タコブネ(地学団体研究会北陸支部連絡紙)第2巻、第4号 2000年1月5日発行

事務局:920-1192 金沢市角間町金沢大学理学部地球学教室内 Tel:076-264-5724 Fax:076-264-5746

責任者:石渡 明 (支部年会費500円:郵便振替口座 00790-4-12164 名義人:石渡 明) e-mail:

geoishw@kenroku.kanazawa-u.ac.jp (http://kgeopp6.s.kanazawa-u.ac.jp/~ishiwata/hokuriku.htm)

 

支部長挨拶 「二千年を迎えて」

 

 新年おめでとうございます。昨年を振り返るといろいろなことがありました。その中でも私にとって大変衝撃的なことは9月30日に発生した茨城県東海村の臨界事故でした。原子力の平和利用と称して、この国では原子力発電になぜかこだわり、世界にも例をみない「プルサーマル」という聞き慣れない言葉で新たな方式の原子力発電を推進しています。軽水炉発電で余ってくるプルトニュウムをウラニュウムに混ぜて燃料とする方式は技術的にも未解決の問題を抱えたままです。臨界事故は日本の原子力発電の作られた安全神話の中で起こるべくして起こりました。マリー・キュリーの研究以来、確かに原子力は医療でめざましい効用を発揮してきました。その一方、ブラジル、コイニアでのセシュウム投棄と、それを拾った子供とその家族の悲劇にみられるように、放射性廃棄物の管理は人類にとって万全であるとはいえません。

 昨年10月12日、私は地質学会巡検で核燃料サイクル開発機構・東濃地科学センター・東濃鉱山・超深地層研究所の見学に参加しました。核燃料サイクル開発機構という聞き慣れない名称は、前の動力炉・核燃料開発事業団が事故隠しの批判の後変更したものです。ここでいう「サイクル」とはまさに「プルサーマル」を指しています。阪神淡路大震災の1995年以降から始まった総額17兆円という巨額を投じた国の科学技術振興策のもとに、核燃料サイクル開発機構でも、今は稼働していない鉱山の坑道を利用した地震、断層、地球化学関係の研究がおこなわれています。これらの研究が「プルサーマル」とは直接関わらないとしても、核廃棄物地下処理とは何らかの形で関係する問題を扱っているといえます。核廃棄物処理は今後の地球科学の第一級の課題であると思います。原子力発電だけでなく、医療その他の核廃棄物を人類がどのように扱うかも地球科学に問われています。核燃料サイクル開発機構での研究が直接には核廃棄とは関係しないといっても、結局は核廃棄の問題につながるものであるという認識は必要です。地質学会巡検参加者は10名ほどの少人数でした。これは核燃料とそれに関する問題に対して、学会員が十分な関心を持っていないことを示しています。「核のゴミはいらない」という「のぼり」のはためく中で東濃地科学センターの人たちが仕事をしていました。決して理解されているという幸せな雰囲気ではありませんでした。一方、国の政策のもとで巨大な研究費が研究者自身の自覚のないままに、核廃棄物の問題に投ぜられています。

 臨界事故後83日目の12月21日午後11寺21分、大内久さん35歳が多機能不全という典型的な急性放射線障害で亡くなりました。人の年間被爆線量1ミリ・シーベルトの推定1万7千倍、17シーベルトの放射線を浴びた結果でした。「核燃料サイクル」とか「プルサーマル」などという不明な日本語を用いないで、国民一人ひとりに十分理解され、支持されるような原子力行政をおこなわない限り、そして自覚的地球科学研究者の本格的な核廃棄物処理研究体制ができない限り、ふたたび放射能事故が起きるだろうと思います。私は地学専門用語やカタカナをなるべく使わないで、普通の人にわかる地学を広めていきたいと思います。      (地団研北陸支部長 富山大学教育学部 宇井啓高)

 

1999年12月11日地団研北陸支部講演会報告(福井市自然史博)

 

講演「姶良Tn火山灰の風化について」 喜夛佐由里氏(福井県立道守高校)の紹介

 

 地質学雑誌第105巻、410-420頁(1999)の内容について紹介があった。富山県中新川郡立山町千垣のテフラで有名な露頭は、富山地方鉄道千垣駅の北西数百mにあり、AT層が保存よく見られる。この火山灰層は約2.5万年前の姶良カルデラ、入戸火砕流の火山灰である。この火山灰層の風化を屈折率と表面構造のSEMの映像で解析し、AT火山ガラスが風化によって表面にくぼみができ、風化の進行とともにそれが大きくなること、火山ガラスの屈折率が 溶解の進行とともに低くなることが説明された。質問では屈折率の変化が小数点4桁のところで議論されていることに対して、測定精度を問うものがあった。昔の標準液によるベッケ線の動きで屈折率を測定する方法しか知らない私も、そんなに精度のあるものかが大変疑問であった。温度変化型屈折率測定装置MAIOTの測定精度が1×10−4 程度であるというから、やはり小数点以下4桁目は怪しいと思った方がいいけれど、大変な精度ではある。風化や溶解で屈折率が下がる理由は水和の影響ではないかという喜夛さんのお答えであった。最近高年齢化の見られる地団研の例会で、若き発表者の話を聞けるのは大変うれしいことであった。 (宇井啓高記)

 

 

講演「卯辰山層の珪藻化石について」 山本英喜氏(石川県教育センター)の紹介

 

 「北陸の自然をたずねて」改訂版に金沢周辺コースの執筆をお願いした関係で,非会員の山本さんに,長年研究されてきた珪藻化石について講演していただいた.教員研修会用の「ケイソウ化石による古環境の調べ方」,「能登の露頭観察の手引き」,「金沢市に分布する卯辰山累層の珪藻化石群集とその教材化」(その一部のコピー)など多数の資料が配布され,それらをもとに珪藻化石の浮遊性種と付着性種の区別,付着性種の形態が淡水,汽水,海水の順に細長い形から円い形へと変化すること,この変化は生徒でもわかり,授業に取り入れられることなどのお話しがあり,さらに卯辰山層の研究史,大桑層との境界問題,主に淡水種の珪藻化石を産する卯辰山層中に海水種を産する泥岩が7層あり,氷河性海水準変動が関与していた可能性があることなどのお話しがあった.付着性種の水域による形態変化については,例外もあり注意が必要とのコメントが松山氏からあった.山本さんが2〜3部持参された「石川の自然」地学編は色刷りで人気が高く,希望者続出だった.(石渡 明記,写真はすべて中川登美雄撮影)

 

出席者(五十音順,敬称略):赤羽久忠(富山市科文セ),石渡 明(金沢大),宇井啓高(富山大),梅田美由紀(福井市自然史博),竃義夫(北陸地質研),*喜夛佐由里(福井県道守高),中川登美雄(福井県丸岡高),西本洋一(福井県嶺南東養護),野村正純(七尾市有磯小),松山幸弘(ジビル調査設計),安野敏勝(福井県高志高),山本 茂(立山カルデラ博),*山本英喜(石川県教育センター).以上13名,*講演者.

総会報告(同会場)

1.全国運営委員会報告(中川登美雄委員)

 まず,井尻正二会員が12月1日に逝去され,本日(12月11日)葬儀が行われること,北陸支部から「支部会員一同」名で弔電を送ったことが,支部事務局から報告された.

 

1999年度  地団研 第1回全国運営委員会報告<抜粋>  中川登美雄

1.入退会

 16人の退会,9人の入会(2名は2000年度より)を認めました.北陸支部3人は保留してあります.

2. 会計中間報告

 現在,昨年度と同程度の繰越金があるので2001年度の値上げは回避できそうです.

3. 規約について

  係会を規約で明確にする.いずれにしても規約改正を伴うので「そくほう」で提案,神奈川総会で

 承認を得ることとする.事務局担当全国運営委員の「若干名」問題は,現状を維持しつつ努力する事

 とする.なお,「若干名」について検討したことを「そくほう」に掲載する.

4. 将来構想のための総括委員会発足に向けて

 地団研の創造活動,地団研の普及活動,地団研の条件づくりについてまず総括する.現状分析に重点

 をおき「みんなで科学を」以降の総括を行う.地学教育や地域,学界における地団研,平和と民主主

 義についてはこの中で含めて総括する.30周年以降の全般的総括,地団研の組織活動の現状と問題点

 についてはこの総括後に考える.

5. 地質科学関連学協会連合の結成に関して

  来年5月設立予定の地質科学関連学協会連合に地団研として設立に異議はなく参加していくことで 

 検討する.ただし,会員管理や事務共通化については地団研の独自性を失うので参加できない.

6.科研費問題

  来年度,和文誌への科研費補助金打ち切りが決まったが地球科学の英文誌への転換は難しい.とり

 あえず申清するが門前払いの可能性が大きい.

7.地質学会ニュース問題

  地質学会ニュース1999年9月号に掲載された,地質学会総会で「都城賞」が否決された件に関す

 る嶋本氏の意見中に,地団研を誹謗中傷する文言を含む月刊地球号外5号(1992)に対して,「地団研が

 同誌の勧めにもかかわらず反対特集を組まなかった」と記しているのは事実誤認なので,地質学会に

 抗議するかどうかという問題.なお,月刊地球はその後の社告で地団研に謝罪したが,特集の話はな

 かった.

 

2.「北陸の自然をたずねて」編集状況(石渡 明)

<現在の状況>

 3県とも,項目の枠組みと執筆者がほぼ決定した.いくつかのコースで原稿の素案ができている.

<基本方針(前回の再確認だが,事務局判断で下線部を追加)>

1. 地団研北陸支部が中心となって作成するが,支部会員・地団研以外の人にも執筆を依頼する.

  1.  
  2. 2001年9月頃に金沢大学で開催予定の日本地質学会までに出版する.従って,原稿締め切りは2000年末とする.(ただし,編集作業の都合上,2000年2月末日を初稿の提出期限とする.)
  3.  
  4. 1979年に地団研北陸支部が中心になって出版した「北陸の地質をめぐって」の改訂版という
  5. 意味合いの本とする.
  6. 原稿は,中学生・高校生が読んでわかる文にする.専門用語や教科書に載っていない事項が含まれていてもよいが,その場合はわかりやすい説明をつける.

【最後の2ページに,築地書館による「執筆要領」を掲げますので,著者の方は参考にして下さい.】
  
------Web版では省略します.------

竃先生の意見:記述された通りのコースに沿って巡検する読者は非常に少ない.むしろその地域の地質の大略を知りたい読者がこの種の本を購入する.だから地質概略図や層序表,模式柱状図などもつけて,露頭の記載だけでなく,地域の地質全体がわかるように配慮すべきだ.また,現在の交通状況からみて,鉄道やバス路線の記載は不必要だと思う(これについて,築地書館に問い合わせたところ,地域の状況に応じて,不要なら記載しなくてよいとのこと).

 

<次回編集会議>

 2000年3月4日(土)13:00-17:00に石川県女性センター(金沢市三社1-44,金沢駅東口前の大通りを福井方向へまっすぐ進み,六枚町交差点・中央郵便局前を経て徒歩15分)で行います.各県幹事は,前回編集会議と今回の会議で配布された原稿素案を査読して改善意見を記し,編集会議で議論して内容や執筆要領を詰める.できるだけ原稿を集めて持参する.

 

<前書き・全体の地質・自然>未定 (前書き原稿試案あり)

 

<福井県分の試案> (幹事:中川登美雄・安野敏勝)

1. 内浦地域(中新世の堆積岩を中心に)  中川登美雄○原稿あり

2. 大島半島(オフィオライトを中心に)  石渡 明○原稿あり

3. 敦賀・矢良巣岳地域(丹波帯・超丹波帯・漸新世礫岩と食い違い礫)

    木戸 聡・梅田美由紀

(囲み記事) 水月湖からわかる環境変動  福沢仁之(2p)

4. 南条地域(美濃帯中古生層) 梅田美由紀

(囲み記事) 放散虫化石  田賀秀子

5. 朝日・織田地域(段丘堆積物・活断層,糸生層) 山本博文・中川登美雄

(囲み記事) 糸生層から産出する昆虫・魚類化石: 安野敏勝(1p)

6. 足羽三山(地質と自然): 梅田美由紀・吉澤康暢

(囲み記事) 福井平野東縁活断層と福井地震  山本博文

7. 越前海岸地域(中新世の堆積岩・段丘堆積物) 中川登美雄○原稿あり

(囲み記事) 越廼村の足跡化石  安野敏勝(1p)

(囲み記事) 海食洞と隆起波食棚  山本博文・中川登美雄(2p)

(囲み記事) 越前海岸岩盤崩落記事  中川登美雄

8. 三国地域(米ヶ脇層と火山岩)  安野敏勝・中川登美雄・吉澤康暢○原稿あり

(囲み記事) 東尋坊のピジョン輝石安山岩  石渡 明○原稿あり

(囲み記事) ナホトカ号と重油流出事故  田崎和江

9. 加賀−金津地域(第三系と第四系) 中川登美雄・吉澤康暢○原稿あり

10. 勝山地域(恐竜) 保留

11. 和泉村(手取層群と飛騨外縁帯)  安野敏勝

(囲み記事) 荒島岳コールドロン  石渡 明

(囲み記事) 佐開断層  山本博文

 

<石川県分の試案>(幹事:石渡 明・田崎和江)

1. 白山火山と白山の動植物  東野外志男

   (白山柳谷湧水のバイオマット)  田崎和江 ○原稿あり

2. 白峰周辺の手取層群と恐竜化石  松浦信臣

3. 加賀山地の真珠岩と月長石  石渡 明

   (囲み記事) 1995年の根上隕石落下  石渡 明 ○原稿あり

   (囲み記事) 森本活断層  石渡 明

4. 金沢周辺の地層と貝化石および河岸段丘  山本英喜

   (囲み記事) 氷河性海面変動  山本英喜

   (囲み記事) 大桑層・卯辰山層の珪藻化石  山本英喜

5. 宝達山の花崗岩  田村芳彦

   (囲み記事) 内灘砂丘と河北潟  田崎和江 ○原稿あり

6. 千里浜・邑知地溝帯・海岸段丘  神谷隆宏・大村明雄

7. 七尾周辺の自然  野村正純

8. 能登金剛:羽咋〜富来〜門前  田村芳彦

9. 能登外浦:輪島〜珠洲  加藤道雄

   (囲み記事) 舳倉島・七ツ島  佐藤博明

   (囲み記事) 子振り石・珪化木・珪藻土 赤羽久忠

   (囲み記事) 1993年能登半島沖地震  石渡 明

10.能登内浦:穴水〜珠洲  加藤道雄

   (囲み記事) 真脇遺跡  未定

   (囲み記事) 九十九湾  大村明雄

 

<富山県分の試案>(幹事:赤羽久忠・山本 茂)

1.富山湾                  竹内 章

    (囲み記事)富山湾の蜃気楼        寺島禎一

    (囲み記事)魚津・入善の埋没林      神嶋利夫

2.高岡・氷見地域              松島 洋

    (囲み記事)頭川

    (囲み記事)ひょうたん石         松島 洋

    (囲み記事)有孔虫            緑 鉄洋

    (囲み記事)地辷り            松島 洋

3.八尾周辺の地層と貝化石          金子一夫・清水正之

4.神通川流域の地質             宇井啓高

    (囲み記事)神岡鉱山の廃液とイタイイタイ病   田崎和江 ○原稿あり

    (囲み記事)飛騨変成岩          椚座圭太郎

5.呉羽山と射水丘陵             竹内 章

    (囲み記事)富山市直下の呉羽山活断層   竹内 章・川崎一朗

6.立山火山と立山カルデラ         山本 茂 ○原稿あり

    (囲み記事)立山の氷河地形        飯田 肇

    (囲み記事)立山の玉滴石     赤羽久忠

    (囲み記事)跡津川断層      竹内 章

    (囲み記事)飛騨地震        山本 茂

7.滑川・魚津地域              金子一夫

8.黒部川流域                国香正稔

    (囲み記事)宇奈月の十字石        国香正稔

    (囲み記事)黒部川上流の噴泉塔     赤羽久忠

    (囲み記事)宮崎海岸の翡翠        宮島 宏

9.境川上流                 後藤道治

    (囲み記事)上路の青海変成岩       石渡 明

10.富山県中部の地層と恐竜足跡化石     後藤道治

    (囲み記事)大山町産恐竜の歯       藤田将人

表紙,裏表紙(地質図),年代表などについても考える必要があります.

 

忘年会 1999年12月11日18:00-20:00に,福井駅前の「庄屋」で楽しく飲みました.今回の講演会・総会・忘年会でたいへんお世話になった福井市自然史博物館の梅田美由紀さん(右写真右端),どうもありがとうございました(下の写真は講演会・総会(左)と忘年会(右)の様子).

      

 

会計報告 (2000/01/05現在)

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収入 99/07/15 前回報告時の差引残高 67,913

  • (全国運営委員派遣旅費繰越金19,329円を含む)
  • 支部会費(7人)* 19,000

    99/07/24コンパ残金 3,034

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         収入総計 89,947

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    支出  99/08/30 タコブネ2巻3号発送費(切手+封筒) 6,715

    99/11/26 支部ニュース42号発送費(葉書代) 4,000

    99/12/06 井尻先生弔電 1,590

    00/01/05 タコブネ2巻4号発送費(切手) 6,400

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         支出総計 18,705

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         差引残高 71,242

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    *99/7/15以後に会費を支払った方(2000年1月5日〆支払い日順,敬称略)

    中塩,安野,野村,梅田,田崎,石渡,浜崎(以上7名)

     

    「北陸の自然をたずねて」の著者の方々へ

     

     お忙しいところ誠に恐縮ですが,2000年3月4日に予定されている第2回編集委員会で完成の見通しをつけ,築地書館との正式な契約に持っていきたいので,2月末日までに第1稿を完成させ,各県代表幹事または事務局までお送り下さいますようお願い申し上げます.以下のページに,築地書館編集部による「執筆要項」を原文のまま掲げますので,原稿を作成する際のご参考になさって下さい.

     

    「北陸の自然をたずねて」執筆要項

    築地書館 編集部 (以下原文のまま)

     

    省略