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角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


Kanazawa University
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1.はじめに

金沢大学地球学コース、海野研究室博士研究員の草野有紀です。 現在、「若手研究者海外派遣事業・組織的な若手研究者海外派遣プログラム」の下、米国地質調査所ハワイ島火山観測所にお世話になっております。 こちらでの主目的は、生の溶岩を体感することです。また、活火山の多様な観測について学ぶことと、それに関わる皆さんと出会うことです。 2月末までの滞在期間中、毎週の活動の様子を報告いたします。

2.週報Ⅰ-1

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Hawaiian Volcano Observatory(ハワイ島火山観測所、今後、HVO)はアメリカ合衆国に5つある火山観測所のなかで最初に作られたものです。1912年にThomas Jaggarさんが、キラウエアカルデラ内にあるハレマウマウクレーターの火山活動の様子を24時間観測できるようにと設立されました。去年がちょうど100周年で、一般公開したそうです。 HVOには、地質学者・地球物理学者・地震学者・地球化学者・情報科学者など様々な研究者が所属しています。お世話になっている地質学系は所長を含め3人のようです。台所を共有しているレンジャーさんに「あんたも地震学者?」と聞かれたので、やはり地物系が多い(地質系は少ない)ようです。加えてボランティアさん(宿代と飯代は出る)が現在5人いて、人手が必要な研究者の下で働いています。ポスドク・PhD学生の4名はみんな地物屋さんです。 今週はHVOにNorthern Colorado UniversityからLiDARシステム(レーザーカメラ)を使った測定をするグループが来ていました。私もそちらの調査に2日間同行させてもらい、機材持ちになりました。

 

3.週報Ⅰ-2

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Kalapana Eastern Ocean EntryとFlow Field観測 現在もカラパナ(ハワイ島南東部)で、海へ溶岩流が流れ込んでいます。駐車場から3 km、40-50分ほど歩くと、流動する溶岩にたどり着きます。今週は以前にマッピングに来た時よりも活発で、溶岩流の幅いっぱいに蒸気が立ち上っていました(Kalapana Ocean Entry 0118)。 LiDARのグループがパホイホイ溶岩流の形成過程を長時間観測したいとのことで、機材をHVO4人、LiDARグループ4人の8人で手分けして運搬しました(LiDAR camera)。機材が高温を嫌うため、「比較的平らで十分に冷えた溶岩の上に設置して今まさに流れているパホイホイ溶岩を撮影する」場所を捜し歩くのに2時間ちかく右往左往。おかげで今週予定していたマッピングは時間的に無理でしたが、1時間半にわたって溶岩流を観察するいい機会になりました。ほぼ同じ場所から撮影した写真で、約1時間でどれくらい溶岩の流域と厚さが変化したか見てください!(Lava Flow011801, 011802; わかりにくいのはLiDAR測定中でこれより前に立てず、スケールも入れられないせいもあります。手前のブロックの高さが約50 cm、鉛色に光っているのが新しい溶岩です。窪地が埋まった後で溶岩が50 cm近く膨張して厚くなっています) ねっとりした溶岩の感触を確かめるために、私が持参したハンマーは大人気でした。 帰りがけ、溶岩チューブの東端から盛大に流れ出した溶岩に遭遇しました。ブルーパホイホイと呼ばれる、ガスが抜けて密度が上がった溶岩で大変珍しいそうです(Blue Pahoehoe)。がんばって歩いた甲斐があるというもの…。写真で立っているMattさんの足元が赤いのが見えるでしょうか。写真の直後彼は走って逃げ、その数十秒後に岩盤は手前側に倒れました。 溶岩の鉄が溶けたようなにおい、私にとっては懐かしい好きなにおいです。

4.週報Ⅰ-3

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2013 Volcano Awareness Month HVOでは、毎年1月に一般向け講演会を開催しています。1月3日にEast Rift Zoneで噴火が始まったので、このタイミングに合わせて火山公園ビジターセンターとハワイ大学ヒロ校で講演が行われます。今年は噴火が始まって30周年なので、その日には地質系で(と言っても私を含め3人ですが)バーに行き、火山の女神ペレに乾杯しました。 今週は、滞在中たいへんお世話になっているMattさんがハレマウマウクレーターで起こっている現象について講演しました。クレーター内には溶岩湖があり、これが夜間には橙色に輝いて見え、観光客が絶えません(この話は後日)。2008年の噴火以降、クレーター周辺は火山ガス濃度が高いことや、火山弾が飛んでくる可能性があるため閉鎖されていますが、やはり夜間に勝手に入る人がいるそうです。その注意喚起も講演に含まれていて、HVOの仕事の幅広さを感じます。 聴衆には観光客はもちろん地元の人もかなりいて毎年のリピーターになっているらしく、今後山頂から噴火する可能性があるのか、など講演会終了後もMattさんは質問攻めにあっていました。聴衆の違いも多少あると思いますが、今週の爆発的噴火ビデオよりも先週の講演会で使われた溶岩流のビデオのほうが反応がよかったのはなぜでしょうか。どっちも感動的な映像だと思うのですが。 論文の修正など、デスクワークも進めております。「Reviewerも英語得意だろうけど、私も英語はなかなかのもんだよ」とMattさんに言われています(お茶目なアメリカ人…)。こちらで新たに試みているプロジェクトもありますので、フィールドワークが少ない週に報告したいと思います。      
     

5.週報Ⅱ-1

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航空学オンライントレーニング 空席ができたらヘリコプターで溶岩流を観察に行けるようにと、航空学オンライントレーニングを受けました。現在溶岩を噴出している火口付近に行くためにはヘリコプターで運搬してもらう必要があるのです。ウェブサイトを閲覧する要領で学習します。20年前の小型ゲーム機のようなデザインです。動画での説明もついているのでわかりやすいです。 ここで、航空機の設備や機器に関する基礎知識、何のために飛ぶのかを明確にしてから任務に取り組め! ということを繰り返し叩き込まれます。ほかにも遭難しないためにどうするか、遭難したらどう対処したらいいのかなどを砂漠で遭難した場合・雪山の場合…と、アニメーションを交えながら学習しました。過去の事故例は映画のイントロダクションのようでした。 ハワイで移動手段としてのヘリに乗るだけならば基礎5章分でいいそうです。毎章最後にクイズ形式のテストがあるのですが、基礎航空学には慣れない単語にも知識面にも苦戦しました。本編にはフィートとメートル表記で出てくるのにクイズにはフィートしか出てこないのですから…遭難対処法は正答率100%でした。15-20問あるクイズをクリアすると、写真のような合格証が出ます(形式を変えたり消したりしています)。これを運用担当の方に提出して、トレーニングの任務は完了です。      
     

6.週報Ⅱ-2

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今週のFlow Field 今週もKalapanaへ、コーネル大学の学生さんを溶岩流まで案内するツアーについていきました。彼らは一学期間(1-5月まで)ハワイ島に合宿滞在し、地形や天文や海洋生物からハワイの伝統文化までを幅広く学ぶそうです。目的地まで3時間近くかかったのは大学生のものすごく自由な移動と休憩のためです…休憩のたびに果物やスナックが出てくるのにはわが目を疑いました。早弁なんて当たり前で、ちょっとしたカルチャーショックです。 今回はとにかく流れている溶岩を見にと、これまでで最も上流に行きました。駐車場からの往復距離は7マイル(11.3キロメートル)です。近視の私は初めて、煙が上がっているところが残存する森の縁であり、茶色いところは枯れた木々であったことが視認できました。写真奥にある森はRoyal Gardenで、2年前までは住居などがあったそうですがみな溶岩に飲み込まれ燃えてしまいました。西(写真左)は溶岩チューブになっていて、全体が熱で陽炎が立っています。さすが溶岩が分流していく下流(海)側とは空気の温度が違います。 今週はチャネルができて閉じていく様子を見られました。はじめは赤い溶岩が幅いっぱい流れていたのですが、両端が固まってきてしわを作りながら堤防が大きくなっていき、やがて中央へ幅が狭くなってきて、最後は表面が固まってしまいました。中央部はちょっと高く厚くなっています。下でせき止められていたまだ熱い溶岩は、また割れ目を作って下側から流れ出しています。まさにプチ溶岩チューブ!と思いながら見ました。15分ほどの間のできごとですが、こんな様子に目を輝かせて観察する学生さんは誰もおらず、振り返ったら一人でした。やっぱりみんな溶岩を触る方が楽しいのね。 さて、夏の学会要旨を投稿するシーズンです。とにかくHVOへ来てあらゆる人に「Yukiのは古い溶岩、動かない溶岩」と言われています。オマーン直下で火山性地震が起きたら大事件ですね。      
     

7.週報Ⅲ-1

今週はデスクワーク三昧でした。2013年度初夏と盛夏に開催される学会の要旨二本分を書いて書式コマンドに苦戦、特に角度記号の出し方を必死に探しました。HVOで取り組んでいる作業の進行上、毎日図書室に通い、すっかり司書さんと仲良くなりおやつ交換をしました。週末はおばちゃんの勧めるハワイ料理冷凍食品(!)を買いに行こうと思います。      
     

8.週報Ⅲ-2

研究者よりもフィールドワークへ行く機会が多いのがボランティアの皆さんです。所属研究者の垣根を越えて、機器メンテナンスには重いバッテリーを背負って歩いています。USA各地からやってきた学士修了程度の若者で、「HVOでボランティアとして働くためにハワイ島へ来た」「火山について学びたいからHVOのボランティアに来た」と言います。では広大なこの国でどうやって仕事を探し当てるのか? ラテンな兄ちゃんに聞いてみたら、教授からこの仕事を紹介されて応募したそうです。しかも第一希望はよその地域の環境学系ボランティアだったけどリジェクトされたそう。HVOの契約が切れたら再挑戦するそうですよ。私と同室の修士学生はHVOのボランティア経験者です。さすがボランティアがキャリアの一つとして効力を持つ国ですね。      
     

9.週報Ⅲ-3

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キラウエアカルデラの中にはハレマウマウクレーターがあって、ハレマウマウクレーターの中にはオーバールッククレーターがあります。現在オーバールッククレーター内に溶岩湖ができていて観光客を呼んでいます。残念ながら一般立ち入り可能範囲から溶岩湖を見ることはできませんので、クレーター内の岩が崩れる音や延々と立ち上る火山ガス、煙を見るだけです。夜間は展望台から溶岩湖周辺が赤く光っているのが見えます。街灯がないため星空もあわせてとてもきれいです。      
     

10.週報Ⅲ-4

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さて、クレーターの中はどうなっているのでしょうか? ヘルメットとSO2フィルターのついたガスマスクを装備して、一般立ち入り禁止区域の管理の人に連絡を入れてから出かけます。溶岩湖表面は冷え固まって黒光りするクラストに覆われていますが、対流するうちに割れ目ができたり広がったりして常に変化しています。対流が表面から内部へ沈み込むところでスパターが発生します。岩盤に溶岩のしぶきが上がったり、スパターに伴う爆発力で近傍の岩盤が崩れ落ちたりと、かなりにぎやかで夢中になります。この日は3か所ですが、スパターは定常的ではなく日によって場所が変わります。ハレマウマウクレーターの表面はかつて溶岩湖だったときの痕跡、パホイホイ溶岩で凸凹しています。司書さんはこのクレーターが溶岩湖になったのを再び見たいそうですが、さぞすごい熱だろうと予想します。現展望台からもよく見えることでしょう。      
     

11.週報Ⅳ-1

皆さんの会話に当たり前に出てくる「DIイベント」、私には何のことやらさっぱりわかりませんでした。今週その「DIイベント」を地物屋・地化屋・地質屋で話し合う会があり、Deflation Inflation(山頂が火山活動によって膨張したり収縮したりする; 単位はmm)を指していることがわかりました。これを火口直下のガス、温度や内壁の崩落で説明しようとする地物屋と、もっと下のマントルからマグマが注入されたり戻ったりする、キラウエア山頂とリフトゾーンを合わせてとらえた大きな変化で説明したい地質屋。いつの世もどこのフィールドでも、両者が描くスケールが違うことがわかっておもしろいです。地化さんはどう言っているかって…「測定エラーもあるから、どっちのモデルにも完璧に整合するデータはない」。      
     

12.週報Ⅳ-2

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ハワイ島では今もプウオオ火口を起源とした溶岩流が海に注ぎ込んでいます。今週は海へ溶岩が流れ落ちる様子を運良く、かなり近くで観察することができました。水あめのように流れていきます。さて、パホイホイ溶岩の先端進行速度はどれくらいなのでしょうか。アア溶岩よりもかなりゆっくり、面的に流域を拡大するため、人的被害は少ないのですが、建造物を200ほど破壊してきたパホイホイ溶岩もそれなりの災害規模を誇ります。この速度解析を文献やHVOの内部資料を用いて地質の皆さんと行っています。      
     

13.週報Ⅴ-1

いつも突然始まるセミナー…本当は突然ではなく、HVO内部情報共有ページにお知らせが流れているようです。そこへアクセスできない私は、薄い壁の向こうの会議室に椅子を並べる音が聞こえてきたら様子をうかがいに行きます。今週はSkypeを使ってフランスのレユニオン火山観測所とのテレビ会議が夕方行われました。ほかにも、ハワイ大学で月面の玄武岩溶岩と「砂」の熱のやり取りを研究している方がハワイ島の溶岩で実証実験をする打ち合わせに来ていました。キラウエアは天然の実験室なのですね。      
     

14.週報Ⅴ-2

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今週のハレマウマウクレーターの調査はなんと1か月ぶりでした。天気は良かったのですが風向きが悪く、SO2感知器が鳴りっぱなしでした。ピーーーー…をBGMに約1時間の調査。今回は溶岩湖面の高さを知るためにレーザー距離計でいくつか目標点を測ります。先月はLiDARグループの3次元データをもらったんだったなと、あっという間の1か月を思い出しています。帰りに、吹き溜まりにストックされている今月分のペレの毛を採取して掃き清め、来月に備えて吹き溜まりをリセットしたら定期観測終了です。      
     

現在の項目:

1. はじめに
2. 週報Ⅰ-1
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4. 週報Ⅰ-3
5. 週報Ⅱ-1
6. 週報Ⅱ-2
7. 週報Ⅲ-1
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9. 週報Ⅲ-3
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12.週報Ⅳ-2
13.週報Ⅴ-1
14.週報Ⅴ-2

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