日本地質学会第107年学術大会(島根大学)講演要旨集 p.276 (No. P-139)

2000年9月30日ポスター発表(「20.付加体」セッション)

福井県小浜市周辺における丹波帯緑色岩の岩石学的多様性とその起源

武藤 俊充・石渡 明(金沢大・理)

Petrological diversity and origin of greenstones from the Tamba belt around Obama City, Fukui Prefecture

Toshimitsu MUTO and Akira ISHIWATARI (Kanazawa University)

 

 付加体中に産する緑色岩は、過去の海洋プレートの沈み込みに伴って、大陸プレート側に付加した海洋地殻の断片であると考えられており、主として変質した玄武岩質の火成岩から構成され、海洋性堆積物としてチャート、石灰岩、泥質岩を伴う。この緑色岩の起源を知ることは付加体の形成過程や古海洋の火山活動を考察する上で重要である。

 本研究では昨年の発表で丹波帯を例として、小浜地域と霊仙石灰岩体ついて全岩化学組成や鉱物化学組成などを検討し、現在のさまざまなテクトニックセッティングで噴出するマグマの化学的特徴と比較した(武藤・石渡,1999地質学会要旨)。今回は、とくに小浜地域で見られる多様な緑色岩について、産状や化学的特徴、その形成された環境について考察する。

緑色岩の産状 小浜地域は丹波帯の北端に位置し、ジュラ紀中期の泥質岩中に層状チャート・緑色岩などが剪断されたブロックとして分布する。緑色岩の年代は、石炭紀〜ペルム紀とされている(中江・吉岡, 1998)。中江・吉岡(1998)によると、本研究地域は衝上断層によって3つのコンプレックスに分けられる。どのコンプレックスでもソレアイト質緑色岩は塊状溶岩または枕状溶岩である。また、今回新たに北方の西津地域で斜長石の巨晶仮像を多量に含みかんらん石仮像を伴う玄武岩岩脈を見出した。南部(構造的下位)のコンプレックスではソレアイトだけでなく、ケルスート閃石に富むアルカリ粗粒玄武岩もチャート中の小規模な貫入岩体(岩床?)として分布する。

化学組成 本地域のソレアイト玄武岩は全岩主要元素組成が海嶺玄武岩に類似するが(TiO2=1.4〜2.2wt.%、TiO2-MnO-P2O5図)、微量元素のスパイダーダイヤグラム(図1)のパターンやTiO2の高い(0.35〜0.6wt.%)クロムスピネルの特徴からは、やや海洋島的な傾向が読みとられる。一方、アルカリ岩は主要元素・微量元素ともに明らかに海洋島起源の組成を示し(TiO2=3〜3.2wt.%、図1、図2など)、産状からもソレアイトの後の段階で貫入したことがうかがえる。丹波帯の他の緑色岩についても、「海嶺または海洋島起源のソレアイトと海洋島起源のアルカリ岩」(中江,1991)や「海洋地殻またはdepleteしたマントル成分の影響を受けた海洋島あるいは海山」(佐野・田崎,1989)とする報告がある。

議論 小浜地域では海洋島玄武岩と海嶺玄武岩の中間的な組成のソレアイトが広く分布し、一部では海洋島起源のアルカリ玄武岩が小規模に貫入している。このソレアイトは佐野・田崎(1989)が言うようにディプリートしたマントル成分とエンリッチなプリューム成分が混合した影響であり、さらにその後にアルカリの高い海洋島マグマが貫入したと考えられる。Haase et al. (1997)は、イースター島付近の海山で見られるやや枯渇したソレアイトからアルカリ玄武岩を @海嶺近くで海山のプリュームソースにMORBソースを多く取り込んでソレアイトを形成し、 A海嶺から離れるにつれてやや分化したソレアイトが形成され、 BMORBソースの影響もなくなり部分溶融の程度も小さくなってより分化したアルカリ岩が小規模に噴出するというモデルで説明している。このモデルなら本地域の中間的な組成のソレアイトとアルカリ玄武岩の貫入をうまく説明できる。本地域の緑色岩の大部分を占める海洋島玄武岩と海嶺玄武岩の中間的な組成のソレアイトは@のような環境で形成されたと考えられる。

 

図1.小浜地域の微量元素スパイダーダイム
ヤグラ

 

図2.小浜地域のZr-Zr/Yによる分類図