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角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


Kanazawa University
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末栄さん(神谷研)のオーストラリア滞在記


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1.はじめに-生きた化石“貝形虫”を知っていますか?

化石と聞くと恐竜やアンモナイトを想像する方が多いと思いますが、私は貝形虫という1mm以下の小さな生物を研究しています。この生物はカニやエビに近い甲殻類で海や湖、田んぼなど水のある様々な所に生息しています。この貝形虫の仲間は5億年も前から地球上に存在しており、貝形虫を調べることによって生物の進化・種分化の過程を詳しく追うことができます。近年、私達の研究室では日本海で誕生し北半球に広がっていった種の進化を研究し、例えば第四紀の海水準変動の結果塩湖の様になった日本海で寒冷適応した固有種が誕生したことなど、注目すべき進化イベントが分かってきました。
今回は赤道を挟んで日本とちょうど反対側の南半球オーストラリアで調査をしました。南半球ではどんな進化のイベントが起こったのか以前からとても興味がありましたが、実際に調査できるとは思っていませんでした。しかし、研究ではるばる遠い海外行くという、普通の大学生では滅多にできない経験の機会を頂くことができ、迷わず参加することを希望しました。地球学コースだからこそこのような機会に恵まれたと思っています。今回は海藻の上で生活している海生貝形虫の仲間を対象に、オーストラリア本島のシドニーとタスマニアを調査しました。この滞在記にはタスマニアの調査をメインに書きたいと思います。

2.タスマニアってどんなところ?

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タスマニアはオーストラリア大陸の南に位置する、北海道の8割ほどの大きさの島です。緯度は北半球でいうと北海道釧路付近に相当します(ちなみに私は卒業研究では釧路を含む北海道親潮域の貝形虫を研究しました)。タスマニアは同じ緯度上に環境汚染地域がないため、地球の自転によって大気が汚れることなく“世界で最も空気がきれいな島”と呼ばれています。またタスマニア州はオーストラリアの一部ですが、本土と海で隔てられているため固有の動植物が豊富なオーストラリアの中でも、さらに独特な動物相・植物相を誇っています。島全体の3分の1以上を占める国立公園や自然保護区で野生の動物たちに会うのも楽しみでした。調査は2011年9月19日~30日に行いました。南半球は冬から春になろうという頃でした。サンプル採取は海藻の表面に生活する微小生物を含むデトリタスをごく少量採取するだけでしたが、できるだけ国立公園や自然保護区を避け調査地点を設定するよう配慮しました。

3.海外で初めての調査

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今回研究対象としているのは海藻の上で生活している海生貝形虫の仲間なので、サンプル採取はまず目的の海藻が生えている良い岩礁地を探すことから始まります。良い岩礁地を見つけることができなければ試料を採ることができません。私は今回が初めての海外調査でしたが、あらかじめ日本でGoogle Earthなどで海岸の様子や現地の地質を入念に下調べしていった結果、良い試料を採取することができました。調査はサンプルをただ採ればいいというだけではなく、よい状態のサンプルを採取するために干潮の時間を調べてそれに合わせた時間を設定し、採取できた喜びに浸ることもつかの間、採取後すぐに次の日の採取地点に移動し、到着後はその日に採取した試料の洗浄・保存と顕微鏡による貝形虫標本のチェック、そして次の日のサンプル採取準備とめまぐるしい一連の作業が続きました。そのような具合でタスマニア島の東西南北計4地点と、シドニー1地点を調査しました。 なかなか大変なスケジュールでしたが、オーストラリアの貝形虫を生きているその日のうちに観察できたのは非常に良い経験になりました。はじめて見るオーストラリアの試料に、なかなか顕微鏡から目が離せませんでした。試料を観察すると日本周辺では見たことがない種グループ、日本周辺に生息する種に似ているけれど異なる種グループ、日本周辺に生息する種とほぼ同種と考えられる種グループの貝形虫を確認することができました。これらの3タイプは異なる方法で種分化したのではないかと考えられます。今後の研究で、オーストラリアの貝形虫群集についてより踏み込んだ知見が得られることが楽しみです。


 

4.タスマニアの自然・動物・人

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タスマニアは青い空、氷河で削られた険しい山岳地帯、恐竜が出てきそうなシダが茂った森、まるで宇宙にいるような感じになるくらい綺麗な星空…手つかずの自然ばかりでした。同行した神谷先生も15年前に一度来たけれどその頃とほとんど変わっていない、とおっしゃっていました。たまたま訪れた湖は鏡のようになっていて、どちらが空でどちらが水面なのか分からないほどでした。雄大な自然をそのままの姿で体験することができました。動物園でもないのに、ペンギンやワラビー・カンガルーの野生の姿も見ることができました。タスマニアの人たちはとても友好的で、サンプル採取に必要な物の調達に困っている時には親身になって助けて下さいました。子どもたちもサンプル採取をしていたら近寄ってきて一緒に手伝ってくれました。島の人たちは自然を大切にしており、自然と一緒に生きているという感じで時間もゆっくりと流れていました。自然環境と人の関わりを考えさせられる旅でもありました。

 

5.調査を終えて

刺激に満ちた大自然の下、貴重な試料を取ることができて良かったです。実験室にこもって実験するもの大切ですが、フィールドに出て調査をすると自分の研究分野の枠にとらわれない幅広い視野を身につけることができるということを今回の調査を通して改めて深く感じました。大学に入ってからフィールドに出て調査をする機会に恵まれているなとつくづく思います。フィールドには知的好奇心をかき立てられる様々な刺激が散りばめられており、一つでも多くのことを知りたいという気持ちになります。研究室に戻ってもそのような姿勢を持ち続け、“なんでだろう?”という気持ちを大切にこれからの研究に活かしていきたいです。

 

現在の項目:

1.はじめに-生きた化石“貝形虫”を知っていますか?
2.タスマニアってどんなところ?
3.海外で初めての調査
4.タスマニアの自然・動物・人
5.調査を終えて

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