金沢市,戸室火山の岩屑流(岩なだれ)堆積物

[金沢大学理学部地球学教室] [岩石学・火山学グループ] [石渡研究室]  [説明図]

 [戸室山大崩壊―防災市民講座テキスト] [堆積物中の木片の年代測定結果] [巨木出土]


 金沢市南東部の戸室火山は,隣のキゴ山とともに,約50万年前に形成された安山岩質の溶岩円頂丘です.金沢市街に面するこの火山の西半部は,2〜5万年前に地震または水蒸気爆発を引き金として大崩壊したとされ,この時の岩屑流(岩なだれ)堆積物は俵町,中山町,戸室新保,戸室別所,湯谷原町,小豆沢町など戸室山西麓一帯に広く分布しています.現在,金沢市俵町南方で大規模な道路工事が行われており,工事現場の壁面にこの岩屑流堆積物がよく露出しています.下にその様子を示します.なお,道路工事現場は非常に危険ですので,一般の方の立ち入りは禁止されています.

 この露頭は長さ200m程度の大露頭で,現在(1999/10/24)も切端の部分を前方と下方に掘り進んでいます(図1写真1).南側に最も上位の地層が見られ,これは径5cm程度の医王山累層起源?の円礫を主とする砂礫層(最大層厚10m,上限不明,図1の黄色と黄土色の部分,写真2)です.その下には50cm大の木片(写真3)や黒い腐植層を含む厚さ5m程度の赤色泥層があり(写真4図1の茶色と黒の部分),この地層は戸室山の岩屑流堆積物上のところどころに不規則に載っています.泥層・砂礫層とも非常に乱れていて(写真4写真5),(1)これらが堆積後にもう一度地すべりのような現象が起きたか,(2)泥や砂礫が堆積していたところに,戸室山から滑ってきた流山が突入したか,どちらかだと思います.また,厚さ10〜15m程度の岩屑流堆積物の下位には無層理の泥層(写真6図1の灰色,黄緑,青緑の部分;卯辰山層?)があります.戸室山の崩壊による岩屑流の発生は2〜5万年前という説があり,泥岩の中の木片の炭素同位体比を測定すれば,その時期を絞り込める可能性があります.なお,この露頭は,俵町にお住まいの田崎和江先生のご紹介により,観察することができましたことを申し添えます.

 

図1.俵南方の戸室火山岩屑流堆積物露頭のスケッチ
説明文写真1写真2写真3写真4写真5写真6

●上のスケッチで「青灰色泥層」として灰色に塗られている部分は,その後,風化した安山岩質角礫岩(礫はいわゆる「青戸室」)であることがわかりました.その上の赤色の岩屑流堆積物と異なり,礫とマトリックス(基質)がほとんど同じ固結度のため,一見均質な泥層のように見えたものです.石渡ほか(2001)の日本地質学会における講演では,この層を「下部岩屑流堆積物」としました.この学会講演要旨には岩屑流堆積物の分布図と俵露頭全体のスケッチが掲載されています.「戸室山大崩壊」のページの資料1をご参照下さい.なお,この露頭は,既にコンクリートで完全に覆われてしまい,地層を見ることはできません.(2001年12月15日追記)

 

写真1.露頭遠景(画面中央,工事中の道の向う側の切断面が図1の西面.正面のコンクリート壁が図1の左端に当たります) 
[もどる→文頭説明文図1]

 

写真2.岩屑流堆積物に載る赤色泥層(画面中央)とそれを覆う砂礫層(画面上半部) 
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写真3.赤色泥層中の木片(画面中央から右下の黒い物体) 
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写真4.赤色泥層中の黒色炭質層.炭質層は不規則に切れたり曲がったりしている. 
[もどる→文頭説明文図1]

 

写真5.赤色泥層はこの写真ではやや青みがかって見え,下部では黄色に変化している.画面中央の断層を境に,右側の泥層が下へ4m以上ずれ,非常に厚くなっている(3m以上).画面下部の赤色部分は岩屑流堆積物.画面左上に排水溝があり,1つの溝材は長さ1m.
[もどる→文頭説明文図1]

 

写真6.この部分では岩屑流堆積物(上部のガサガサした赤色の層)が下位の泥層を覆う不整合面が見られる.

【注】上の6枚の写真は,すべて日陰で撮影したので,実際よりかなり青っぽく写っています.

[もどる→文頭説明文図1]


1998/10/26 作成, 2001/12/15 更新