水晶玉ガラス玉の見分け方

金沢大学理学部地球学科 (教授) 石渡 明


直交偏光による写真: 水晶玉1水晶玉2ガラス玉1ガラス玉2 【大学生・専門家向け】 【関連論文

NEW  付録1 右水晶と左水晶の見分け方   付録2 光学的二軸性結晶の目玉  (2002年8月9日追加)

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【中・高校生および一般の方向け】

 水晶玉は,最近,良質のものが安く出回るようになり,お守りや数珠玉として,どこの家庭にもあるのではないかと思います.私が学生用の実験で使っている直径2cmのものは1個1000円でした.もっと小さいものは数100円で手に入ります.

 しかし,水晶玉とガラス玉は,見ただけでは区別できず,一般の人はもちろん,鉱物に詳しい人の中にも,市販の水晶玉はほとんどガラス玉だと思っている人がかなりいます.最近出版された一般向けの鉱物関係の本の中にも,「水晶玉とガラス玉は簡単には区別できないから,ガラス玉だと思って買えば後悔しないだろう」などと,無責任なことが書いてあります.しかし,日本で売っている水晶玉は,大部分が本物*です.そして,その確認は,家庭でもできるのです(*「本物」といっても,「天然物」とは限りません.安いものは人工水晶が多いと思います)

 実験に必要なものは,水晶玉,ガラス玉,そして偏光板2枚です.この中で手に入りにくいのは偏光板です.写真屋さんで「偏光フィルター」として売っているものを2枚買うのが最も手軽ですが,かなりお金がかかります.大きさにもよりますが,1枚2000円程度します(φ43mm程度のもので十分です).立体映画鑑賞用の灰色メガネ(赤青メガネではダメです)も偏光板なので,もしこれをお持ちだったら,左右を切り離せば2枚の偏光板として使えます.北海道教育大学の池田保夫さんからの情報によると,東急ハンズで10cm四方の偏光板を1枚170円で売っているそうです.(株)エムコの三輪哲也様からの情報によると,1m x 50cmサイズの偏光板を3500円で販売しているそうです.また,ガラス玉は「ビー玉」として,おもちゃ屋さんで簡単に手に入ります.なお,長野県塩尻市にあるミュージアム鉱研 地球の宝石箱の千葉様からの情報によると,同博物館の売店で,偏光板(3.5×7cm,切って2枚にする),水晶玉(径11-12mm),ガラス玉(同大),水晶の結晶の4点がセットになった「鑑定セット」(富士コスモサイエンス製)を600円で販売しているそうです.入手したい方は,同博物館にお問い合わせ下さい(000524追加).

 【写真1】 直交偏光で水晶球を結晶軸方向からみた様子.虹のような色彩の同心円状の干渉圏と,十字型のアイソジャイヤー(4本の黒い放射状の筋)が見える.水晶球の直径は2cm

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 実験の方法は簡単です.まず偏光板を左右の手で1枚ずつ持ち,2枚重ねて明るい空や壁を見ます.手前の1枚を回転させると,2枚通して見た空や電灯の明るさが変化します.最も暗くなる位置をみつけ,その位置のまま,手前の偏光板を持ち替えて,片手で2枚の偏光板を3cmくらい離して持つようにします.そして,空いた手で,水晶玉をつまんで2枚の偏光板の間に入れ,明るい空や壁を見ます.水晶玉をあらゆる方向に回して見ますと,ある方向で写真1のような同心円状の「目玉」と,それから放射状に伸びる4本の黒い筋が見えます.この「目玉」を探すには,少し根気が要るかもしれません.自分の目を右へずらすと,水晶の「目玉」は逆に左を向いて,目玉の色が少し変化し,4本の黒い十字型の筋も左へ移動します(写真2).もしこのような「目玉」が見えたら,それは水晶です.

【写真2】 直交偏光で水晶球を結晶軸に対して45度の角度から見た様子.干渉圏とアイソジャイヤーは左方へ移動し,干渉圏の中心部の色が変化している.写真1と同じ水晶球を左に45度回転して撮影した.

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 同じようにして,今度はガラス玉を入れてみると,写真3のように黒い十字線が見えますが,「目玉」は見えません.また,黒い十字線は,水晶の黒い4本の筋とは違って,いつも十字の交点が中央にあり,ガラスをどのように回しても,自分の目をどう動かしても,必ず中央に見えます.

【写真3】 直交偏光でガラス球を観察したところ.十字型の筋が見えるが,これはガラス球を回転させても,常に中央に見え,結晶軸に関係した水晶の黒い筋(アイソジャイヤー)とは異なる.

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 ただし,正確な球形でなく,やや歪んだ形のガラス玉(ビー玉には,このようなものが多い)の場合は,写真4のように,双曲線型の2本の筋が中心近くで接近するような,くずれた十字型になります.

写真4】 直交偏光で少しいびつな形のガラス球を観察したところ.十字型の筋がくずれた,2本の双曲線様になっている.

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 このように,偏光板2枚を使えば,水晶玉とガラス玉は簡単に区別できます.どうぞ,ご自分で試してみてください.毎年秋に開かれる金沢大学理学部見学会では,私の研究室から,毎年この実験の材料を提供しており,参加者の方々に実験を楽しんでいただいております.

<中・高校生および一般の方向けの文章はこれで終わりです>

●(2001年12月12日追加) 「地球科学」55巻263-264ページ(2001年9月号)に,大阪市立大学大学院の古山勝彦・松崎琢也両氏による「ガラスに見られる複屈折」という論文(フォトページ)が発表されました.この論文は,お二人がこのホームページをご覧になって,光学的に等方体のはずのガラスが,なぜ2枚の偏光板の間で明るく見え,黒い十字が見えるのか疑問に思って,いろいろな温度でガラス玉を焼きなましたり,円柱,立方体,半円柱,三角柱など様々な形のガラスで実験した結果を多数の美しい写真とともに報告したものです.ガラスは,焼きなましの温度が高くなると(560-580℃),偏光板の間で暗く見えるようになり,十字もはっきりしなくなる(つまり光学的等方体に近くなる)ようです.立方体では回転させると十字が卍型になったり,半円柱や三角柱では「十字」ではなく二本線や矢印型の面白い模様になります.ガラスの複屈折(2枚の偏光板の間で明るく見える現象)はガラスの歪(ひずみ)に起因するが,黒い線の形態はガラスの外形に依存するという結論です.興味のある方は,是非この論文をご覧下さい.この雑誌は地学団体研究会が出版しています(電話03-3983-3378, Fax: -7525).

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【地学関係の大学生・専門家向け】

水晶球を用いる光学観察実験

金沢大学理学部地球学科 石渡 明

(これは,地球学科専門課程の大学2〜3年生の実習用のプリントです.)

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 宝石店や観光地の土産物屋で購入できる水晶球(直径1.5〜2cmのものは1000円程度)、玩具店で購入できるガラス球(ビー玉)、2枚の偏光板、そしてナトリウムランプを用いて、結晶の光学的性質に関する実験を行う。水晶の複屈折(正常光と異常光の屈折率の差:0.009)は、方解石(0.172)に比べると約1/20であり、かなり厚い水晶を通して見ても、字が二重に見えることはないが、方解石にはない「旋光性」という性質が水晶にはあり、また、劈開に垂直な方向以外の方向に進む光についての実験が難しい方解石に比べて、水晶球では、結晶内をあらゆる方向に進む光の性質を簡単に観察できる利点がある。

実験操作

(1)明るい窓に向かって、2枚の偏光板が暗黒に見えるように、3cm程度の間隔で片手で平行に保持し、その2枚の間に、もう一方の手で水晶球をつまんで保持する。2枚の偏光板をそのままの位置関係で保持しながら、水晶球を前後左右上下など様々な方向に回転させて、水晶球の明るさの変化を観察せよ。また、水晶球には色のついた「目玉」がある。この「目玉」は全部でいくつあるか。

(2)ガラス球について同様な実験を行い、水晶球との違いを観察せよ。

(3)水晶の「目玉」のところで交わる十字型の黒い太線と、「目玉」を取り巻く同心円状の虹色の縞模様が見られるはずである。

 (a)2枚の偏光板は動かさずに、「目玉」がいつも中心に見えるようにして水晶玉を回転させると、十字型の黒い太線も回転するか。水晶の各部分の明るさは変化するか。

 (b)同心円状の縞模様の間隔は「目玉」から離れるに従ってどのように変化しているか。

 (c)「目玉」が見える状態で、手前側の偏光板を回転すると、「目玉」の色はどう変化するか。「目玉」が最も暗くなる(または暗緑色になる)のは、手前の偏光板を右方向に何度回転した時か。

(4)上と同様の観察を、ナトリウムランプの光(白い紙に反射した光で行う。ナトリウムランプを直視してはならない)で行え。白色光で観察したときとどのように異なるか。

ヒント 1.黒い十字線について
水晶中を任意の方向に進む光は、方解石中と同様に互いに直交する振動面を持つ2つの直線偏光に分かれている。ただし、結晶軸と平行に進む光だけは2つに分かれない。2つの光のうち、一つ(異常光)は結晶軸を含む面内で進行方向と直角に振動し、もう一つ(通常光)はその面と直角な面内で進行方向と直角に振動する。今、水晶球の結晶軸方向(つまり「目玉」)を中心にすると、それからある角度をなす方向に進む異常光の振動方向は放射状になり、通常光の振動方向は同心円の接線方向になる。ある方向に進むどちらかの偏光波の振動方向が後側の偏光板の振動方向と一致していると、その偏光波は手前の偏光板を通過できない。これが「目玉」で交わる十字型の黒い線が見える原因である。このような原因でできる黒い線をアイソジャイヤー(isogyre)という。なお、光は物質の表面で反射される時に、偏光する性質があるので(例えば青空の光やガラスに反射した光は偏光している)、2枚の偏光板の間にガラス球を挟んで見た場合も、不鮮明な黒い十字型の模様が見えるが、これはアイソジャイヤーではない。

ヒント 2.干渉圏について
 通常光はどの方向に進む光でも屈折率は同じであるが(この屈折率をωとする)、異常光の屈折率は進行方向と結晶軸の角度が小さくなると通常光の屈折率に近づくが、その角度が大きくなると屈折率の違いが大きくなり、結晶軸と直角方向でその違いが最大になる(この方向の異常光の屈折率をεとする)。屈折率が通常光<異常光の場合を正号結晶、通常光>異常光の場合を負号結晶という。石英(水晶)は正号、方解石は負号の結晶である。結晶軸と角θをなす方向に進む異常光の屈折率neは、ne=ωε/SQR(ω2sin2θ+ε2cos2θ)で与えられる(SQRは平方根)。ωとεの差をbirefringence(バイリフリンゼンス:複屈折)という。ωやεはある鉱物を特徴づける定数であって、例えば石英の場合はω=1.544、ε=1.553で、複屈折は0.009である。

 屈折率と光の速度は逆比例関係にある。正号結晶の場合、異常光より正常光が結晶中を速く伝わる。奥の偏光板を通過して振動面を揃えられた偏光が結晶に入射すると、互いに直角な振動面をもつ二つの偏光に分かれるが、その2つの偏光が結晶から出ると、手前の偏光板を通る時に合成される。この時、もし結晶通過中に2つの偏光の位相が全く変化しなければ、手前の偏光板を通過できる2つの偏光波の成分は、それぞれ振幅が等しく振動の向きが正反対なので、これらが合成されると打ち消し合って暗黒になってしまう。また、この2つの偏光波の位相のずれ(retardation:レターデーション:遅れ)が光の波長の整数倍の場合も、同様に打ち消し合って暗くなるが、それ以外の場合は2つの光が干渉し合って明るくなり、レターデーションが波長の半分である場合に最も明るくなる。レターデーションRは2つの偏光の屈折率の差(ΔN)と結晶を通過した距離dの積に等しい(R=dΔN)。一軸性結晶の場合、通過距離が同じなら、レターデーションは結晶軸からの角度とともに大きくなる。

 入射光が白色光の場合、ある波長の通常光と異常光のレターデーションが、その波長の整数倍になると、手前の偏光板を通過して合成された光は、その色を除いた補色の光になる。これを干渉色という。人間の眼は黄緑色(波長530nm)の光に最もよく感じる。通常光と異常光の位相のずれは、光軸(水晶の場合はc軸に一致)から離れるに従って大きくなり、そのずれが黄緑色の光の波長の整数倍になる部分では、合成された光は非常に暗くなってしまう。白色光から黄緑色の光を除くと、暗い赤紫色になり(この色を特に鋭敏色という)、この部分が暗い縞として見える。これが「目玉」の回りに同心円状の縞模様(干渉圏)が見られる理由である。また、入射光が単色光の場合は、単なる明暗の縞模様になり、干渉圏が一層はっきりと見えるようになる。なお、何本かの平行光線が水晶球の各部分に入射したと仮定して、水晶球の表面でどのように屈折し、それぞれの光が水晶球内部をどの方向にどれだけの距離進んだかを、作図によって求めれば、水晶球の表面の各部分から出て来る光のレターデーションの大きさが求められ、観察される干渉圏のパターンと一致することが確かめられる。

ヒント 3.「目玉」の色と旋光性について
水晶には旋光性がある。旋光性とは、その物質の中を進行する光波の振動方向が進行距離に比例して回転する性質である。旋光性は結晶軸方向へ進む光に最も強く現れ、結晶軸との角度が大きくなると急速に弱くなる。また、同じ物質中を同じ方向に進む光でも、波長によって旋光性が現れる程度(比旋光度)は異なる。例えば、塩素酸ナトリウムの結晶の場合、波長430nmの光の比旋光度(進行距離1mm当たりの旋光角)は6.0度だが、波長626nmの光では2.8度である。水晶のc軸方向の比旋光度は、ナトリウムランプの光(D線:波長589nm)について、21.71度と非常に大きく、波長による比旋光度の分散も大きい。旋光後の振動方向が手前の偏光板の振動方向と直交する波長の光は、手前の偏光板を通過できず、その色の光は消えてしまう。これが水晶玉の「目」に色がつく原因であり、手前の偏光板を回転させれば、「目」の色が変化する。結晶によって右回りに旋光するもの(形態的には左水晶)と、左回りに旋光するもの(右水晶)があるが、実験で使用しているものは全て右水晶で、光の進行に伴って振動面を左回りに旋光するので、水晶に向かって奥から来る光を観察すると、その振動面は右回りに回転するように見える。ナトリウムランプの光で手前側の偏光板を回転させると、ある角度で水晶の「目玉」が暗くなるが、その回転角が旋光角+180度×nになっている。(nは0または整数)。いろいろな大きさの水晶玉(または結晶軸に垂直に切った水晶板)でこの観察を行えば、比旋光度を実測することができる。

<学生用のプリントは以上です>

1997年2月24日 石渡 明


大型の偏光板に関する情報(2003年7月23日追記,石渡宛のメールをそのまま転載)

(株)エムコ 三輪哲也と申します。

以前カラー偏光板をメールにて紹介させていただいたと思います。
当社ではできるだけ多くの人たちにこの不思議な素材を知ってもらいために努力しております。
いろいろな関係の人たちから偏光板の価格が結構高いので気軽に買えないということを聞いており、できるだけ安く提供できるようにしてきました。
現在は東急ハンズや理化学教材屋さんでの販売が主ですが、ネットでの販売もスタートしました。
まずはこちらをご覧下さい。 http://tokyo.cool.ne.jp/mko_pop/
 
学校の先生からの問合せが結構増えてきています。
面白い素材と思いますので色々な実験に使えると思います。
よろしくお願いします。
 
価格ですが、スモーク偏光板(粘着無し)1000mm×500mm:\3500
      スモーク偏光板(粘着付き)1000mm×500mm:\4000
       カラー偏光板(粘着付き)1000mm×500mm:\6000(赤・青・黄・緑の4色あります)
               
カットもいたしますので、サイズ等がありましたらお気軽にお問合わせください。よろしくお願致します。

(株)エムコ 三輪哲也 [tetsu_hd97@ybb.ne.jp]

※厚さはいずれも180 μm(約0.2 mm)とのことです.


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この頁の製作日: 1998年11月02日, この頁の最終更新日: 2006年10月09日