オフィオライトのページ

金沢大学理学部地球学科
石渡 明


  目次                  図表

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1.オフィオライトとは

 地球上の造山帯に産する玄武岩・斑れい岩・かんらん岩などの層状複合岩体で,大きなものは長さ数100km,幅数10km,厚さ10km以上に達し,過去の海洋性地殻が造山運動によって大陸地殻に衝上したものと考えられています.

 オフィオライトをつくる岩石は,一般に下の図のような順序で重なっており,この重なり方は「火成層序」と呼ばれます.オフィオライトの火成層序は,地震波の伝わり方から知られている海洋地殻の層状構造と,下の図のように対応すると考えられています.

 「オフィオライト」は,直訳すれば「蛇石」であり,中国では「蛇緑岩」と訳しています.玄武岩や斑れい岩は変質して「緑色岩」に,かんらん岩も変質して「蛇紋岩」になっていることが多いので,この名があります.もどる 次ページへ 

 

 

 

 

 

 

 

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 オフィオライトは,20世紀初頭にアルプス山脈のもの(中生代)が知られて以来,世界各地から発見されました.オマーンのセマイル・オフィオライト(中生代),キプロスのトルドス・オフィオライト(中生代),カナダ・ニューファンドランド島のベイオブアイランズ・オフィオライト(古生代前期),パプアニューギニアのパプア・オフィオライト(中生代)が有名です.

 日本にも夜久野(やくの;古生代後期),幌加内(ほろかない;中生代),幌尻(ぽろしり;中生代)の3つの完全なオフィオライトがあり,他にも大江山(古生代前期),宮守・早池峰(古生代前期),御荷鉾(みかぶ;中生代),瀬戸川・嶺岡(新生代)など不完全なものが多数あります.

 オフィオライトは,大規模な衝上岩体(ナップ)として産する場合と,断片化されたメランジとして産する場合があります.例えば,下の図のように,近畿地方の内帯では,古生代後期に形成された夜久野オフィオライトの衝上岩体(舞鶴帯)が,丹波帯のジュラ紀付加体に衝上しており,更にその上に,大江山オフィオライト(古生代前期)の衝上岩体が乗っています.しかし,飛騨山地東部では,これらが断片化されてメランジを形成しています.太平洋側(外帯)の御荷鉾や瀬戸川・嶺岡のオフィオライトも,メランジを形成しています.

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2.オフィオライトの岩石学的分類

 オフィオライトには、大洋底のプレート拡大境界(海嶺)で形成されたもの(MORタイプ)と、プレートの沈み込み帯の上(島弧-縁海系)で形成されたもの(SSZタイプ)があるとされています。これらは、オフィオライトに含まれる火成岩の種類や鉱物・化学組成を、現在の様々な構造環境で形成される火成岩と比べることによって、推定されています。

 オフィオライトの溶け残りかんらん岩は、マントルが部分的に溶けてマグマが発生し、マグマが地殻浅所や海底へ移動したあとの、溶け残り物質(かんらん石などの結晶)が固まった岩石です。始源的なマントル物質は単斜輝石を多量に含むレールゾライトですが、単斜輝石は溶けやすいので、マントルの溶融程度が増大すると、下の図のように、単斜輝石がやや少ないレールゾライトを経て、単斜輝石の少ないハルツバージャイトへと変化します。海嶺下のマントルはレールゾライト的ですが、島弧下のマントルはハルツバージャイト的です。 ●もどる 次ページへ

 

 

 

 

 

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 上述のようなマントルかんらん岩の性質の変化に応じて、地殻浅所に集まったマグマから形成された火成沈積岩の鉱物晶出順序は、かんらん石の次に斜長石が晶出するもの(特徴的な岩石はトロクトライト)から、単斜輝石が晶出するもの(かんらん石単斜輝石岩〜ウェルライトが特徴的)を経て、斜方輝石が晶出するもの(かんらん石斜方輝石岩〜沈積性ハルツバージャイトが特徴的)へと変化して行きます。

 また、これに応じて、海底に噴出する玄武岩の性質もアルカリに富むものから、高アルミナ玄武岩(海嶺玄武岩MORBなど)及び低アルミナ玄武岩(島弧ソレイアイトIATなど)を経て母人岩(高マグネシア安山岩)へと変化します.

 これらの対応関係は、下の図のようにまとめられます。

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3.環太平洋造山帯のオフィオライト

 日本をはじめ,ロシア極東地方や北米西岸のオフィオライトは,大洋プレートの沈み込みによって形成された付加体の間に,挟み込まれた形で産します.図に示した北米西岸の例のように,環太平洋地域の付加体は上に重なるものほど地層の年代が古い傾向があり,オフィオライトも,構造的に上位を占めるものほど形成年代が古い傾向があります.西南日本でも,古生代後期の夜久野オフィオライトの上に古生代前期の大江山オフィオライトが衝上している関係が見られます.

 このように,古生代以後に形成されたオフィオライトがいくつも重なり合い,古いものが上に乗ることは,環太平洋地域のオフィオライト帯の特徴であり,「環太平洋顕生代多重オフィオライト帯」と呼びます.この構造は,沈み込む海洋堆積物が,古い付加帯の下に「底づけ」されるために形成されますが,岩石学的性質からみて,多くのオフィオライトは,沈み込む海洋プレートの断片ではなく,沈み込み帯上の島弧-縁海系地殻・マントルの破片と考えられます.もどる 次ページへ

 

 

 

 

 

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4.オフィオライト形成年代の3つのパルス

 世界各地のオフィオライトの形成年代の統計をとると、下の図のように約3億年周期の顕著な3つのピーク(それぞれ、7.5, 4.5, 1.5億年前頃)が認められます。これらをオフィオライト・パルスと呼びます。各パルスの時期は、花崗岩が多量に形成された時期でもあり、地球全体で火成作用(マグマの活動)が活発になった時期だったと考えられます。

 約1〜1.5億年前の中生代の最も新しいパルスの時期に形成された海洋地殻は、現在の海底でも広い面積を占め、この時期に海洋地殻の生産が盛んだったことがわかります。またこの時期は、地球磁場の約100万年周期の規則的な逆転現象が、長期間起こらなかった時期でもあります。地球磁場の大部分は核で発生することから、核で何らかの異変が起き、核マントル境界から大規模な上昇流(スーパープルーム)が発生して地表まで達し、地表面全体でマグマ活動を活発化させたとする仮説が、最近は有力になっています。もどる 次ページへ

 

 

 

 

 

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5.世界のオフィオライト帯

 各オフィオライト・パルスの時代に形成されたオフィオライトは,それぞれ異なるオフィオライト帯に分布する傾向があります.原生代後期(7.5億年前頃)のオフィオライトは主としてアフリカ大陸を取り巻く汎アフリカ造山帯に,古生代前期(4.5億年前頃)のオフィオライトはアパラチア(北米東岸)−カレドニア(欧州北部)−ウラル(ロシア)-天山・祁連山(中国)に,そして中生代(1.5億年前頃)のオフィオライトはアルプス-東地中海地域-中東地域-ヒマラヤ-インドシナ半島へ続くユーラシア南縁造山帯に分布します.しかし,日本,ロシア極東,北米西岸,南米西岸,ニュージーランド,オーストラリアなどの環太平洋造山帯には,古生代前期のオフィオライトと中生代のオフィオライトの両方が多数存在し,古生代後期や新生代のオフィオライトもあって,オフィオライトの形成年代が広範囲にわたります.このことは,環太平洋造山帯が,古生代初期以後現在まで一貫して,海洋プレートの沈み込みによって成長する付加型造山帯であったことによります.他の大陸衝突型造山帯では,海洋性地殻(オフィオライト)の形成と破壊(衝上)が,短時間(1千万年程度)で一斉に起こりますが,付加型造山帯ではそれが何回も繰り返されたわけです.   ●もどる 次ページへ

 

 

 

 

 

 

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