金沢の段丘

金沢大学理学部地球学科 石渡 明

[河岸段丘分布略図] [地形・地質断面図] [天神坂写真集] [牛坂写真集]

[金沢大学理学部地球学科] [石渡研究室] [石渡ページ]


 天神坂と牛坂の中間にある鶴間(つるま)坂(下の地図では若松町の向かい側)で,最近小さな崩落があり,小立野段丘礫層とその下の卯辰山層の境界面がよく観察できるようになりました.明日8月1日から,鶴間坂を車両通行止めにして遊歩道にするために,金沢市による工事が始まる予定で,しかも夏休みに入った時期で子供の自由研究の材料にもなるということで,地元の北國新聞が2002年7月29日(月)朝刊に鶴間坂の話を記事として掲載しました.コピーを掲げますので,ご覧下さい.この坂は私の教養講義「マントルへの地底旅行」の最初の野外実習で必ず訪問する場所で,この坂が車両通行止めになり,ゆっくり地層を観察できるようになるのは,すばらしいことと喜んでおります.(2002年7月31日追記)

[鶴間坂新聞記事1(前半)] [鶴間坂新聞記事2(後半)] 

鶴間坂で2003年9月下旬頃,斜面防災工事が行われたようです.その工事関係者のDayDreamBelieverさんが,鶴間坂上部の小立野段丘礫層の見事な写真を提供して下さいましたので,ここに掲載いたします.下をクリックしてご覧下さい.(画像の大きさは各700KB強)(2003年10月27日追記)

[鶴間坂写真1] [鶴間坂写真2] [鶴間坂写真3]


 

 金沢は坂が多い街です.これは,犀川と浅野川という,南東から北西へ並行して流れる2本の川の河岸段丘にまたがって街が発達しているためです(図1).段丘があると,交通には多少不便ですが,その斜面には緑が残り,至るところに泉や湧水があって,変化のある美しい景観と,市民の憩いの場を提供しています.

図1.金沢の河岸段丘分布略図
文頭)(図2)(天神坂)(牛坂
 河岸段丘は,1万年から数10万年前の河川によって形成された扇状地の名残で,一般に高い段丘ほど古い時代のものです.その当時は,各段丘面の上を大きな河川が流れていたわけですから,我々が現在の河原で見るような,大きな円い石(礫:れき)でできた地層が,10m程度の厚さで各段丘面に堆積しています.また,各段丘面は昔の河川の名残ですから,当然上流側から下流側へゆるく傾いています.高さの異なる2つの段丘,または段丘と現在の河川の面(沖積地)の間は,急な崖(がけ)になっていて,これを段丘崖(だんきゅうがい)と呼びます.この崖(がけ)は,地層がずれてできた「断層」ではなく,河川の浸食作用によって,川の流れに削られてできた崖です.金沢の坂はこの段丘崖を上り下りするための坂で,坂を登っても山になっているわけではなく,坂の上は平地です.

図2.金沢の段丘地形・地質断面図 (図1のA-B線に沿う断面) (文頭)(図1

 図2に示すように,金沢の段丘では,犀川と浅野川に挟まれたひときわ目立つ高台である小立野段丘が最も高く,兼六園や金沢城はこの段丘の先端部につくられており,金沢大学の医学部,薬学部,工学部などもこの段丘の上にあります.そして,その南西側には,一段低い笠舞段丘があり(詳しく見ると上下2段に分かれています),犀川沖積地の対岸には,小立野段丘よりは低いが笠舞段丘よりは高い寺町段丘があります.金沢大学角間キャンパスがある卯辰山丘陵地は,低い山々が連なっていて,平地はほとんどありませんが,山の上にはしばしば段丘礫層が残っており,長い間の浸食によって削られてしまった最も古い段丘面の名残と考えられます. 

[天神坂写真集] [牛坂写真集]

 金沢の段丘の形成には,この地域特有の土地の隆起と,地球全体の海水面の変動(氷河性海面変動)の両方が関与しています.金沢地域の隆起は,ほとんど「森本活断層系」(野町断層・富樫断層を含む)の活動によって起こっており,数千年に1回程度の割合でマグニチュード7以上の規模の地震を起こしながら,丘陵側が隆起し,平野側が沈降する動きを続けてきたと考えられます.地球全体の海水面の上下変動は,自転軸の移動による極付近の海陸の気候変化,地球の自転軸の角度変化や地球公転軌道の形の変化,太陽活動の変化などを原因とする長期的な気候変動によって,極地方の氷の量が変化するために起こるもので,数万年の間に100m程度も海面の高さが上下します.南極大陸の氷が全部溶けると,世界の海面は50m以上上昇し,氷河期になれば,海面は現在よりも100m以上低下します.海面が低下すると河川は土地を削り込み,その両側に段丘が形成されます.文頭にもどる

 段丘を構成する地層は,普通は植生や建造物に覆われていて,あまり見ることができませんが,最近,道路工事や斜面崩壊などによって,小立野段丘の北東側の崖に,段丘をつくる地層の露頭が出現しました.


【金沢市天神町,天神坂露頭】 文頭)(図1)(図2)(牛坂

 次に示すいくつかの写真は,浅野川沖積地の金沢市天神町と小立野段丘の金沢市宝町の間の天神坂道路工事現場に露出した,礫層とその下の卯辰山層(主として泥や砂の地層)の間の不整合面です(小立野5丁目の金沢美大正門のすぐ近くです.1998年9月19日に,現場責任者の許可を得て撮影しました).

← 金沢美大正門の近くから天神坂下方面を見た写真.中央の梯子が掛かっている斜面に地層が露出し,上部は小立野段丘礫層,下部は卯辰山層です.その境界の不整合面は写真下半の縄の直下に見えます.

↑小立野段丘礫層.中央の黒いレンズキャップは
直径7cm.約10cm程度の大きさの円い礫が多い

↑→ 小立野段丘礫層(上)と卯辰山層(下)の間の不整合面.ハンマーの長さは32cm.


【金沢市小立野2丁目,牛坂露頭】 文頭)(図1)(図2)(天神坂

 次に示すいくつかの写真は,金沢市小立野2丁目の通称「牛坂」の崖崩れ現場(1999年3月崩壊)に露出した段丘礫層と卯辰山層の間の不整合面です.1999年5月26日と6月2日に撮影しました.県道を片側交互通行にして斜面の改修作業が進められていました.改修工事が完成すれば,露頭はコンクリートで覆われて,見えなくなってしまうでしょう.

 急斜面の上半部が小立野段丘礫層,下半部が卯辰山層の砂岩で,境界の不整合面は,右の写真の中央部,板塀のすぐ上にありますが,その左方では不整合面がやや高くなっています.

 不整合面の拡大写真.段丘礫層には,直径20cm程度の円礫が多いようです.牛坂のほうが天神坂より上流側なので,礫も大きいのでしょう.


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1999/06/03 作成,2003/10/27更新