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角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


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亀谷さん(加藤研)の体験記


柴野さん(隅田研)
亀谷さん(加藤研)
服部君(水上研)

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1.いざ

オマーンと聞いて、どんなところを想像するでしょうか。私は、極めて不明瞭ですが、夢の国のような場所を想像していました。また、自分には縁のない場所だと思っていました。なぜなら、オマーンはオフィオライト、すなわち海洋底研究のメッカとも言える場所だからです。そんなオマーンは、古生物学を専攻している私にとって、行きたいと思っても行くことのできない、遠い存在のような気がしていました(実際、遠いのですが)。しかし、講義でお話を聴いているうちにオマーンへの思いはどんどん膨らみ、研究室に配属されてからも、オマーンに行って、海洋底を作っている岩石を見てみたい、という気持ちをずっと持っていました。そんなとき、モホール学校という、オマーンでの野外実習のお話をいただきました。こうして、オマーンに行けることになったのです。以下の文章は、古生物学を専攻する、岩石学に関してはビギナーに近い学生の、わりとまじめなオマーン紀行です。

2.わたしと、露頭と、青空と

オマーンに着いて、まず驚いたことは、天気が良いことです。毎日、雲一つない青空が続きます。金沢ではありえないこの晴天に、普段、曇り空に慣れている私は、なぜか後ろめたさを感じました。そして、その青空と、広大な景色、もとい、露頭がよく合います。露頭とは、地層や岩石を観察・採取するのにちょうどいい場所のことです。オマーンの露頭は、かつての海洋底を形作っていた岩石たちの露頭です。露頭と青空のコントラストが、素晴らしいのです。なんせ、見える景色全てが、露頭なのです。たいてい、露頭は、探し回ってやっと見つかるものです。自分の研究目的に応じた露頭を探すことは、容易ではありません。しかし、オマーンは違います。荒井先生が、「露頭が大きすぎて、どこから見ればいいか分からない」とおっしゃっていましたが、まさにその言葉通りです。眼前に広がるオマーンオフィオライトは、その姿を包み隠さず見せてくれる代わりに、たくさんの謎々を用意しながら、「どうだ、解いてみろ」と言わんばかりに堂々と立ちはだかっているように見えます。透き通るような青空とオフィオライトの広大な景色を目の前にして、自分の存在をとても小さく感じ、なんともいえない喪失感に襲われたことは、否定できません。

3.みえるもの、みえないもの

巡検では、荒井先生や、海野先生、岩石研の皆さんに、観察することのできる岩石、それらが関わる、地殻・マントル内、すなわち地球深部で起こっている現象を説明していただきました。オマーンで見られる岩石は、本当にいろいろな種類のものがあります。みんなとてもきれいです。
 目の前に広がる露頭は、硬い石でできています。それらの岩石は、もともとはマグマという熱く、軟らかいものが地球深部から供給され、冷えて固まったものです。露頭には、マグマの中を通るメルト(液体)の跡がしっかり残っています。その液体が通ったことにより、液体と周りのマグマの間で、元素の置き換えがされていたり、されていなかったりします。それに伴い、岩石の色や中の鉱物の様子も変化していたり、していなかったりします。このことを説明していただいたとき、私は露頭が、目の前にある硬いはずの岩石が、とても軟らかいもののように感じました。軟らかいものの間を、軟らかいものが通っていくことで、網目模様のようなものができたり、2つの間が波打ったようになったりしているのです。目の前にある露頭が作られていく様子が、ありありと目に浮かぶようでした。
 オマーンには、マグマ、メルト、そして水のふるまいを容易に想像させてくれるだけの、露頭があるということを教えていただきました。逆に言えば、仮説として考えられてきたことを、露頭という姿で見せてくれるのです。そして、新たな謎を持ちかけてくるのです。オマーンで研究するということはとても難しく、そしてとても素晴らしいことだなと思いました。

4.生かされている、という実感

岩石的には地殻からマントルへ、物理的には東から西へと進むにつれ、岩石の様子が変わっていきます。その変化そのものが、地球の深部で起こっている現象なのだと思うと、地球とはなんと大きいのでしょう。そして、偉大な研究者の方々が明らかにしてきたことの多さとその素晴らしさ、さらに、未知な部分の多さに、言葉も出ないほどです。
 マグマによって、地球奥深くから地表に運ばれた元素は、雨や風によって運ばれ、生命を創造し、それらが死んで、また地球深部に戻っていくのです。地球ができたときから、そのような循環がずっと営まれているのだと思うと、私たち人間も、地球に生かされているのだと、改めて思いました。
 そして、研究対象や分野は違っていても、「地球」について研究しているという点では、「地球学」はひとつなのだなあと思いました。普段、異なる研究分野の調査に同行させていただくことはほとんどないので、それぞれの分野において注目する点が異なっていることを知れたり、自分の研究にも生かせるようなアドバイスをいただいたりできて、とても有意義な時間を過ごすことができました。

5.オフィオライトが生んだ生態系

岩石たちが生命の営みに大きな役割を果たす。そのことを実感させてくれる、オフィオライト特有の環境がありました。ホワイトプールです。
 雨水が流れ、周囲と比べて弱い部分(オマーンではそこがモホに当たります)に沿った割れ目ができます。周囲の岩石からカルシウム(Ca)が水に溶け、モホ周辺にできた水たまり(プール)は炭酸塩の一種であるアラゴナイト(CaCO3)が沈殿した、真っ白な水たまりになります。方解石アラゴナイトは、白いムースのような塊で、触るとふわふわしていました。
 アラゴナイトや方解石は、貝、珊瑚、貝形虫など、多くの生物の体を形作るものです。そんなものが過剰に含まれるこの環境において、どんな生命が生きているのか。探してみると、実際にカエルや魚などが泳いでいました。しかも、見たところは、通常の池などにいるカエルや魚と、変わりないように見えます。ホワイトプールのような特殊な環境下でも生きられるなんて、生命の力は、本当にすごいんだなと思いました。それと同時に、もっと詳しく、ホワイトプールで営まれている生態系について、詳しく調べてみたいなあと思いました。

6.話したい、でも話せない

オマーンでは、初めて見るものや経験することがたくさんありました。アラブの国を訪れたのが初めてだったので、人も、言葉も、食べ物も、街並みも、もちろん自然も、全てが初めて見るものでした。その中でも、最も印象的だったことは、調査の時に、山間部に暮らす人々が、積極的に声をかけてくれることでした。歩いている人はもちろん、走っている車からですら、クラクションの音がしたかと思うと、中から手を振ってくれている人がいるのです。皆さんは笑顔で、どこから来たのか、なにをしているのか、と興味津々に聞いてくれます。一度だけ、村の人々が数人集まってコーヒーを飲んでいるところにお呼ばれしましたが、人々の生活の一端を見ることができたような気がして、おもしろかったです。そして、先生や先輩が英語で現地の方々とお話しされているのを見て、私も英語が話せたらもっといろいろ話せたりできるのになあ、と思いました。実際、オマーンに来てから、重要な手続きなどは、先生や岩石研の皆さんがしてくださいました。今の自分が一人で言葉の通じない海外に放り出されたら、間違いなく生きていけないなと思うと、怖いと思い、もっと、英語を勉強しなければならないなあと強く思いました。他にも、食べ物のことや人々の暮らしのことなど、書きたいことはたくさんありますが、スペースの関係上、これくらいにしておきます。

7.終わりに、そしてこれから

「地球学」を学んでいると言うと、硬い石を見て何が楽しいんだ、とよく言われます。しかし、硬い石を見ながら、地球深部で行われている現象、そこから、海底・地表における生命・気象などが関わる現象について考えることができるのです。そしてそのことは、地球の成り立ちや地球が今まで歩んできた歴史、生命の進化、私たちの未来を考えることにつながるのです。それは、すごく楽しいことです。
 今回モホール学校生としてオマーンに連れて行っていただき、改めて地球の大きさと雄大さ、地球学を学ぶことの楽しさを感じました。オマーンに行き、雄大な自然と、異なる文化を持つ人々の暮らしに触れました。日本での日常とはかけ離れた生活をする中で、異文化に触れる面白さを感じたことに加え、普段何を考えることなしに過ごしている日本の良さを改めて実感することもできました。
 先日、東日本で大きな地震が発生し、今もなお予断を許さない状況が続いています。「自然にはかなわない」とは言いますが、地球学を学んでいる者として、地球・自然と共に生きながら、今後、人々がよりよい生活を送っていくために、モホール学校を通して学んだことを生かし、これからも努力していきたいと思います。
 最後に、今回のために、多忙な中、準備・手続きをし、現地でも様々によくしてくださった石丸さん、秋澤さん、根岸君、三浦君、岩石研の皆さま、関係者の方々、そして荒井先生、海野先生に、心から御礼申し上げます。ありがとうございました。

現在の項目:

1.いざ
2.わたしと、露頭と、青空と
3.みえるもの、みえないもの
4.生かされている、という実感
5.オフィオライトが生んだ生態系
6.話したい、でも話せない
7.終わりに、そしてこれから

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