トップページ > 海洋地殻―マントルの構成と発達過程の解明:モホールへの備え > ニュージーランド滞在記

ロゴマーク


角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


Kanazawa University
web Page
Information Service

沖野君(長谷川研)のニュージーランド滞在記


<<前へ  次へ>>

1.はじめに~調査に行くまで~

僕が長谷川先生から、ニュージーランドの野外調査に同行しないかと誘ってい頂いたのは2009年が終わる頃でした。大学の授業で習ったような野外調査を、もっと限られた調査範囲を対象に短期間で行うという話でした。自分と長谷川先生と、現地の地質調査所の職員のジェームズさんとの3人での調査に内心、心配と不安がなかったといえば嘘になりますが、期待感の方が断然大きかったです。出発する前の僕にはニュージーランドといえば映画のロケ地として有名な場所という漠然としたイメージしかありませんでした。けれども調査同行が決定したころからニュージーランドに対して興味が湧いてくるきっかけにもなりました。出国の準備として、川を歩くための靴や登山靴、その他調査用の小道具を買い集めたり、デジタルカメラや携帯電話の充電器をコンセントにつなぐためのニュージーランドで使われている端子を買いに行ったりと、慣れない海外渡航に加えて、調査の準備を万全にするために長谷川先生にアドバイスを頂きながら、出発前までバタバタとしていました。

2.調査内容

Photo

今回の僕自身のお手伝いすることは、ニュージーランドに2週間ほど滞在し、野外調査を行うという点に集約できると思います。野外調査というのは簡単に言えば、岩石が露出した崖のような場所、露頭において、その岩石の様子を観察、一部の岩石を拳大の大きさにして採取する、という作業です。その「岩石の様子を観察する」という作業を念入りに行うのが俗に言う地質屋の仕事です。今回の調査では白亜紀中期と考えられている堆積岩である泥岩の露頭で調査を行ったのですが、その泥岩の中の細かな変化を目で見て、触って、観察していきます。泥岩の中でも細かい粒子の泥岩になったり、粗い粒子の泥岩になったり、粗い粒子と細かい粒子が混ざり合ったような泥岩になったりと、同じ泥岩でもさまざまな違いが見られます。他にも、泥岩中に含まれる化石の種類や個数、堆積している様子など、いろいろ観察すべきことはあります。特に長谷川先生の専門はその堆積物、泥岩中の有機物の化学分析を行うことなので、分析のために最適な試料の採取をしました。泥岩の中にほんの少しだけ含まれている有機物、つまり化石として残らないような生物の遺骸の残りを調べてみると、新しいことが解るもしれないということです。新しいことというのは、白亜紀当時、今から約1億年前の地球の表面は現在よりも温暖だったと考えられており、その温暖な環境は生物にとってどんな環境だったかを知ることで、将来今より温暖化が進んだ地球上の環境を推測できるのではないか、ということです。特にニュージーランドのような南半球高緯度地域ではあまり研究が成されていないという点でも、非常に意義があると考えられています。

3.調査以外のこと1

Photo

調査以外のことで特に印象に残っていることは、南島の調査が終わって、帰りにフェリーで北島のウェリントンへと向かう途中で体験したことです。自分たちの乗る車両をフェリーに格納する順番待ちのため、港の駐車場に車をとめて三人で待機していました。すると黄色いゼッケンをつけた役員のような人が駐車してある車を順番に巡回して、スプレーと洗剤のようなものが入った小袋を手渡していきました。見るからに何か警告をするかのような黄色い小袋は消毒用の液体が入ったものだと、後でジェームズさんと先生から説明をうけました。なんでもごく最近、アメリカからニュージーランドへとディディーモと呼ばれる珪藻が移り入ってきたらしく、それらが河川の岩に繁殖し川の生態を狂わせていることが分かったらしいのです。その汚染拡大を南島にとどめておくために、北島へ渡りたい人で河川に入った靴を持っている人は洗浄処理を行う義務があるということでした。これは後から知ったのですが、このディディーモの人為的拡大には実刑判決が下されるほどの環境汚染生物として扱われているそうです。ジェームズさんは、こういった外来生物種の侵入による原生の生態系の汚染、破壊はとても厳しく取り締まりされているという話をしてくれました。実際、例えばニュージーランドの鳥類は飛べない種が多く、有名なキーウィ、タカへ、フクロウオウムといった種は外来肉食種による乱獲によって絶滅の恐れがあるといいます。

4.調査以外のこと2

自分たちは日々自然の中で暮らしていて、特に地質屋になれば調査を行うとなると山や川に入り、可能な限り情報を収集していきます。その手段というのはよほどのことでない限り限定されるものではないと僕は考えています。けれどそういった考えとは異なるギャップが、僕の認識と南島の生態汚染にあるように感じました。現実的な話として、自分たちがどのように地質調査を行おうとしたところで、その実際は環境、生態にとってはただの悪影響でしかないという、そういった結論にもなりうるのだなと感じました。ピクニックに行ったときに、せっかく拾った自分のゴミが気付かずに鞄からボロボロこぼれていたら、誰でも嫌な気分になるはずです。そのために自分たちは例えば生態保全を目的とするのなら節度をわきまえ、適切な行動をとる必要がある、ということではないだろうかと思いました。

5.ニューシーランドでの貴重な体験

Photo

ニュージーランドでは貴重な体験がたくさんできました。その中でも先ほど述べたのはかなり印象的だったことなのですが、同じように楽しいことがたくさんありました。調査地の山小屋から夜空を見上げると星がとてもきれいで感動しました。わからない星座ばかりで、南十字星とオリオン座ぐらいしかわからなかったのですが、何より感動したのは北半球で見るオリオン座とは上下さかさまの向きになっていることです。もう何年も眺めていたつもりでいた星空も、違う場所からみるだけでこんなにも違って見えることに驚きました。落ち着いて考えれば単純な話なのですが、この話はいろんな人についつい自慢げに話してしまいます。ほかにも、羊や牛肉が美味しいのはもちろんのこと、肉の安いことと大きいことにも驚きました。それに比例してか乳製品、特にチーズがとても美味しく、ジェームズは味が濃いことに比例して塩分濃度が高いからあまり健康面ではお勧めできないけれど、やめられないといっていましたが、その意味がとてもよくわかります。

6.滞在を通して感じたこと

Photo

今まで書き連ねてきましたように、2週間という滞在の中で、さまざまな体験をしてきました。もちろん、生活の中にカルチャーギャップのようなものも感じましたが、それはとても不思議なことでもあり、とても貴重な体験です。今まで自分が当然だと思っていたことがそこでは通用しない、あるいは適応しない時、それは視野を広げる機会だと僕は思うようになりました。特に大学に来て地球科学を勉強するようになってから、またこのニュージーランドの滞在を通して、不思議な体験というものが周りの身近な自然の中に見られるようになってきたと感じ、それと同時に自然がとても美しく見えるようになったと思います。それは僕が地球学科に来たからこそ感じることができることだと思います。そういった意味で、貴重な時間を提供してくれた長谷川先生やジェームズさんに感謝をしていますし、これからも勉強することの励みにしたいと考えています。

現在の項目:

1.はじめに~調査に行くまで~
2.調査内容
3.調査以外のこと1
4.調査以外のこと2
5.ニューシーランドでの貴重な体験
6.滞在を通して感じたこと

 もどる