ずっしり重い白玉石(礬土頁岩)

石渡ページにもどる  金沢大学理学部地球学科 石渡 明

【写真】 「白玉石」.玉の左上部の色が特に白い.黒いキャップは直径7 cm.

 この写真の白くて丸い石は何でしょう.これは,金沢大学理学部生物学科の中村浩二教授が1998年の夏にインドネシア西ジャワ地方の調査旅行から持ちかえったもので,同年8月下旬頃,私に鑑定依頼された2つの玉のうちの大きい方です.知り合いの方から頂いたとのことですが,べつに丸く磨いたわけではなく,この状態で天然に産するのだそうです.一見すると,純白の色といい,真ん丸な形といい,ピンポン玉のようなきめ細かい艶消しの光沢といい,普通より一回り大きな海亀の卵のようですが,持ってみるとずっしりと重く,中に金属でも入っているような感じがします.ここでは仮に「白玉石(しろたまいし)」と呼ぶことにします.よく見ると,玉の一部の白さが違っていて(写真で,玉の左上部が特に白い),もともと平行な縞状構造を持っていた岩石が真ん丸に削られたようにも見えます.この玉は,この縞の方向を長軸面として,やや扁平になっていて,小さい玉では,長径が40.0mm,短径が38.6mm,質量は114g,写真の大きい玉では,長径が51.0mm,短径が50.1mm,質量は240gです.これらの玉は非常に硬く,ナイフで引っ掻いても傷がつきません.

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 小さい玉を,ちょうど中心を切るように切断したところ,中心まで同じ白い岩石で,金属などは入っていませんでした.また,2つの玉について,水に対する比重を計ったところ,3.53と3.56で,玉の直径から体積を計算して密度を求めても,それぞれ3.55と3.54(g/cm3)なので,この岩石の密度はほぼ3.55と決定できました.通常の白い岩石(花崗岩,流紋岩,珪岩,石英砂岩,石灰岩など)の密度は2.5〜2.7程度であり,黒い岩石(玄武岩や斑れい岩)では2.7-2.9程度,マントルのかんらん岩でも3.1〜3.4程度ですから,3.55というのは非常に大きな密度です.

 金沢大学理学部地球学科の走査型電子顕微鏡(明石α30A型)-エネルギー分散型X線分析装置(Philips EDAX9100型)でこの岩石の元素組成の半定量分析を行ったところ,SiO2=10.1%, Al2O3=87.1%, FeO=0.3%, MnO=0.0%, MgO=1.2%, CaO=0.5%, BaO=0.7%, K2O=0.1%(計100.0%)という結果が出ました.即ち,この岩石はほとんどアルミナ(酸化アルミニウム)の塊で,その他に少量の珪素,マグネシウム,バリウム,カルシウム,鉄,カリウムなどの酸化物(多い順)を含むことが分かりました.アルミナの粉の塊と思えば,純白の色,にぶい光沢,大きな比重も納得できます.例えば,ダイアスポアという鉱物は,化学的には酸化・水酸化アルミニウム(AlO(OH))ですが,比重は3.3〜3.5です.コランダム(鋼玉)はほぼ純粋な酸化アルミニウム(Al2O3)で,比重は3.95-4.10もあります.今回分析した白い玉は,ほとんど微細なダイアスポアの集合体であると考えられます.

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 以上の観察・分析結果から,この白玉石は「礬土頁岩(ばんどけつがん)」である可能性が高いと言えます.礬土頁岩は,日本ではまず存在しない岩石ですが,中国大陸北部にはかなりあります.この頁岩は,古生代石炭紀〜ニ畳紀の地層が分布する炭田地帯に特徴的で,非常にアルミナ分に富み,ダイアスポアを主成分とします.Al2O3含有量は,奉天炭田のもので35-45%,河北・山東地方のもので45-70%です(いずれも,平凡社「地学事典」より).今回分析した岩石は,Al2O3含有量が87%もあり,非常に純度の高いものです.礬土頁岩は耐火物,研磨剤などとして利用されているそうですが,この白い玉は,まるで鳥類か爬虫類の卵のような外観で,不思議な魅力があり,しかも大理石などより重くて硬いので,愛玩用としての商品価値があるかもしれません.

 天然の産状を想像しますと,恐らく,よく成層した礬土頁岩の真っ白い地層が,波の荒い海岸の切り立った崖に露出していて,その下に波の浸食作用で丸く削られた礬土頁岩の玉砂利がたくさん転がっていて,波が来るたびにガラガラと大きな音をたてているのでしょう.しかし,地質図を見ますと,ジャワ島には古生代や中生代の地層は露出しておらず,新しい地層や火山岩ばかりです.スマトラ島やインドシナ半島のどこかの海岸なら,礬土頁岩の露出する場所があるかもしれません.あるいは,新生代の地層でも,こんなに硬い礬土頁岩を含む部分がある可能性も否定できません.もし,この岩石の産状についてご存知の方がいらっしゃいましたら,お知らせ下さい.

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(石渡 明;981101製作,981110更新)