上郡(かみごおり)変はんれい岩体

上郡インターネット研究会 スプリングエイト (SPring-8) 上郡町 新宮町 

兵庫の山々 山頂の岩石(橋元正彦氏HP)

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以下の文章は、兵庫県新宮町の広報誌「しんぐう」2000年1月号(No. 475)の12ページ「町史点描 新宮物語」欄に掲載された石渡 明の 「新宮町の変はんれい岩 を横書きに直し、地質図を加えたものです。

 私は北陸の金沢大学で岩石学を教育・研究している者です.新宮町から上郡町,三日月町,南光町,上月町にかけて分布している変はんれい(斑糲)岩類や近畿・中国地方に広く分布する同種の岩石(図1)を25年前から研究しております.この度,私が所属する日本地質学会の「地質学論集」52号に「西南日本内帯の古生代海洋性島弧地殻断片−兵庫県上郡変斑れい岩体」という論文を発表することができました.調査中に地元の方々のお世話になった御礼にと,新宮町教育委員会に拙著を1部謹呈したところ,平成11年3月出版の「新宮の自然」をご恵与いただいた上に,この欄の執筆を依頼されたわけです.(図1の下へ続く)


 

図1.上郡変はんれい岩体地質図

(この図は上郡町の山本新聞店発行の「上郡民報」平成11(1999)年12月号(311号:平成11年12月20日発行)4ページの「上郡変はんれい岩体は海洋地殻」という記事に掲載されました。凡例が英語の原図は、石渡 明(1999)「西南日本内帯の古生代海洋性島弧地殻断片−兵庫県上郡変斑れい岩体」、地質学論集、52号、273-285ページに図1として掲載されています)。


 
 私たち岩石学者の研究は,まず川原や山腹,道路の切り通しや造成地などに露出している岩石の種類や構造を現地で識別して,地図上に色や記号でマークし,ハンマーで岩石を割り,手に乗る程度の大きさの標本に仕上げて番号を付けます.それらを持ち帰って厚さ5ミリメートル程度の板状に切断し,スライドガラスに貼り付けて,光が通る0.03ミリメートルの薄さまで研磨します.これは熟練を要する手作業です.このようにして完成した岩石薄片(プレパラート)を「偏光顕微鏡」で観察し,鉱物の種類,含有量,組織などを調べます.更にエックス線や電子線を用いた機械で鉱物の化学組成(各元素の含有量)を分析します.これらの結果をいろいろなグラフに描いたり,高温高圧実験の結果や他地域のよく似た岩石の研究結果と比べたりして,自分が研究している地域の岩石のでき方や起源を探求します.

 新宮町の上莇原(かみあざはら)や栗町の付近に分布している変はんれい岩は「夜久野オフィオライト」の一部です.夜久野というのは兵庫県境にある国道9号線沿いの京都府の町で,大正時代にこの種の岩石がここで最初に研究されたため,それ以後「夜久野岩類」などと呼ばれてきました.オフィオライトというのは,かんらん岩・はんれい岩・玄武岩が下から上へ層状に重なった厚さ数キロメートル,延長数10〜数100キロメートルの大岩体です.過去の海洋性地殻(海底に噴出した玄武岩マグマとそれが地下で固まったはんれい岩)とその直下のマントル(かんらん岩)がそのまま陸上に露出しているもので,アルプス・ヒマラヤ山系や環太平洋地域などの造山帯に多数存在します.オフィオライト(中国語訳は「蛇緑岩」)の岩石の多くは海洋底や造山帯で変成作用を受け,蛇紋岩や変はんれい岩・変玄武岩などの緑色岩になっています.(→オフィオライトとは)

 私は学生時代に福井県〜京都府の夜久野岩類を研究し,それがオフィオライトであることを1978年に発表しました.夜久野オフィオライトは福井県の若狭地方から岡山市西方まで,近畿・中国地方を斜めに横切り,約250キロメートルにわたって断続的に分布します.新宮町から西へ伸びる「上郡変はんれい岩体」はその一部であり,南北4キロメートル,東西18キロメートル,厚さ数キロメートルの大きさで,北部は変はんれい岩,南部は角閃岩(変玄武岩)でできています(図2).これらの岩石は約3億年前の古生代後期(石炭紀)に,現在の伊豆・小笠原諸島やマリアナ列島のような海洋性島弧(弧状列島)および縁海の地殻として形成されましたが,古生代末期(二畳紀)の造山運動によって,現在は低角逆断層(衝上断層)を境にして古生代後期の地層の上に乗っています.この断層は新宮町角亀から上郡町金出地にかけての谷沿いで観察できます.(→西南日本内帯衝上断層)

 「新宮の自然」の末尾には神戸女子大学の後藤博弥先生による新宮町の地質の説明があります.「金出地角礫岩」など私の調査以後、新たに発見された地層についても記述されており、夜久野岩類の海底での形成から現在まで3億年間の新宮町の土地の成り立ちが要領よくまとめられています.私の物語を読んで,悠久な新宮町の土地の歴史に興味を持たれたら,「新宮の自然」も読まれることをお薦めします.

金沢大学理学部助教授 石渡明 (いしわたり あきら)  もどる


図2 変はんれい岩(上)と角閃岩(下)の偏光顕微鏡写真(直交偏光).

 



謝辞 1999年11月22日の講演のためにお招きいただいたスプリングエイトと上郡インターネット研究会の皆様に心から感謝いたします。

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2001年01月22日作成、2001年08月17日更新