進化古生物学研究室

古生物は地球の歴史を語り継ぐ


神谷 隆宏(教授)

 本研究室では、貝形虫(カイジンコ)を使って古生物学分野の幅広い研究を展開しています。貝形虫は体長約1㎜の甲殻類で、海水から淡水まで水のあるところならどこにでも生息します。その出現は古生代の初めで、石灰質の殻を持つため化石として豊富に産出するため進化・多様性の研究材料として優等生なのです。

  • 適応形態の進化
  • 浅い海に生える海草アマモの周辺に生息する貝形虫は、葉上に棲む種と砂底に棲む群の間で殻の形態が大きく異なる。これは、生活場所によって交尾行動が異なるため、その行動に便利な殻の形が発達したためである。この他にも貝形虫にはさまざまな適応形態がみられる。一見不思議な生物の形の謎解きって面白いですね。
  • 古環境の推定
  • 生きている貝形虫の殻の中のマグネシウムMg/カルシウムCaの割合は生息域の海水温で決まるため、海底の堆積物や地層から見つかる大昔の貝形虫化石のMg/Caの割合を調べればその時代の海水温や海面の高低が推定できる(海面の下降時代は気温が低く、上昇時代は気温が高い)。昔の環境を化石の化学分析からも探ることができるのです。
  • 日本海は進化のゆりかご
  • 日本列島の岩礁地に住む貝形虫を調べると、本来もっと南方の熱帯に生息する属から進化した日本固有種がたくさん見つかる。これら寒冷適応した固有種はどうやら日本海で誕生したらしい。そのシナリオは、第四紀の氷期には海面が低下したので、浅い海峡でつながる日本海は塩湖のような状態になり孤立した。このため孤立した日本海に取り残された熱帯種は南に逃げられず、大部分絶滅したが、突然変異で寒冷適応した一部の個体が生き残り新種となり、引き続く間氷期に北上して行ったらしい。このような進化は何度も起きたらしく、日本海原産の「本来南方種」は何度も種分化を繰り返しながらベーリング海を越えて北半球の海岸にひろがっていったことがわかっている。実にスケールの大きな進化のドラマです。
ページのトップへ