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角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


Kanazawa University
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稲村君(森下研)のアルバニア滞在記


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1.はじめに

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僕がアルバニアに行くきっかけになったのは8月頃に森下先生から「アルバニアに10月10日~25日まで調査に行くが稲村も来るか?強制ではないが・・・」というお話を頂いたからです。アルバニアには“オフィオライト”という、我々岩石グループには非常に重要な岩石が露出しており、それを研究することで地球のプレートテクトニクスや内部構造が明らかにできるのです。アルバニアは僕の研究地域であり、大学院にも行くと決めていた僕にとって遅かれ早かれ行かなければならない場所でした。海外には前々から非常に興味があったこともあって行くという意思を先生に伝え、今回のアルバニアの調査にいくことが決まりました。 しかし・・・通常ではなかなかないことがいくつか。僕の研究室の教官である森下先生はいろんな事情があって2010年3月から2011年1月までハワイで研究をしており、先生は春も夏も秋も日本にはいないのです。これにより何が起こったかというと、先生とはアルバニアで現地集合現地解散という、耳を疑う条件での研修となりました。しかもアルバニアは最近まで鎖国していて、紛争の影響で北部には地雷があるだのマフィアがいるだのといった物騒な情報がネットには出回ってました。ちなみに僕が行くのは北部です。いくら海外が好きだといってもそれは・・・という感じはありましたがなんか逃げるのも嫌だというよくわからない意地みたいなのもあって行くと決めました。親はかなり心配し、色々言ってやめさせようとしましたが、なんとか認めてもらいました。 そんなこんなでアルバニアへ出発。

2.アルバニアに行くまで

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当然アルバニアまでの直通便などあるわけもなくいくつかの国を経由するわけで、今回は日本→タイ→トルコ→アルバニア、帰りはその逆の空路をとって移動しました。僕は英語は嫌いではないですがしゃべれるかと言われればそうでもなく、乗り継ぎがちょっと心配でした。ただこと乗り継ぎに関しては、結果的には案外スムーズにいきました。大した会話は出来なくてもこちらの意思を伝えるくらいは出来るので受付やゲートの場所を教えてもらう分にはそんなに困ることはありません。 タイでの乗り継ぎには時間があったので街に出てみることに。空港でバーツに両替し、街の中心に向かう電車に乗ってバンコクへ。物価が安い。電車に30分乗って40円くらいだったような。 大きい荷物を持ってキョロキョロしながら歩く人には確実にバイクタクシーの兄さんが寄ってきます。いい噂は聞かないので拒否し、徒歩で中心地へ行って、壊れたイヤホンの代わりに新しいのを買いました。しかし耳の形が合わずちょっと残念な気持ちのまま空港に戻りトルコへの飛行機に。 トルコでは時間がないので空港で時間をつぶしアルバニア行きの飛行機に乗り込みます。 アルバニアに着くとそこはまさに“田舎”。家がぽつぽつと点在するくらいで大した商業施設は見当たりません。空港の周りってそんなものかも知れませんね。ただ驚いたことがひとつ。通る車がベンツ、BMW、プジョーとかの高級車ばかりでした。ぼこぼこでしたが。安いようです、こちらでは。

3.いよいよ調査開始!

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オフィオライトの一部であるかんらん岩という岩石が今回の調査対象です。サンプルを採ったり、写真をとったり、現在地の確認をするといった仕事をします。 アルバニアで地質に詳しいターシム(男)という人を雇い一緒に同行してもらいました。ものすごく陽気な人で、むしろ子供みたいな48歳でした。 アルバニア北部から始め、北東部にかけて調査しました。最初の頃は勝手がわからず色々先生に迷惑をかけてしまいました。だんだん慣れてきた三日目くらいからはすこーしだけ議論が出来るようになりました。アルバニアの山間部では岩石屋(化石とかを調査する地質屋とは区別して)にとって重要な露頭という、岩石が直接露出している場所が考えられないほど多いです。というか見渡す限り露頭です。そのためそこの地質を知るために調査をしているが、こんな一部を見ただけでわかったつもりになってしまっていいのか?という気持ちによくなりました。 僕はアルバニアの地質についてどれだけわかったんだろう・・・ 行く前よりかはだいぶわかりましたが、まだまだです。日本に帰ってから色々実験とかをするのが本番なのかもしれません。

4.調査以外のことI (動物編)

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アルバニアの、特に田舎では町をあらゆる家畜が歩いています。牛、羊、ヤギ、豚、ニワトリ・・・ 牛などは最初は嬉しくて写真を撮ったりしてましたが後半はもはやデフォルトと化し、「なんだ牛か」くらいにしか思いませんでした。牛はなぜか鈴も無ければ鼻輪もなく、しかし確かな足取りでどこかへ歩いていきます。 たぶん自分のうちがあるんでしょうね、そっちに。羊が道を埋め尽くしてて車が通れない、なんてことも何度もありました。そういう時はクラクション鳴らして羊飼いに知らせます。

写真左:は森下先生です。何かとバイタリティがあってすごい人です。地雷をも恐れぬ岩石ハンター。後ろは枕状溶岩という岩石。枕みたいに丸っこい形をしているのでこの名がついています。写真右上:牛の右も後ろもかんらん岩という調査の対象となる岩石です。写真右下:道路を埋め尽くす羊

5.調査以外のことII (人編)

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田舎のほうでは特に珍しいのか、アジア人というだけで確実に街行く人が凝視してきます。ちらっとどころではありません。10秒とか20秒とか見てきます。話しかけられ、返事するとなぜか爆笑されます。中国人か?ってよく聞かれました。ヤポネズ(日本人)っていうと結構見る目が変わる気がします。向こうでもトヨタやマツダのような車はよく知られてますし、走ってますから。でも基本的にアルバニアの人はすっごく優しい人が多かったです。悪意をもって寄ってくる人は一人もいなかったですし、何か尋ねればかなり親切に対応してくれました。クロミタイトっていう岩石を探してるときなどは羊飼いの少年や牛飼いのおじさん、トヨタ車に乗った25歳くらいの男の人とそのお父さんに助けてもらいました。 驚いたことがあって、それはたしかGOMSIQEっていう土地の川沿いの崖だったんですが、杖ついたおじいさんが崖際の幅1mあるかないかの道を歩いてきたんです。落ちたら100mくらい落ちるとこです。先生と二人でビックリしましたが、奥まで行ってみると小さな集落が。まさかあれが主要道なんでしょうか・・・ バリアフリーなんて概念は先進国のお金持ちの国にしか存在しないんだと思いました。

6.調査以外のことIII (コソボ)

アルバニアはコソボとも接しています。アルバニアのコソボの国境付近は地雷があるから気をつけろって言われていたのでそこへ行くときは特に気をつけようと思っていました。が、先生は知的好奇心を抑えることができず、なんとコソボのアルバニア国境側に行くことに。コソボの方が危険度はぐっと上がります。ターシムもコソボに入るやいなや「あんまり道から離れるな、地雷があるから!」って言ってました。聞く分にはいいですが、正直笑えませんでした。しかも山の中へ入り、頑張ればアルバニアへ山越しに密入国できそうな道を歩いて露頭を探したりしました。どう考えてもかなり危ない場所です。生まれて初めて、一秒後に自分は死んでるかもしれないと思いながら歩きました。歩くのが怖いと思ったのは初めてです。 コソボは10年くらい前まで紛争地域で、その爪跡は今も強く残っています。その山のふもとで会ったおばさんに車を見ててもらったのですが、この地域では紛争のときにかなりひどくやられたところらしく、その時おばさんの息子さんは銃で撃ち殺されてしまったそうです。その人はなんだか何かに疲れている感じがして、まだやはりつらい気持ちは消えていないんでしょう。 今まで戦争はいけないとか、平和は大事だとか、そういうことはよく聞かされていたし僕自身その考えは持っていたつもりですが、今考えるとそれはやはり遠くのどこかで起こっている、自分とは関係の無いことで、実感としてそれらを捉えることは出来ていなかった。実際に目で見て肌で感じたことでなければ本当に理解はできないし、そうでないならばそれをわかったつもりになってはいけないと感じました。日本にいては絶対にわからないことです。相手の国の人にそのおばさんと同じ表情をさせることになると考えると僕は戦争を起こすことはできないです。もちろん僕にそんな権限はないですがみんなが相手の国の人に与える影響を想像すれば戦争なんてできないと思うんですけどね。 かなりまじめなことをつらつらと書いてしまいましたが大事だと思ったことなので書かせてもらいました。まさか岩石の調査でこんなことを考えるなんて思いもしませんでしたが。

7.調査以外のことIV (交通)

アルバニアの交通を一言で言えば“クレイジー”です。ティラナっていう最大都市の近くでは4車線を6列で走行し、高速道路を普通に人が横切ります。一通の道を逆走し、行き詰まります。法令順守の精神など皆無です。 アルバニアは右側通行、左ハンドルで信号はほとんど無く交差点はラウンダー式です。ラウンダー式とは交差点の中心に円があり、その周りをぐるぐる回って直進、右左折するシステムです。それを3列くらいで走ります。カオスです。これだけでかなり怖いのに、僕たちの車はミッションでした。先生が運転してくれたので良かったですが僕には絶対に無理です。

8.調査以外のことV (宿、食事)

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行く前はぼろぼろの民宿みたいなとこに泊まるのかと思ってましたが意外とハイグレードなとこにばかり泊まりました。食事もすごく美味しいものが多く、かなり参考になりました。特にPUKEでのかぼちゃなどの野菜のスープは素晴らしかったです。かぼちゃを使っているのにどろどろし過ぎず、美味しいのにその美味しい元がよくわからない。野菜の味だけであの味になるとは考えにくいですが、かといって肉の出汁があるかというとそうではない・・・謎です。

9.まとめ

2週間という短い間ですが、信じられないほどの経験を積みました。アルバニアの地質に関する理解についてもやはり行く前と後では大きく違いますし、それ以外のことについても貴重な経験が出来たと思います。行く前は少し不安がありましたが行ってよかったと思います。最後になりましたが、連れて行ってくださった森下先生には感謝しています。ありがとうございました。研究、頑張ります。

現在の項目:

1.はじめに
2.アルバニアに行くまで
3.いよいよ調査開始!
4.調査以外のことI (動物編)
5.調査以外のことII (人編)
6.調査以外のことIII (コソボ)
7.調査以外のことIV (交通)
8.調査以外のことV (宿、食事)
9.まとめ

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