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角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


Kanazawa University
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町君(森下研)の2010年米国地質学会参加報告


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1.はじめに

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2010年10月3日から10月8日にかけ,トルコの首都アンカラにあるMiddle East Technical University (METU)のCultural and Convention Centerにおいて,米国地質学会(GSA)のspecial meetingであるTectonic Crossroads: Evolving Orogens of Eurasia-Africa-Arabiaが開催されました。日本からは自分も含め8名が参加しました。5日間の会期中,8件の基調講演と13のセッション(179件の口頭発表+102件のポスター発表),中日の巡検(3コース)が行われ,その前後にプレ巡検(2コース)とポスト巡検(3コース)が準備されていました。この内,自分が参加したプレ巡検「Blueschists, Ophiolites and Suture Zones in Northwest Anatolia」と自分も発表したセッション「Ophiolite, Blueschists, and suture zones」について報告します。

2.プレ巡検1

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Members。参加者は日本を含めアメリカ,イタリア,ドイツなど9カ国から総勢29名でした.Aral Okay氏(METU)とDonna Whitney氏(ミネソタ大)がこの巡検の案内をして下さいました。(クリックして拡大)

3.プレ巡検2

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Journey。この巡検ではイスタンブールから学会会場であるアンカラまでバスで移動しながら(およそ600kmの道のり),2泊3日でトルコ北西部の高圧変成岩や付加体,オフィオライト構成岩類を観察しました.参加者は9月30日までにイスタンブールに集まり,10月1日の朝,1台のマイクロバスと荷物運搬用のワゴン車で出発しました。マイクロバスは参加者で満席状態だったので,少し窮屈に感じることもありましたが,3日間,この狭い空間を共有することで,参加者全員が打ち解けやすかった良かったように思います。

4.プレ巡検3

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Country View。我々が調査で訪れた場所の大部分は荒涼とした丘陵地帯で植生が乏しく,ときどき羊や山羊などの家畜の群れと出くわすような長閑な草原が広がっており,当然ですが日本とはかけ離れた風景が広がっていました。日本国内を野外調査しているとたいていどこも木々に覆われていて,探すために沢登りをしてようやく露頭に巡り合えるということがざらで,結構な苦労があります。なので,植生の乏しい地域を調査して遠目からでも岩相が分かるような場所を歩くと感動を覚えます(右上の写真:大理石の層が見える)。

5.プレ巡検4

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我々が観察した地質帯は,(1) Karakayaコンプレックス(三畳紀後期に古テチス海の北縁に当たる活動的大陸縁で形成された付加体(変成帯)),(2) Anatolianオフィオライト(白亜紀のテチス海の断片)(3) Ovacıkコンプレックス(白亜紀付加体),(4) Orhaneliグループ(高圧型変成作用を被った非活動的大陸縁)の4つに大きく分けられます。これらは北から南へ(1)~(4)の順で東西方向に伸びた帯状の分布をしています。(1)と(2)~(4)とはİzmir-Ankara-Erzincan Sutureで境されています。一方,(2)~(4)は構造的上位からその順で,それぞれ衝上断層で境されています.以下に,見た岩石や露頭に着いてかいつまんで紹介します。(図.トルコの構造地質図(Okay and Whitney, 2010 Field trip guidebook))

6.オフィオライトのかんらん岩を貫く岩脈

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Anatolianオフィオライトのかんらん岩には多くの岩脈が見られるそうなのですが,その岩脈がちょっと変わっているそうなのです。写真の露頭の真ん中にあるのがその岩脈で岩脈の両側に黒っぽい部分があるのが分かると思います。黒っぽい部分は急冷縁(child margin;岩脈を形成した熱いマグマがその壁(ここではかんらん岩)に触れて急に冷えて固まった部分)だそうです。かんらん岩は本来熱いものですが,この岩脈のマグマはそのかんらん岩に触れて冷やされている。つまり,かんらん岩が十分に冷えた後にこの岩脈はこのかんらん岩を貫いているわけです。この岩脈がオフィオライトの衝上(陸上に乗り上げた)の後にできたものなら何の問題もないのですが,説明によるとオフィオライトの構造的下位にある付加体などにはこのような岩脈が決して見られないとのことなのです。つまり,この岩脈はオフィオライトが構造的下位の付加体に衝上する前にかんらん岩を貫いたことになります。一体そのマグマはどこから来たのでしょうか?謎です。巡検の案内書には一つの可能性として海嶺が沈み込んでそのマグマがこの岩脈を形成したのではなかろうか,と書かれていました。

7.低温高圧の変成作用を受けた付加体の石

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Ovacıkコンプレックスは,Anatolianオフィオライトの構造的下位に位置する白亜紀付加体で,オフィオリティック・メランジュとされています。ただし,これらは低温高圧(初期藍閃石片岩相)の変成作用を被っているそうなんです。ですが,我々の観察した玄武岩や石灰岩は,あまり変形しておらず,原岩の構造が良く残っていました。例えば,枕状溶岩の形状(左上の写真)や石灰岩の層理(左下の写真)がしっかり観察されました。赤色を呈する層理の発達した石灰岩の各層は暗い赤紫色の層境界部と赤色の中央部からなる規則的な組織を示します(右下の写真)。その赤色部が粗粒なあられ石の結晶からなっているそうです。綺麗な石です。原岩の構造がここまではっきりの残った変成岩を見たのは初めてだったので驚きました。 ちなみにこの石灰岩は近くの村で石材として利用されています(左上の写真の村人の後ろの塀)。

8.三畳紀のエクロジャイトと白亜紀のエクロジャイト

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本巡検の目玉は2つの時代の異なるエクロジャイトだったように思います。エクロジャイトとは高温高圧で変成作用を受けた岩石で主にざくろ石(赤色)とオンファス輝石(緑色)から構成されています。左側の写真が三畳紀のKarakayaコンプレックスのエクロジャイトで右側の写真が白亜紀のOrhaneliグループのエクロジャイトです。 どちらのエクロジャイトもある意味普通のエクロジャイトではありません。左側の写真の三畳紀のエクロジャイトは写真で見ても分かるように独特の組織をしています。写真で黒っぽく見えている鉱物は藍閃石という鉱物です。自分自身,あまりエクロジャイトを見たことはありませんが,こんな組織のエクロジャイトは初めてみました。一方,右側の写真の白亜紀のエクロジャイトにはローソン石という鉱物が含まれています。エクロジャイトは高温高圧で変成作用を受けた岩石と書きましたが,ローソン石は比較的低温で安定な鉱物なので,それが含まれるということはこの岩石が高圧(地球の深いところ)にも関わらず比較的低温で形成されたことを意味します。

9.アンカラは遠かった

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10月3日,巡検を終えて,レセプションが開かれるMETUへと向かう途中,我々のバスのタイヤが,高速道路でバーストするというアクシデントに見舞われ,夕暮れの高速道路で足止めを食らった(上の段の写真)。ちょうどその場所には,KUMHOタイヤの看板が...(下の段の写真)運転手さんがタイヤを交換して,オープニングレセプションにはだいぶ遅刻したものの無事にたどり着くことができました。 結果的に本巡検で見た岩石のほとんどが変成岩でした。付加体の石灰岩や玄武岩と言っても藍閃石片岩相の変成作用を被っている。オフィオライトのかんらん岩の研究をしている自分としては,もう少しマントルの岩石が見たかったところですが,日本ではお目にかかれない岩石や世界的にも珍しい岩石を多く見ることができて,非常にいい巡検でした。

10.学会

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いよいよ学会です。会場はMiddle East Technical University (METU)のCultural and Convention Centerでした。この大学,やたらと広い。学生数は金沢大学の2倍以上いるようです(ホームページの情報によると24,000人)。授業は英語でやっているそうです。 自分が主だって参加したのは「Ophiolite, Blueschists, and suture zones」のセッションで,このセッションは学会初日と最終日の2日間で,計40件(ポスター発表15件+口頭発表25件)の発表が予定されていました。(写真:大学の入り口のモニュメント)

11.注目を集めた発表

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学会最終日の午前中のセッションで多くの人の注目を集めていたのがオフィオライトのクロミタイト中から見出されたダイヤモンドなどの超高圧かつ還元的な環境を示す鉱物に関するPaul Robinson氏とHarry Green氏による2件の発表でした。明らかにこの発表めがけて人が集まっていました。そんな発表を自分もいつかしてみたいものです。(写真左:休憩中の様子 写真右:ポスターセッションの様子。最終日の終わり際に撮った写真なので閑散としていますが...)

12.自分の発表

自分にとっては海外の大きな学会での初めての発表だったのでひどく緊張していました。自分の発表は午後の2番目で,1番目の発表は,発表者には申し訳ないんですが,緊張していてほとんど耳に入ってきませんでした。原稿を読む形で何とか無事終えたのですが,その場でコメント及び質問がなかったのは残念でした。その代わり,発表が終わった後の休憩時間やその夜の宴席などで,プレ巡検から一緒だった研究者や学生からコメントをもらうことができました。そういう意味でも巡検に参加して本当によかったです。本学会は全体として“地質色”の濃い研究発表が多く,さらにテチス海の消滅に関連した研究発表が多い中で自分の発表は若干毛色の違うものでした。そんな自分が25件という限られた口頭発表の枠の中で発表できることが恵まれたことであり,だからこそしっかりとした発表をすることが如何に大事かを知りました。そのためにも発表の練習が重要だということを身に沁みて感じました。また,多くの外国人研究者や学生が,研究に関する議論においてはもちろんですが,それ以外の色々なことに対してアグレッシブである姿を身近に見て羨ましく感じました。自分もそうあれるよう努力しなくてはと,決意を新たにしました。貴重な体験ができた9日間でした。

13.こぼれ話 ~親切なトルコ人~

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日本からイスタンブールに着いた日,タクシーでホテルに向った。ホテルに着いてから,パスポートを入れた手持ち鞄をタクシーの中に忘れたことに気付いた。ヤベぇ!っと思って慌ててホテルの外に飛び出してみたものの,時すでに遅し…。乗ってきたタクシーは去った後だった。しばらく周辺を捜しまわったものの辺りには無数のタクシー…。見つかるはずもなく,途方に暮れてとりあえずホテルの前まで戻ってみると,さっきのタクシードライバーが鞄をもって待っていてくれた。この時の自分には彼の周りに後光が見えた気がした。この有意義な巡検と学会にフルで参加できたのは,このとても親切なタクシードライバーのお陰!感謝,感謝。テシェッキュレデリム(ありがとう)!(写真:モスクとタクシー)

14.ギャラリー1

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左上:パーティ会場にいた招かれざる客 右:我々庶民の足、ドルムシェ。路線の決まった乗り合いタクシーのようなもの。朝夕は凄まじい渋滞です。 左下:トルコの町のきのこ。Ankaraのバザール。

15.ギャラリー2

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左上:トルコの朝焼け。田舎のおばちゃんと森下さん。 右:トルコの田舎町 左下:トルコ料理。(左)ケバブ。普通にうまい。(右)スウィーツ。砂糖水に飽和した冷たいホットケーキにたいな感じで、甘すぎて食べきれなかった...

16.ギャラリー3

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左:トルコの花 右:トルコの動物

現在の項目:

1.はじめに
2.プレ巡検1
3.プレ巡検2
4.プレ巡検3
5.プレ巡検4
6.オフィオライトのかんらん岩を貫く岩脈
7.低温高圧の変成作用を受けた付加体の石
8.三畳紀のエクロジャイトと白亜紀のエクロジャイト
9.アンカラは遠かった
10.学会
11.注目を集めた発表
12.自分の発表
13.こぼれ話 ~親切なトルコ人~
14.ギャラリー1
15.ギャラリー2
16.ギャラリー3

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