量は比較的少ない。

角閃岩

 変はんれい岩が複数の変成作用を受けて生成した。石灰岩との機械的混合とその後の鉱物間の化学反応により、輝石片麻岩を生成すると考えられる(椚座ほか, 1997)。

ミグマタイト  

マグマやメルトの反応で角閃岩や輝石片麻岩が部分融解して生成した。単斜輝石とスフェーンを伴うトナライト質岩(伊西岩;いにしがん)とマフィック鉱物に乏しい岩(灰色花崗岩)がある。

船津花崗岩類  

三畳紀〜ジュラ紀の花崗岩で、K−Ar年代は約180Maに集中し活動のピークと考えられるが、Rb−Sr年代には220〜200Maにもピークがみられ、幅広い年代値を示す。岩体周縁部ではマイロナイト化を示し、緑れん石角閃岩相もしくは緑色片岩相で再平衡に達している。眼球片麻岩は船津花崗岩類の一部で、ピンク色の斑状アルカリ長石を特徴とする。船津花崗岩の貫入により、飛騨変成帯は接触変成作用を受けたと考えられる。

 

飛騨変成帯のテクトニクス

 飛騨片麻岩類の初生変成作用の年代は研究者のあいだで見解の相違があるが、おおよそ300〜450Maのあいだである。240Ma前後の宇奈月変成作用期に緑れん石角閃岩相の後退変成作用を受け、その後、180Ma前後の船津花崗岩類活動期に接触変成作用を受けた。飛騨ナップは変成帯の対比、化石の対比、岩相から、中朝地塊の一部あるいは中朝地塊と揚子地塊の衝突帯と考えられ、その形成は中朝地塊が揚子地塊に衝上もしくはアンダースラストした運動によるとされている(相馬ほか,1990;磯崎・丸山,1991;Isozaki,1996;Maruyama,1997)。金・石渡(1997)は、地球化学的見地から、飛騨帯と中朝地塊及び揚子地塊との比較検討を行い、飛騨泥質片麻岩の源岩の後背地に中朝地塊の特徴をもった花崗岩類が広く分布していた可能性を指摘している。飛騨ナップの形成は、180Ma前後の船津花崗岩類の活動のピーク以降であることは確かであるが、100Ma以降からの新期花崗岩類や濃飛酸性岩などの火成岩類が、飛騨帯だけでなくその下にある宇奈月帯、飛騨外縁帯、美濃帯などを切って貫入あるいは被覆していることより、遅くとも100Ma以前には完成していたと考えられる(椚座, 1994)。

 

参考文献

金 福喜・石渡 明, 1997:石川県手取側上流地域の飛騨片麻岩類の岩石学と地球科学および飛騨帯の他地域, 中朝地塊, 揚子地塊, 揚子地塊の泥質変成岩との比較. 岩鉱, 92, 213-230

小松正幸・長瀬真央・管野孝美・宇次原雅之・豊原剛志, 1993:飛騨地帯の構造とテクトニクス. 地質学論集, 42, 39-62

椚座圭太郎・後藤篤・相馬恒雄・金子一夫, 1995:大陸のかけら富山. 富山県[立山博物館] 特別企画展解説図録, 1-48

椚座圭太郎, 1994:飛騨ナップの形成と中生層のテクトニクスの関係. 構造地質, 40, 155-157

椚座圭太郎・相馬恒雄・松下百合・福満弘信・大前雅弘, 1997:飛騨変成岩類の多様性と生成の時空間. 単斜輝石からみた飛騨変成岩類の成因, 平成6年度〜8年度富山大科研費補助金研究成果報告書, 4-8

磯崎行雄・丸山茂徳, 1991:日本におけるプレート造山運動の歴史と日本列島の新しい地体構造区分. 地質雑, 100(5), 697-761

Isozaki, Y., 1996:Anatomy and genesis of a subduction-related orogen: A new view of geotectonic subdivision and evolution of the Japanese Island. The Island Arc, 5, 289-320.

Maruyama, S., Isozaki, Y., Kimura, G. and Terabayashi, M., 1997: Paleogeographic maps of the Japanese Islands: plate tectonic synthesis from 750 Ma to the present. The Island Arc, 6, 121-142.

鈴木盛久, 1987a:飛騨帯の内側地帯と外側地帯について. 日本地質学会第94年学術大会講演要旨, 504

鈴木盛久, 1987b:石炭紀〜ペルム紀にかけての飛騨帯及びその周縁地域. 内帯高圧変成帯, no. 4 , 3-4

鈴木盛久・中沢伸治・刑部哲也, 1989:飛騨帯の構造発達史-変成履歴と後期石炭紀〜三畳紀の変動について−. 地質学論集, 33, 1-10 相馬恒雄・椚座圭太郎・寺林優, 1990:飛騨変成帯. 日本地質学会第97年年会巡検案内書, 25-58

 

 

 

 写真1  伊西岩中の単斜輝石

 (横幅約3mm, 直交ニコル 制作者:金 福喜)


 

 

 

 写真2 単斜輝石片麻岩にみられるザクロ石(うす桃色)

 (横幅約3mm, 単ニコル, 制作者:金 福喜)

 

 

 

 

 

 写真3 黒雲母片麻岩

 (横幅約3mm, 直交ニコル, 制作者:金 福喜)


                                  石渡研究室 近藤美紀

 


宇奈月変成帯

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   宇奈月地域は飛騨変成帯の東北端部に位置する、日本で唯一の中圧型藍晶石ー珪線石型変成帯として知られている。宇奈月地域は飛騨変成帯の東部岩体の模式地とされており、西から、片麻岩類、結晶片岩類、深成複合岩体が配列している。片麻岩類と結晶片岩類との間には、常に圧砕片麻岩が存在しており、これが構造上の不連続面を成している。両者はそれぞれ、片貝川グループ(片麻岩類)、宇奈月グループ(結晶片岩類)と呼ばれている。深成複合岩体を構成する岩石は、変はんれい岩、石英閃緑岩と花崗岩で、相互の貫入関係から、変はんれい岩、石英閃緑岩、花崗岩の順で貫入・固結したと考えられている。

片貝川グループ   

   片貝川グループは晶質石灰岩と、これと指交あるいは互層した石英長石質片麻岩、そして少量の塩基性片麻岩や砂泥質片麻岩からなる。晶質石灰岩は、主に方解石と石英によって構成されており、苦灰岩質になると単斜輝石やザクロ石を含む。珪灰石・斜長石・カリ長石は普通に産出する。石英長石質片麻岩は、主に石英・長石・カリ長石、そして少量の普通角閃石や黒雲母から構成されている。一部の斜長石は、パッチ状のカリ長石を含有したアンチパーサイト構造を示す。

宇奈月グループ    

   宇奈月変岩類(宇奈月グループ)は下位より晶質石灰岩層、泥質岩層、石英長石質岩層(レプタイト層)、塩基性片岩・砂泥質片岩互層の4層から構成されている。それぞれの境界は漸移的で、原岩構造も互いに調和的であるため、これら4層は整合的な関係にあると考えられる。

1.晶質石灰岩層   

最下位の晶質石灰岩層は、暗灰色〜灰色の泥質で珪質薄層を挟み込んだ層状石灰岩によって構成されており、石炭紀後期の化石を産出する。希に、石英長石質片麻岩や晶質石灰岩の礫を含んでいる。下限が不明なため、層厚は不明である。石英長石質片麻岩礫は、組織・粒度・色などから片貝川グループの石英長石質片麻岩に非常に似ている。片貝川グループの主構成岩である晶質石灰岩と石英長石質片麻岩に似た礫が、宇奈月グループの最下位層に含まれている。また、晶質石灰岩中からコケ虫や有孔虫など石炭紀後期の化石が発見されている。

2.泥質岩層   

泥質岩層の原岩はラテライト質で、数mから60mの層厚を持つ。この層の大部分に十字石が産出する。また、クロリトイドや藍晶石などアルミニウムに富む鉱物が産出する。この層は、さらに下部層と上部層に分類できる。下部層は、細粒で石墨を含有した黒色千枚岩で、上部層は、粗粒で石墨を含有せず、色は淡色である。

3.石英長石岩層   

石英長石質岩層の構成岩石は、斜長石や石英の残斑晶から酸性の火山噴出岩起源と考えられている。淡紅色から灰色で細粒・弱片状の岩石である。層厚は60 mから400 mまで変化する。

4.塩基性片岩・砂泥質片岩互層   

最上位の互層を構成する砂泥質岩は、アルカリ元素とカルシウムに富んでおり、十字石やクロリトイドなどのアルミニウムに富む鉱物を含まない。塩基性片岩と砂泥質片岩の割合は場所により著しく変化し、砂泥質片岩の優勢な所では、級化層理、斜交葉理などの堆積構造が見られる。層厚は不明。   

深成岩複合岩体   

加能(1973)によると、変はんれい岩・石英閃緑岩・花崗岩のいずれも古生代末から中生代始めにかけて活動した船津花崗岩(冷却年代は約1.8億年)に対比される。

宇奈月グループは、船津花崗岩(約1.8億年)と対比される深成岩複合岩体の不調和な貫入により、低圧の接触変成作用を受けている。宇奈月グループの石英長石質片岩と泥質片岩中の雲母は、2.12~2.40億年(Rb-Sr同位体年代)(山口・柳,1968、Yamaguchi & Yanagi,1970)、石英長石質片岩中の黒雲母は2.48億年(Rb-Sr年代)(Shibata et al,1970)を示す事から、宇奈月地域における中圧型の広域変成作用の時代が約2.5億年前であることを示している、   飛騨変成岩のK-ArおよびRb-Srによる年代値は、船津花崗岩と同様に、約1.8億年に集中している(野沢,1968, 1971; Shibata et al., 1970)。これは、宇奈月地域の晶質石灰岩中の金雲母と微斜長石のK-Ar年代値(それぞれ1.80億年と1.71億年)に対応する(齋藤他, 1961; 野沢, 1968)。また、飛騨片麻岩中のクサビ石とジルコンについての2.3〜2.5億年に集中するU-Th-Pb年代値(Ishizaka & Yamaguchi, 1969)は、宇奈月地域の鉱物Rb-Sr年代値に対応している。つまり、飛騨変成帯では、約2.5億年前に中圧型の広域変成作用があり、その後、約1.8億年前には、船津花崗岩類により不調和に貫入され、低圧型の接触変成作用を被ったと考えられる。  

文献

広井美邦, 1980;飛騨帯・宇奈月泥質片岩の岩石記載.金沢大学教育学部紀要(自然科学編), 28, 69-86

広井美邦, 1978 ;飛騨変成帯宇奈月地域の地質.地質学雑誌, vol. 84, 9, 521-530

Ishizaka., K. and Yamaguchi, M., 1969;U-Th-Pb ages of sphene and zircon from the Hida metamorphic  terrain , Japan . Earth and Planet Sci. Lett., 6, 179-185

加納 隆, 1973 ;富山県東半部の飛騨変成帯の地質について(その1)ー地質構造区分、船津期深成作用の特徴、および変成岩の岩相層序区分についてー. 地質学雑誌, 79, 407-421

野沢 保, 1968;ひだ変成帯の同位元素年令,1968年における総括と短い覚え書き.地質学雑誌, 74, 447-450

野沢 保, 1971;本邦産変成岩および古期花崗岩の同位元素年令;1971年総括. 地調月報, 23, 549-571

齋藤信房・増田彰正・長沢 宏, 1961;カリウムーアルゴン法による岩石の年代決定.地質学雑誌, 67, 425-426

Shibata, K., Nozawa, T. and Wanless, R.K., 1970;Rb-Sr geochrology of the Hida metamorphic belt, Japan. Canad. Jour. Earth Sci., 7, 1383-1401

山口 勝・柳 考, 1968 ;宇奈月のいわゆるレプタイトの年代. 地質学雑誌, 74, 371-388

Yamaguchi, M. and Yanagi, T., 1970;Geochronology of some metamorphic rocks in Japan. Ecologae geol. Helv., 63, 371-388

写真1;泥質片岩中の十字石と黒雲母。十字石の斑状変晶の存在は、バルクがアルミに富む事を示唆する。横幅約2.8 mm。オープンニコル。   (提供者 伊藤秀樹)

写真2;泥質片岩中のザクロ石と十字石と黒雲母。ザクロ石はオープンで淡い桃色を呈する。横幅約2.3 mm。オープンニコル。 (提供者 伊藤 秀樹)

写真3;泥質片岩。しかし、写真1・2とは、全く異なる組織を持つ。十字石が存在しないことから、バルクはあまりアルミみ富んでいない。横幅約2.3 mm。オープンニコル。 (提供者 辻森 樹)                                      

 

                                  金沢大学大学院自然科学研究科
                         生命・地球学専攻 
上田夏代
(荒井研究室)

 


 

青海蓮華変成帯

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1、青海蓮華変成帯について  

青海蓮華変成帯は、飛騨外縁帯の北部に位置する。飛騨外縁帯とは、飛騨帯と美濃帯にはさまれて、北から青海地域、蓮華地域、白馬地域、蒲田地域、楢谷地域、伊勢地域に点々と産する古生層、変成岩や蛇紋岩からなる地域である。これらの 地域は互いに地質的につながってないことと産状の多様性のために、様々なデータが増えるにつれて、個々の地域の特徴や地域間の違いが強調されるようになり、具体的に統一的な構造論を論じるのが困難になってきている。また、手法や目的の違いからくるモデルの違いも大きい。

2、研究史  

これまでの飛騨外縁帯の構造のイメージは、様々な古生層や変成岩類が様々な産 状で産出するというものでしかなかった。1980年以前の飛騨外縁帯の定義は、飛騨帯でもなく美濃帯でもない複雑なものという消去法的なものであった。 1980年代に入り、松本(1980)は青海地域、蓮華地域、白馬地域が蛇紋岩メランジェであることをあきらかにした。一方、相馬、丸山(1988)は飛騨外縁帯の南西部の伊勢地域、楢谷地域、蒲田地域は、手取層群のオリストリスとして 産すると論じた。

3、現在考えられている外縁帯の構造論  

飛騨外縁帯の構造を議論するには、近隣の地帯の造山運動との時空間関係が重要 なポイントになる。飛騨外縁帯は飛騨帯と接している。また飛騨帯は飛騨変成帯と宇奈月変成帯から構成されている。(相馬、椚座1993)飛騨変成帯は石灰岩、砂泥質堆積物、塩基性火成岩が300Maのグラニュライト相の変成をこうむった後、重複して250Maの中圧型変成作用をこうむっている。宇奈月変成帯は石炭紀モスコー世の陸棚型堆積物とバイモーダルな火成岩が150Maの中圧変成作用をうけた地域である。一方、飛騨外縁帯よ西南日本における古生代付加帯は250Maの中圧変成 作用を受けておらず飛騨帯とは異なった環境で成長した。飛騨外縁帯と飛騨帯は,それぞれ揚子-中朝プレートに対比されているが、両者は250Maに衝突合体し境界部に超高圧-中圧型変成帯が上昇した。その後、揚子プレートが中朝プレートにアンダートラストすることによって飛騨帯はナップ構造を示すようになり、飛騨帯(宇奈月変成帯)と飛騨外縁帯(青海蓮華帯)は直接するようになった。

4、青海蓮華地域の地質  

飛騨外縁帯における青海地域は、蓮華地域とともに、80年代の研究により 蛇紋岩メランジェであることが明らかにされた。蛇紋岩メランジェには、高圧型 結晶片岩のほかに、角閃岩、変はんれい岩、変玄武岩、弱変成堆積岩、ヒスイ輝 石岩、アルビタイト、ロディンジャイトなど種種の変成岩類がブロックとして含 まれる。青海蓮華地域において蛇紋岩は、青海石灰岩と周辺堆積岩層と中期二畳 紀オリストロームの間を貫き、後者の上に低角衝上する蛇紋岩ナップ(SN)、 青海、蓮華、八方-白馬岳地域に連続する高圧型結晶片岩をブロック状に含む蛇紋 岩メランジェ帯(SM)、白馬岳-朝日岳地域において弱変成堆積層を貫く比較的 幅のせまい蛇紋岩帯、として産出する。このうち高圧型変成岩およびこれに関連 する変成岩類をブロックとして含む蛇紋岩は(SN)と(SM)である。 蛇紋岩ナップ(SN)は東フェルゲンツで中期二畳紀カオティック堆積岩のうえ に、水平に近い角度で衝上しているが、ナップの根元では西急傾斜の構造を示す。メランジェ状をなす蛇紋岩(SM)の構造は正確には分からないが直立に近い構造とみなされている。しかし、八方尾根蛇紋岩体の片理構造は20〜60度の緩い 西傾斜を示し、これより構造的に上位のメランジェ帯の構造もほぼこれと調和的である。したがって、一般に蛇紋岩体の構造は上部(浅部)では緩傾斜、下部(深部)では急傾斜になると考えられる。

5、蛇紋岩の変成作用  

蛇紋岩の上昇、貫入は、明確に認識できるものだけでも、来馬層群堆積前、堆積後の2下位あり、その後の飛騨ナップの形成や、白亜紀以降の変動を考慮すると、何回も動いている可能性があり、一般的には初生的変成作用の鉱物組み合わせや構造を識別することは難しい。青海、蓮華地域でそれが可能なところは唯一、八方尾根蛇紋岩体だけである。この岩体北半分では広域変成作用によって形成された鉱物組み合わせは2帯に分けられ、それぞれの特徴的組み合わせは次のとおりである。 

     I帯; かんらん石+透輝石+アンチゴライト+緑泥石
        かんらん石+アンチゴライト+ブルース石+緑泥石  
     II帯;かんらん石+トレモライト+透輝石+アンチゴライト+緑泥石  
        かんらん石+トレモライト+アンチゴライト+緑泥石    

     I帯からII帯への移行は    
        5アンチゴライト+2透輝石=トレモライト+6かんらん石+9H2O   
     の反応によって表せる。  

八方尾根蛇紋岩の構造は大局的にN20E方向、NW落ちの片理によって代表される。  ・帯は岩体のNW側、すなわち岩体上部を占め、II帯は岩体下部を占める。したがって、変成度は上部から下部にむかって上昇する。一方、岩体の南半分では、鉱物組み合わせは同じく2帯(トレモライト帯、タルク帯)に分けられるが変成度の上昇方向は逆に下部から上部(東から西)である。タルク帯においては、タルク、トレモライトが片理とは無関係に生じており、この変成作用は花崗岩の接 触による熱の影響と考えられる。

6、蓮華メランジェの変成岩と変成作用

 蓮華蛇紋岩メランジェにおいては変成ブロックは規則性を持たずバラバラに分布するために、変成作用の相互の関連は岩質や鉱物組み合わせ、鉱物化学組成によらなければならない。岩質からはこれらは砂泥質片岩と塩基性火成岩起源の片岩、角閃石および火成岩の組織を残した変はんれい岩、変ドレライト、変はんれい岩に分けられる。鉱物組み合わせから、     

    A、パンペリー石-アクチノ閃石(PA相)  
    B、緑れん石-ラン閃石片岩相(EpGl相) 
    C、緑れん石角閃岩相(EpAm)  
    D、緑色片岩相(Gr相)  

に分けられる。角閃石の化学組成から見るとこれらは、

   I、高圧型変成相系列 (PA-EpGl-EpAm)    
   II、低圧型変成相系列 (Gr-EpAm)  

に分類できる。II, に属する岩石は火成岩の組織を残した玄武岩、ドレライト、はん れい岩などのオフィオライト起源のものであり、この変成作用はいわゆる海洋底 変成作用に相当する。I の中にも火成岩の組織を残し、アクチノ閃石のまわりに ラン閃石ないしクロス閃石が生じているものがあり、I タイプの変成作用の前に II タイプの変成作用を経験している。

7、青海蓮華地域と三郡帯の連続性  

青海蓮華メランジェは西南日本の三郡帯との連続性においてよく議論される。青海蓮華メランジェは二重構造を呈し、比較的おおきなブロックないし連続性の良い変成岩層を蛇紋岩が貫入し、さらに蛇紋岩中に玉石状変成岩が包有される。また青海メランジェの場合のようにオフィオライト起源、低温高圧変成相系列でない岩石(ザクロ石-褐色角閃石角閃岩、花崗岩質岩)が見いだされる。これら構造や構造物の特徴は細かな点では違いはあっても大局的には三郡帯と同じと見ることができるだろう。しかし、青海蓮華メランジェと三郡帯では変成岩の放射年 代に連続性がない。つまり両者は別の構造帯であるという見解もある。青海蓮華地域と三郡帯の連続性は未だはっきりとした統一的見解がみいだせておらず議論の余地を残すというのが現状である。

写真1                                 写真3

    

写真2                                写真4

 

写真1、塩基性結晶片岩の薄片写真 (青海地域)
   オープンニコル、10倍  (縦1mm)
   緑泥石、ラン閃石の共存が見られる。
   小さい斑晶として緑れん石が認められる。
   斜長石(Ab)が認められる。

写真2、上の写真のクロスニコル、
    10倍  (縦1mm)
  
写真3、緑れん石ラン閃石片岩の薄片写真 (九頭竜川付近、荷暮地域)
   オープンニコル   2.5倍 (縦約4mm)
   緑れん石の変形が見られる。

写真4、上の写真のクロスニコル 
    2.5倍  (縦約4mm)
  
    


写真提供者  辻森樹

製作者     松田暁洋

参考文献  中水勝 岡田昌治 山崎哲夫 小松正幸   1989
       飛騨外縁帯,青海蓮華メランジェの変成岩類   地質学論集

       代表 椚座圭太郎  1997
       飛騨外縁帯の変成岩類の岩石学的年代学的検討  研究成果報告書

      辻森 樹    1998
       中国山地中央部、大佐山蛇紋岩メランジュの地質
        :大江山オフィオライトの下に発達した
              320Ma青色片岩を含む蛇紋岩メランジュ
                       
                       地質学雑誌 第104巻 第4号

寅丸研究室 松田暁洋        

 


夜久野オフィオライト

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位置

夜久野オフィオライト(石渡, 1978)は、近畿から中国地方の福井県西部から京都府・兵庫県を経て岡山県まで、延長250kmにわたって北東-南西方向に帯状配列している。福井県大島半島及び高浜町地域に最もよく揃ったオフィオライト層序が見られる。

地質

夜久野オフィオライトはペルム紀のナップとしてペルム紀付加帯である超丹波ナップ及びジュラ紀付加帯である丹波ナップ群に衝上し、古生代前期の大江山オフィオライトに衝上されている。夜久野オフィオライトはマントルかんらん岩・斑れい岩質火成沈積岩・玄武岩質火山岩の3つのメンバーが揃ったオフィオライトであるが層状岩脈群が欠如する。

研究史

 西南日本内帯には夜久野岩類と呼ばれる多数の超苦鉄質・苦鉄質岩体が分布することが古くから知られており、それらが地向斜火成活動によるものと考えられていた。 (Ig:, 猪木, 1959)。その後石渡(1978)は夜久野岩類を研究し,造山帯に巻き込まれた海洋地殻及びマントルの断片,つまりオフィオライト複合岩体を形成しているとし,「夜久野オフィオライト」と命名した.また中国山地に散在する超苦鉄質岩体群も断片化したオフィオライトの構成メンバーであるという見解も示された(Arai,1980).夜久野オフィオライトの溶け残りかんらん岩は単斜輝石を含むハルツバージャイトで,沈積岩は単斜輝石型(Ishiwatari,1985b)であり,またモホ面付近の岩石の平衡圧力からみて夜久野オフィオライト形成時の地殻の厚さは15〜30kmと海洋地殻としては異常に厚かったと考えられ縁海起源の可能性が示された。(Ishiwatari,1985a).また最近、夜久野オフィオライトは海台が付加したものとも見解が示されている。 (Isozaki, 1997).

 

夜久野オフィオライトの岩石(薄片写真)

 

玄部岩質火山岩

玄部岩質火山岩はマントルが地殻浅所や海底へ移動するときに部分的に溶けてマグマとなり、そのマグマが海底に噴出してできた岩石です。

ドレライト(Dolerite) (Zone A)畑口川上流 薄片提供者:石渡 明 撮影条件:単ニコル(横幅約2.3mm)

輝石と斜長石が認められる。


メタドレライト(Metadolerite) (Zone B-)市野瀬南 薄片提供者:石渡 明 撮影条件:単ニコル(横幅約2.3mm)

写真中央には角閃石が、その周りに緑れん石が認められる。


アルバイト−角閃岩(Albite Amphibolite)
(Zone C)
大滝谷
薄片提供者:石渡 明
撮影条件:単ニコル(横幅約2.3mm)

茶褐色の角閃石が多数認められる。

 



縞状輝石角閃岩1,2
(banded PyroxeneAmphibolite)
(ZONE E)木之下南
薄片提供者:石 渡 明
撮影条件:単ニコル(横幅約2.3mm)

写真1は右下側が輝石、左上側が角閃石と縞の境界部である。その周りには斜長石が認められる。


 

 

 

写真2は写真1の角閃石の部分で、多数の角閃石が見られる。また黒い部分は変成していると考えられる。

 

火成沈積岩

火成沈積岩はマントルが地殻浅所や海底へ移動するときに部分的に溶けてマグマとなり、そのマグマから形成された岩石です。

溶け残りマントルかんらん岩

溶け残りマントルかんらん岩はマントルが地殻浅所や海底へ移動するときに溶け残った物質(かんらん石などの結晶)が固まった岩石です。始源的なマントル物質は単斜輝石を多量に含むレールゾライトですが、単斜輝石は溶けやすいので、マントルの溶融程度が増大すると、単斜輝石がやや少ないレールゾライトを経て、単斜輝石の少ないハルツバージャイトへと変化する。

ハルツバージャイト(Harzburgite) (Hz member)犬見 薄片提供者:石渡 明 撮影条件:単ニコル(横幅約2.3mm)

写真中央に斜方輝石(orthopyroxene)が、その下には褐色のスピネル(spinel)が認められる。その周りにはかんらん石が多数観察される。


 

文献

Arai, S., 1980 : Dunite-harzburgite-chromitite complexes as refractory residue in the Sangun-Yamaguti zone, Western Japan. J.Petrol. , 21,141-165

Ishiwatari , A. , 1985a : Granulite-facies metacumulates of the Yakuno ophiolite, Japan : evidence for unusually thick oceanic crust. J. Petrol. , 26, 1-30.

Ishiwatari , A. ,1985b : Igneous petrogenesis of the Yakuno ophiolite (Japan) in the context of the diversity of ophiolites. Contrib. Min. Petrol. 89, 155-167.

石渡明, 1978 : 舞鶴帯南帯の夜久野オフィオライト概報. 地球科学, 32, 301-310

猪木幸男, 1959 : 舞鶴付近のいわゆる“夜久野岩類”について. 地調月報, 10,1053-1061.

Isozaki, Y. , 1997 : Contrasting two types of orogen in Permo-Triassic Japan : Accretionary versus collisional. The Island Arc. , 6, 2-24

斎藤大地, 1997MS : 熊本県北部山鹿変はんれい岩帯の岩石学的研究.

薄片を提供し、指導していただいた石渡明助教授に感謝いたします。また指導、ご助言、文献の提供をしていただいた辻森樹、斎藤大地両氏に感謝いたします。

田崎研究室 石田義人


大江山オフィオライト 

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大江山オフィオライト

 西南日本内帯を構成する三郡帯には,東から大江山(おおえやま),出石(いずし),関宮(せきのみや),若桜(わかさ),落合-北房(おちあい-ほくぼ),足立(あしだち),多里-三坂(たり-みさか)等の超苦鉄質岩体が存在しており,これらを総じて,大江山オフィオライトという(石渡,1989).これらの超苦鉄質岩体は三郡変成帯の中央部と南縁部の二帯に帯状分布し,前者には落合-北房,足立,多里-三坂等の岩体が,後者には大江山,出石,関宮,若桜等の岩体がある.  

研究史

 これらの岩体がオフィオライトの断片であることを示した研究はいくつかあり,Arai(1980)は三郡-中国帯に散在する超苦鉄質岩体を研究し,これらの岩体がオフィオライトの構成メンバーであると考えた.また,Kurokawa(1985)は大江山岩体を研究し,これらが超苦鉄質テクトナイト,沈積岩部,塩基性貫入岩類からなるオフィオライトであり,三郡-中国帯中の他の超苦鉄質岩体も三郡変成帯の構造的上位に位置するオフィオライトメンバーであることを示した.石渡(1989)は,古生代後期の舞鶴帯および,夜久野オフィオライトの北方に位置する古生代前期の上記の超苦鉄質岩体を総称して,大江山オフィオライトと呼んだ.

地質 

 大江山オフィオライトは関宮で夜久野オフィオライトに衝上する露頭が認められ,夜久野オフィオライトは丹波帯,超丹波帯に衝上することから,大江山オフィオライトは西南日本で構造的に最も高位のナップである(石渡,1989).大江山オフィオライトを構成する超苦鉄質岩体周辺には,三郡変成岩,非〜弱変成の古生代堆積層,白亜紀後期の花崗岩類,白亜紀火山岩類などが分布する(Arai, 1980; Kurokawa, 1985; 松本ほか,1995).超苦鉄質岩体の多くは三郡変成岩,古生代堆積層と接し,落合-北房岩体を除く多くの岩体は花崗岩類に貫入されている(Arai, 1980; Kurokawa, 1985; 松本ほか,1995).また,一部の岩体は白亜紀火山岩類により被覆されている(松本ほか,1995).

岩石

 大江山オフィオライトはほとんど超苦鉄質岩のみからなり,若干の苦鉄質岩を伴うのみで玄武岩質火山岩をほとんど伴わない(石渡,1989).蛇紋岩化が激しく,また,落合-北房岩体を除く多くの岩体は白亜紀後期に活動した貫入花崗岩体の影響で,様々な程度に接触変成作用を被っており,初成的な岩相変化とあわせて複雑な岩相を呈している(Arai, 1980; 宇田,1984; Kurokawa, 1985; 松本ほか,1995).以下にマントルセクション,および沈積岩部の岩石について述べる.  

 マントルセクションは主にハルツバージャイト,ダナイト,クロミタイトからなり,大江山岩体ではレールゾライトが観察される(宇田,1984).ほとんどの岩体においてこれらの岩相は岩体中に不規則に分布するが(Arai, 1980; Kurokawa, 1985),落合-北房岩体では,ダナイト/ウェールライト層,レールゾライト/ハルツバージャイト層が互いに互層をなす(荒井ほか,1988).鏡下において特徴的なのがハルツバージャイト,レールゾライト中に観察されるゼん虫状スピネル(“踊るスピネル”石渡,1989)である.アラビア文字あるいは草書体の漢字のような複雑な形のクロムスピネルが単斜輝石,斜方輝石と共生しており,それら全体がザクロ石の仮晶のような形を呈することもある(石渡,1989).

 沈積岩部の岩石は大江山,出石岩体でみられる.岩相はウェールライト,クリノパイロキシナイト,ガブロであり,斜方輝石はほとんど見られない(Kurokawa, 1985).

 他に,斑れい岩,ドレライト岩脈も存在する.また,大江山岩体には,角閃石岩などの変成沈積岩ブロックが産するが(Kurokawa, 1985),これらは大江山オフィオラオイトの構成岩とは成因的に区別されるという報告がなされている(辻森,1999)

参考文献

Arai, S. (1980), Dunite-harzburgite-chromitite complexes as refractory residue in the Sangun-Yamaguchi zone, western Japan. J. Petrol., 21, 141- 165.

荒井章司,井上知子,大山隆弘(1988),三郡帯,落合-北房超マフィック岩体 の火成岩岩石学:予察的報告.地質雑,94,91-102.

石渡 明(1989),日本のオフィオライト.地学雑,98-3,104-117. 

Kurokawa, K. (1985), Petrology of the Oeyama ophiolitic complex in the inner zone of southwest Japan. Sci. Rep. Niigata Univ. Ser. E., Geol. Min., 6, 37-113.

松本一郎,荒井章司,村岡弘康,山内英生(1995),三郡体のダナイト-ハルツ バージャイト-クロミタイト複合岩体の記載岩石学的特徴.岩鉱,90,13-26.

辻森 樹(1999),大江山かんらん岩体に産する普甲峠高圧変成沈積岩の高圧 (2GPa)変成作用.合同学会講演要旨.  

宇田 聡(1984),大江山超塩基性岩体のカコウ岩による接触変成作用および “clieavable olivine”の成因について.地質雑,90,393-410.  

薄片写真  

ハルツバージャイト(大江山オフィオライト 
マントルカンラン岩)
産地 大佐山岩体
薄片提供者 辻森 樹
(金沢大学自然科学研究科)
クロスニコル (横幅4mm)

 

構成鉱物 かんらん石,斜方輝石,単斜輝石,スピネル,蛇紋石,緑泥石等  かんらん石,斜方輝石とも変質が激しい.かんらん石は蛇紋石化し,粒間には鉄鉱が晶出する.斜方輝石は壁開に沿って変質し,鉄鉱を含みよごれている.大江山オフィオライトのマントルカンラン岩に特徴的なのが,ぜん虫状スピネルである(写真中央下).複雑な形をしたスピネルが単斜輝石,斜方輝石と共生しており,それら全体がザクロ石の仮晶のような形を呈することもある(石渡,1989).写真のものは単斜輝石のみと共生している.

単斜輝石斑れい岩(大江山オフィオライト 沈積岩)
産地 大佐山岩体
薄片提供者 辻森 樹(金沢大学自然科学研究科)
クロスニコル (横幅4mm)

構成鉱物 単斜輝石,緑泥石等 初成鉱物は単斜輝石しか残っておらず,斜長石はソーシュライト化し,緑泥石等の細粒鉱物に置き換えられている.単斜輝石は激しく変型している.

 

 

 

 

  

ドレライト(大江山オフィオライト 貫入岩)  
産地 大佐山岩体
薄片提供者 辻森 樹(金沢大学自然科学研究科)
クロスニコル (横幅4mm)
構成鉱物 斜長石,単斜輝石,角閃石,イルメナイト,スフェーン,緑泥石等 オフィチック組織を示す.斜長石はややソーシュライト化が進んでおり,よごれている.単斜輝石は周辺が角閃石化している.角閃石には初成的なものと二次的なものがあり,初成的なものの周辺にも二次的な角閃石ができている.スフェーンはおそらくイルメナイトが変質したもの.  

角閃石岩(普甲峠高圧変成沈積岩(辻森,1999)) 産地 大江山岩体
薄片提供者 辻森 樹(金沢大学自然科学研究科) クロスニコル (横幅4mm)

構成鉱物 角閃石,クリノゾイサイト,藍晶石(カイヤナイト),イルメナイト等 角閃石の粒間をクリノゾイサイトがうめている.大江山岩体のかんらん岩 ,およびそれを貫く斑れい岩,ドレライト岩脈とは異なる変成を受けている (辻森,1999).

 

荒井研究室 上杉次郎

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