Giant Lava Flow Project−巨大海底溶岩流の定置メカニズムとマグマ供給系

なぜ巨大海底溶岩流なのか? Why do we study submarine large lava flows?

  巨大溶岩流(1噴火の噴出量>10 km3)噴火は数千年〜数万年に一度の頻度で発生する現象で,一度に大量のマグマ を放出することから環境や生態系に与える影響も大きいと予想されます。15 km3の玄武岩溶岩を流出したアイスランドのラキ山 1783-84年噴火では大量の硫酸エアロゾルが世界的な気候変動をもたらしま した。ラキ山の100倍に達するSO2〜10 Gt,CO2〜300 Gtが放出される1000 km3級 の噴火を繰り返す洪水玄武岩は,大量絶滅の一要因と考えられています[Thordarson and Self, 1996]。

 巨大溶岩流はパホイホイ溶岩ローブの合体・融合と膨張によって生じた一続きの巨大な溶岩ローブであると考えられます[e.g., Self et al., 1998]。このような,溶岩ローブの拡大はクラストの強度で制約されるため,溶岩流の体積と噴出率の間に一定の比例関係が存在します[図;Umino, 2002]。この関係を用いることにより,溶岩流の体積から噴出率と噴火時間を推定することが可能です。

 このように推定された噴出率は101-103 km3の溶岩流で0.2-5 X 104 m3/sであり,巨大溶岩流噴火は数年〜数10年という長期間に及ぶことがわかります。ところが, この溶岩流の規模と噴出率の関係を再現できるシミュレーションモデル[Miyamoto and Sasaki, 1998; Hidaka et al., 2005など]は今のところ存在しません。これは巨大溶岩流となるパホイホイ溶岩の形態や挙動を支配するクラストの機械的応答をモデル化することが困難なためと考えられま す。

 海域には巨大海台 LIPsに代表される大規模溶岩流が多く,150万年前以降のものだけでも10-100 km3級の巨大溶 岩流がハワイ沖North Arch火山群[Clague et al., 2003],東太平洋のRano-Rahi海山群[Scheirer et al., 1996],南部東太平洋海膨(EPR)周辺など多数知られています[Geshi et al., 2007; Macdonald et al., 1989;海野ほか, 2008;]。陸上では1枚の巨大溶岩流の厚さが<〜50 mであるのに対し,海底溶岩では厚さ100 m以上になる場合があります。高い水圧,海水から受ける浮力・冷却効果など環境の違いが産状や定置過程に影響することが予想されますが,巨大海底溶岩流の観察例はわずかし かなく,それも堆積物の被覆のため1 m以下のスケールの表面構造はほとんど不明です[Clague et al., 2002; Geshi et al., 2007]。そのため詳細な産状や噴火様式,流動・定置メカニズム,噴火時間,冷却固化過程,大量のマグマの起源など,多くの問題が未解明のままとなっています。

 ここでは,オマーンオフィオライトや東太平洋海膨の巨大海底溶岩流などを例に,巨大溶岩の定置過程やマグマ供給系の研究を行っています。


オマーンの巨大海底溶岩原 Large Lava Flow Field in Oman Ophiolite

 オマーンオフィオライトでは解析された内部構造を3Dで広域的に観察で きる巨大海底溶岩流が分布し,これまでの調査で溶岩流全体の構造や産状,詳細な地質図が作成されています[Umino, 2012]。これらは現在の海洋底では不可能な巨大海底溶岩流の内部構造を詳細に観察し,解析できる絶好の研究対象と言えます。
 そこで本研究では,オマーンオフィオライトの巨大溶岩流の野外観察データと岩石試料を用いて,巨大溶岩流の内部構造・微細組織,全岩・鉱物化学組成 を詳細に解析し,次の点の解明に取り組んでいます。

 1)陸上の巨大溶岩流との共通点と海底溶岩流に特有の特徴,2)巨大海 底溶岩流の流動・定置メカニズム,冷却固化過程,噴火時間・噴出率,3)マグマの岩石学・地球化学的特徴。

IAVCEI 2013: オマーンオフィオライトの巨大溶岩原 Large Lava Flow Field in Oman


南部東太平洋海膨 Southern East Pacific Rise−高速拡大海嶺のマグマ供給系

  14-16 cm/yrという地球上で最も拡大速度が速い中央海嶺系にそって出現する巨大溶岩流の成因を探る目的で2004年7月から8月にかけて海洋科学 技術センターの有人潜水艇「しんかい6500」を用いた潜水調査を実施しました。

 地震波探査によれば東太平洋海膨周辺の海 洋地殻第二層(噴出岩)の約6割は海嶺軸から数km離れたオフリッジで形成されています。従来,これらの海洋地殻上部層は中央海嶺中軸部の火山帯から噴出 した溶岩が遠方まで流下して堆積したものと解釈されてきました。ところが,1990年代前半から行われてきた東太平洋海膨にそった高解像度サイドスキャン 探査の結果,海嶺軸の1-4 kmオフリッジで噴火したと思われる多数の新しい巨大溶岩流や小火山体列が存在することがわかってきました。従って,これらのオフリッジ火山活動は,海洋地殻上部層形成の 主体を担っている可能性があります。しかも,これらの噴出物は海嶺軸上のMORBよりも枯渇した未分化マグマ起源であるものや,軽希土類に富んだ EMORB,より分化した組成を示すものなど多様性に富んでおり,海嶺軸下マグマ溜まりとは独立のマグマ供給系が存在する可能性を示唆していま す。ところ が,これらのオフリッジ火山についての潜水艇・深海カメラ調査は皆無であり,その活動の実態については殆ど何も知られていません。
 そこで本研究ではオフリッジ における海洋地殻形成とマグマ供給系についての包括的な理解を得るために,世界に先駆けて超高速拡大海嶺における海嶺軸近傍のオフリッジ火山と巨大溶岩流 の系統的な潜水調査を行いました。

 その結果,南緯14度において中央海嶺系では世界最大の溶岩流を確認しました。この発見については海洋研究開発機構JAMSTECを通じて去る 2004年 8月23日に文科省において記者会見を行い,新聞各社によって報道されました。

「世界最大級の溶岩流」しんぶん赤旗 H16.9.12

海洋科学技術センター (JAMSTEC)

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金沢大学岩石学・火山学グループ

金沢大学地球学科

最終更新日 : 2013年10月11日