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角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


Kanazawa University
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卒業生の声


土屋健 / Ken, TSUCHIYA
荒川浩樹 / Hiroki, ARAKAWA
阿部なつ江 / Natsue, ABE

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1.海洋研究開発機構(JAMSTEC)の阿部です

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こんにちは。私は、金沢大学地学科(当時:現地球学科)に1987年入学、1992年に大学院へ進学し、1997年に博士課程を修了した阿部なつ江と申します。現在は神奈川県横須賀市にある、海洋研究開発機構(通称JAMSTEC)という研究所で研究員をしています。「しんかい6500」という潜水調査船や、深海掘削船「ちきゅう」などを所有している研究所です。最近は映画「日本沈没」にも登場しているので、ご覧になった方も居るかもしれませんね。
 私の専門は「マントル岩石学」と自分では言っています。岩石学を専攻し、現在も研究しています。卒論〜博士課程の研究まで、ずっとマントル捕獲岩の記載岩石学的・地球科学的研究をしてきました。日本列島の下のマントルがどういう過程で形成されたかを明らかにする研究です。現在は、主に海洋地域の地下のマントル物質を研究しています。掘削船「ちきゅう」でマントルまでの掘削「21世紀モホール計画」を成功させることが私の今の大きな目標です。
 さて、なぜ私が金沢大学の地学科へ入学したか、そしてどうしてマントル岩石学研究の道を選んだか、そして現在どういう活動をしているのか、などを紹介したいと思います。

2.南極観測隊の夢からマントル岩石学?(I)

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もともとは天文学者になりたいと思っていたのですが、私は数学が苦手だったので、難しい数式を扱う天文(しかも物理学科で難易度が高い!)は、ちょっとムリそうだし、天文よりもむしろ地球や惑星のことを知りたくて、だったら地学科かな、と思ったのが地学科を選んだ理由です。何故金沢か?理由は簡単。もう一つ受験した東北にある旧帝大に落ちたから。でも金沢は高校時代に一度訪れて、とても良い場所だという印象があったので、住んでみたいという理由で選びました。
 岩石学を選んだことにはちょっとした逸話があります。当時の私は、世界中のあちこちに行ってみたい、人が行ったことがないようなところへ行ってみたい、という好奇心から、南極へ行ってみたいと思っていました。でも岩石学は面白そうなので、岩石の研究で南極へ、だったら隕石を研究すればいいかな?なんて考えました。日本の南極観測隊は南極で沢山の隕石を採取しているからです。

3.南極観測隊の夢からマントル岩石学?(II)

しかし金沢大学には隕石を研究している先生はいませんでした。そこで何を間違えたか、マントルかんらん岩を専門としていらっしゃる荒井章司先生の研究室のドアを「隕石の研究がしたいです」と言って叩いたのが私の研究生活を始めるきっかけでした。その時、荒井先生はちょっと困って「隕石の研究も面白いだろうけど、今はすぐにテーマが見つからないので、少し一緒に考えましょう。考えている間、卒論では地球の石で練習してみてはどうでしょう?隕石が落ちていても、地球の石か、隕石か見分けが付かなかったら困るでしょう?」と仰ったんです。それで素直にその言葉に従いました。かんらん岩の美しさと学問的おもしろさに魅せられて、未だにかんらん岩の研究を行っている、という訳です。卒論が終わって大学院に進学する際には、荒井先生に「かんらん岩の研究を続けるか、または隕石の研究を始めるか選びなさい」と言われました。折角かんらん岩研究の大家に師事したのであれば、かんらん岩研究をする方が得策だと思ったし、なにより美しいかんらん岩に魅了されていたので、かんらん岩を選びました。

4.進級論文?

話は前後しますが、専門学部での一年半は、卒業研究をするための基礎、地学の基本を授業や実験、野外実習で教わりました。これは後になってわかったことですが、金沢大学の地学科は、全国の他の大学の平均よりはるかに野外実習に力を入れています。
 当時の野外実習について紹介します。3年の前期には毎週土曜日の「土曜巡検」と称して金沢近郊で地質図を描く訓練をします。さらに夏休みに3週間の野外実習を行い、進級論文(通称「進論」)を提出します。これに合格しないと基本的に地質や岩石学で卒論を行うことができないことになっています(例外はあります)。ことのとき培った野外での観察力は、後々大変役に立ちます。3週間もの間、皆で合宿しながら野外を調査する間には、いろいろな出来事が起こります。夏休みが半分なくなるわけだし、合宿日は事前にこつこつアルバイトなどして稼がなくてはいけませんし、暑くて大変ですが、お金を払ってでも体験する価値があると思います。普通のパックツアーでは絶対経験できません。一人で習得することもできないので、この単位を取っておくと、就職の際にも大いに役に立つと思います。一生の宝になると思います。そのほかユニークな授業としては、鉱物学で400個もの造岩鉱物の名前(英語、日本語)、結晶形、化学式、同じ化学組成の鉱物名と同じ構造の鉱物名を覚えました。受験で英単語を覚えるように。ひたすら覚えている間は「こんなの一生使わない」と思っていましたが、今は時々思い出して、知らず知らずのうちに役に立っていることがあります。ちょうど算数の掛け算九九のようです。英単語も覚えている間はあまり必要だと思わないかもしれないけれど、いざ英語の文章を読んだり書いたりするのに必要なのと同じだと思います。

5.まさかの留年!?

話はさらに前後しますが、私は教養部時代に英語の単位をひとつ(正確には3/4単位)落として、なんと二年生を二回やる羽目になりました。つまり一年間留年してしまったのです(現在のカリキュラムではたった一つの授業を落としただけでは留年はありませんのでご安心を)。英語は高校時代からとても苦手で、いつも赤点ぎりぎりの成績でした。
 もともと文法や単語が身についていない上に、目的もよくわからなかったので、教養部時代は英語の必要性をほとんど感じていませんでした。でもまさか自分が留年するなんて思ってもいなかった自体で、そのときは大変落ち込んだものです。一年間の留年中に落とした英語の単位を無事に獲得し、やっとの事で専門学部へ進級したら、今度はいきなり専門の論文(もちろん英語)を読む宿題を出されたり、専門用語はすべて英語だったり、授業で先生は(長嶋茂雄バリの)英単語交じりの講義をしたり、と、英語漬けで戸惑うことばかり。それでも学年があがるにつれて、少しずつ専門用語にはなれていきましたが、英語で論文や教科書を読んだり、ましてや書いたりすることはとてもとてもできませんでした。
 そんな私が、研究者を目指すようになってから(大学院後期つまり博士課程に進学してから)、研究を続ける上では英語は必須であることを痛感し、努力した結果、現在は多少の不便は感じるものの、国際プロジェクトでちゃんと仕事をするまでになりました。(ちなみに今はTOEICでは800点くらいのスコアですが)国際学会でも英語で発表し、英語で質問し、英語で議論します。語学は慣れるまでには時間がかかりますが、目的さえあれば人間必死になって習得することができる、ということがよくわかりました。英語力はまだまだ努力して向上させたいと思っていますが、今英語が苦手な人も、これから向上する余地があるという例として受け止めて、あきらめないで頑張ってくださいね。

6.研究開始!!(I)

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卒論では、秋田県の一ノ目潟小さな昔の火山に産するかんらん岩捕獲岩の研究をしました。その結果は、岩石鉱物鉱床学会という学会の学術誌に論文として掲載されました。自分の名前が印刷されて多くの方がその論文を読んでくれる、ということはその当時大変嬉しかった物です。  その後、大学院へ進学し、西南日本の中国山地や北九州に産するかんらん岩捕獲岩の研究も行いました。基本的には、金沢大学で岩石の薄片を作成し、顕微鏡で観察して、X線マイクロプローブと呼ばれる分析機器で、岩石中に含まれる鉱物の化学組成を測定します。更に微量元素成分を測定するために、二次イオン質量分析計(SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometry)という分析機械を使用させてもらいました。そのために、現北海道大学教授・ゆり本尚義さん(1995年まで筑波大学、その後東京工業大学に2005年まで所属)にお願いし、共同で研究をさせて頂きました。
 そもそもマントルとは大陸や日本列島のような場所では、地下30kmよりも深いところにあります。地殻がそれだけ厚いのです。その地下深部の岩石をどうやって手にするかというと、火山のマグマが噴出する際に、地下深部にある火道(マグマの通り道)の壁の岩を引っかけてくることがあります。これが捕獲岩です。そしてマントルから捕獲されてきた物をマントル捕獲岩と呼んでいます。マントル捕獲岩は、アフリカ大陸やヨーロッパ大陸、米国大陸、オーストラリア大陸など、大陸ではあちこちで採取することが出来ます。マントル捕獲岩を含む地下深部のマントルから噴出する火山が多いためです。また、ハワイなどのホットスポット火山にも含まれていることがあります。

7.研究開始!!(II)

しかし、日本列島のような島弧沈み込み帯の火山は、地下の割と浅いところにマグマだまりを作るタイプの火山で、マントルの岩を捕獲してくることは希です。試料自体が非常に貴重で、大陸地域に比べると、圧倒的にデータが少なかったのです。私はそこに着目し、また当時地球科学に導入されはじめていた二次イオン質量分析計をうまく利用して、岩石の細かい記載と微量成分の測定を組み合わせて行いました。その結果、大陸地域のマントルや海洋地域のマントルとは異なる形成過程を経ていることが分かりました。これが私の博士課程研究の結果です。
 大学院在学中には、東北日本や西南日本、九州、北海道など日本中にかんらん岩の試料採取に行きました。また、世界のあちこちで行われる国際学会にも参加させて頂き、学会に付随する巡検(現地の詳しい研究者に案内して貰う)にも参加する機会がありました。世界中あちこちの、あまり観光客が行くことがない場所に調査・試料採集に行く貴重な経験をさせて頂きました。
 金沢大学大学院を修了し博士号を取得した後は、ゆり本先生がいらした東京工業大学へポスドク研究員(博士を取ったあとの研究員という意味)として3年間在籍した後、オーストラリアのシドニーにあるマッコーリー大学というところで、3年間マントルかんらん岩捕獲岩の研究を続けました。そして2003年3月に、現在の海洋研究開発機構(当時海洋科学技術センター)の研究員に採用され、海の岩石の研究を始めたというわけです。

8.海洋研究を始めて

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海洋で岩石を取ってきて研究するのは、大変な苦労を伴います。海の底は、月よりも遠い・・・という気がします。海水があるだけで、大きな障害になるのです。直接見ることは出来ないし、直接岩石を取ることも出来ない。まさに手探りの状態での観測を行います。陸地なら、今は衛星でどんなところでもだいたいの地形を見ることが出来るし、地図も簡単に手に入ります。しかし海底調査では、まず詳しい海底地形図を作るところから始めなくてはいけません。詳しい地形図がないと、何処に岩が露出していて、どんなところで岩石採取ができそうかも分かりません。それから、海底の下深くの石を取りたい私は、海底の下の地殻構造を調べて地球深部の石が何らかの原因で海底面に露出しているようなところを探します。船で調査に行ける機会は限られているので、毎年少しずつ調査を繰り返し、何年もかけてやっと岩石を採取することが出来る、ということもあります。
 皆さんはJAMSTECの深海掘削船「ちきゅう」というのを聞いたことがあるかもしれません。海底を掘削して地球の歴史を解明する為の巨大な船です。この船が科学計画を実施するのは2007年後半になりますが、同様の少し小型の掘削船は米国やヨーロッパが既に運航していて、米国の掘削船「ジョイデスレゾリューション号」は1985年から20年もの間、世界中の研究者を乗せて世界中の海底を掘削してきました。この掘削船に私は3回乗船する機会がありました。3回とも約2ヶ月乗船し、大西洋の海底を掘削しました。そのときの様子は、私のHPの方に掲載していますので、是非ご覧下さい。世界中の名だたる研究者達と一緒に同じ海底岩石試料を記載し研究する生活は、大変刺激的でまたとない良い経験になります。2ヶ月間陸地を見ることが出来ない缶詰生活は、辛いこともありますが、今は電子メールもインターネットも使えるのであまり不便も感じることなく快適に楽しく過ごすことが出来ます。

9.研究生活の魅力

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深い海の底から採取した岩石試料は、予想とは異なる物だったり、今まで見たことがないような種類だったり、驚くような発見が良くあります。大西洋のド真ん中の新しい海底が生まれる中央海嶺で、太古の昔に形成された地球深部の岩石を採取することもあります。最近の成果では、JAMSTECの研究船で3年以上かけて調査した場所で、北西太平洋の三陸沖へ行って、新しいタイプの火山を発見しました。この成果は、米国科学誌「サイエンス」に掲載され、最近日本でも様々な新聞やTVニュースに取り上げて頂いたので、覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんね。
 海は人類最後のフロンティアと呼ばれるほど、まだまだ未開の場所が多く、行けば必ず大発見がある、と言っても過言ではありません。毎回ワクワクしながら調査しています。大海原での夕焼けや朝日、二重の大きな虹、満天の星空、イルカや鯨、マンボウが浮遊する姿、見たことのない魚など、感動することばかりです。(*研究船での生活については、私個人のHPや、日本掘削科学コンソーシアムのHPにも掲載されていますので、是非ご覧下さい)
 また、特に掘削船での研究は国際プロジェクトなので、世界中の人と知り合いになれること、また乗船の為に世界中の港や海に行けることは、研究生活上大きな魅力です。何より嬉しいことは、自分の研究が世界で初めての発見であり、科学上重要な成果であることが認められるときですね。

10.これからの夢

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私が海洋の研究を始めてから3年半が立ちました。自分にとって新しい世界に飛び込んだ訳ですが、金沢大学在学中に培った岩石学の知識と、研究を進める基本的な姿勢は、今でもそのまま通用します。どんな世界に行っても共通して、何かをやり通すことに関しては個人計画でも大きなプロジェクトでも基本とする技量は同じだと思います。それを大学〜大学院にかけての10年間でみっちり教えて頂き、しっかりと身につけることが出来たと思います。
 今後は、これまでのかんらん岩岩石学研究に加えて、海洋地殻の掘削や海洋底の火山の研究も行っていく予定です。これから10年くらい先には、海洋地殻を完全に掘り抜いて、人類初の直接マントル掘削(21世紀モホール計画)を成功させることが、今最大の目標です。深海掘削などを通して、地球46億年の歴史を紐解くヒントを探したい。そんな夢を抱きつつ、これからも研究に励みたいと思います。是非皆さんも、一緒に船に乗って研究してみませんか?

11.参考URL

JAMSTEC
  http://w3.jamstec.go.jp/jamstec-j/index-j.html

地球発見 掘削船「ちきゅう」のこと
  http://w3.jamstec.go.jp/chikyu/jp/index.html

J-DESC 日本地球掘削科学コンソーシアム
  http://www.j-desc.org/

プチスポット火山の発見について
  http://w3.jamstec.go.jp/jamstec-j/PR/0607/0727/index.html

阿部なつ江のページ
  http://homepage2.nifty.com/abenatsu/

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2.南極観測隊の夢からマントル岩石学?(I)
3.南極観測隊の夢からマントル岩石学?(II)
4.進級論文?
5.まさかの留年!?
6.研究開始!!(I)
7.研究開始!!(II)
8.海洋研究を始めて
9.研究生活の魅力
10.これからの夢
11.参考URL