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角間キャンパス岩石散歩
(石渡先生作成)


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柴野さん(隅田研)の体験記


柴野さん(隅田研)
亀谷さん(加藤研)
服部君(水上研)

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1.はじめに

オマーンという国を知ったのは、学部1年のときでした。そして金沢大学で地球科学を学んでいるからには、一度は行きたい!でも、一人で行ってもモホがどこなのかは分からないし…オマーンを知り尽くしている方と行きたい!と思い続けて4年半。モホール教室への参加者募集の張り紙を見た時、「行くしかない!!!」と心の中で叫びました。
 また、研究ではマグマの動きを解明するために室内実験を行っていますが、天然の状態はどうなっているのかという日頃からの疑問を解決するため、冷静に考えてもやはり参加したいと思いました。さらに、天然の場に室内実験を応用するためには、どんなパラメータが必要なのか、今までの単純化した実験で見られた現象は天然にもあるのか、そんな期待を抱きました。もちろん、露頭の形成過程を解明するために様々なモデルが提案されている場所に、私の実験の視点からも新しいモデルが提案できないか、そのヒントを手に入れることはできないかという野望も抱きながら…。

2.オマーン初上陸

クリスマス・イブの夜は空の上で過ごし、オマーンへ到着。乾燥していて砂っぽく、気温は日本の夏ぐらいでそこまで大変な場所ではないなと感じました。しかし、この印象は数時間で変更を余儀なくされました…。乾燥によって砂がたくさん舞い上がっていて、少しアレルギー気味な私の鼻は詰まる一方です。そして気温の日格差が大きく、昼間は半袖でも暑いくらいなのに、夜になると長袖必須な涼しさでした。ですが、人間の適応力はなかなかで、三日ぐらいたつとこの環境にも慣れ、難なく生活することができるようになりました。
 スーパーやお店に入ると、日本で見慣れている飲料水や、日本でもよく見る輸入商品(ヨーロッパ産?)がたくさんあり、想像していた以上に貿易の盛んな国という印象を受けました。自動車にしても、トイレにしても日本のメーカーのものがたくさんあって、日本の企業の偉大さをも感じました。

3.これが噂のモホ

いよいよ調査へ。宿泊している東(地殻側)から西(マントル側)へ向かいます。最初は通るべき道がしっかり、はっきりしていますが、いつの間にか恐竜が現れそうな道、この自動車で大丈夫なのかと不安になる急傾斜の道へと進んでいきます。凸凹の激しい道や道なき道をどんどん車で突き進む荒井研究室の方々を尊敬すると共に、自分ではとても運転できないし、一人で来なくて良かった…と確信しました。
 今回の巡検の特徴としては、オフィオライトの上から下まで観察できたこと、様々な状態を示すモホ遷移帯の露頭を観察できたことが挙げられます。短い巡検の期間の中で本当に重要なポイントが凝縮!!されていて、今まで見たこともないものをたくさん吸収することができました。フィールドでは、とにかくスケールが大きく、ものすごく長い年月が経っている…ということを常に感じていました。スケールの大きさと年月の長さを感じる露頭は、写真で収めるには失礼な気がして、動かないものなのに思わずビデオ撮影に走ってしまうちっぽけな自分がいました。  とうとうモホ面が観ることのできる露頭に着いた時には、興奮のあまり、崖登りが初めてだったのに気付かずに崖に登り始めていました。すぐに、登れないし降りられないことに気付きましたが、時すでに遅し…。一緒に行った皆様の温かい心遣いとご指導により、なんとか崖を登り降りすることができ、モホ面との対面を果たしました。そしてそのモホ面たちは…場所によって全く様子が違っていて、単純なものではないことをに衝撃を受けました。ガブロの脈の数が増えていくと共にモホに到達したり、とてもはっきりと層状ガブロとマントルの境界が現れたり、何だかわからないけど白い脈がモホ面の下にたくさんあったりと本当に様々な遷移帯の様子を観察することができました。二次的な作用が加わっている場合もあるようですが、巡った道の本数だけ異なった遷移帯が観られ、とても複雑な形成過程を経てきたのだと理解しました。また、未解決の謎がまだたくさんあることにも興奮してしまいました。そして室内実験ではよく「均質」と仮定して考えることで現象の解明に努めますが、天然の場では細かい「不均一さ」に目を向けることが問題を解決することにつながるのかもと感じました。

4.みんな大好きクロミタイト

巡検最大の難関?…二時間ほど自動車で移動し、二時間半くらいかけてワジを歩き、到着したのはクロミタイトの露頭でした。クロムとして利用されるため、見つけられるとすぐに取られてしまうということで奥の方(見つからないところ)にしか残っていないのだそうです。(近くの場所では、大きな重機でクロミタイトが根こそぎ取られていました。)ギラギラと黒光りする岩石で、もちろん初めてお目にかかりました。そして、この岩石の分布が面白いのです。クロミタイトを囲むようにダナイトがあり、さらにそれらを囲むようにハルツバーガイトがみられ、たまたまなのか、反応によるものなのか…。しかも私が観察したのは一部分で、その構造が部分的なのか全体的なのかもわかりませんでした。どうやらこれから、この場所を研究する友達がいるようなので是非この岩石の謎を解き明かしてほしいと思いました。

5.新しいパラメータ

この巡検を通して、あらゆる場所で貫入する脈を観察し、自分の実験のモデルがこのスケールにも対応させることができるのではないかという期待を抱きました。そして、貫入時の周囲との反応の影響を調べるために、その脈から距離を測ってサンプルを取って調査をしていることを知り、自分の研究と直接的に比較できるかもしれない可能性を感じました。また、脈となっているメルトの種類も様々だったので、物質の密度に焦点を当てた実験が必要であるかもと感じ、意味があるかもしれない新しいパラメータを見出すことができました。フィールドを専門としていなくても、たくさんの事を学べる場であり、また自分の実験について考えるうえでもとても良い刺激になりました。

6.元気に巡検するためには、おいしい食事を

巡検中は、朝食・昼食は手作り、夕食は外でというスタイルで過ごしました。先にも述べたように、ものには恵まれているのでスーパーに行けば日本で食べているようなものがほとんど手に入ります。(もちろん味噌などはありませんが。)冷凍のソーセージを買ってみたり、アプリコットを買ってみたり…たくさんの食べ物に挑戦してみました。そして野外調査の後には欠かせないアイス!は、なかなかの着色っぷりでした。
 お店での食事は、口に入れた時はそれなりに「美味しい」と思うのですが、香辛料が苦手な私は噛んでいるうちにあれ?となることが多かったような気がします。インド料理のお店が多いからなのか、暑いからなのか、とにかく辛いものが多く、カレーライスは食べられませんでした。また、焼きそばのようなヌードルという名の食べ物はいつも麺がのびているように感じ、これも文化かなぁと思いました。そんな中、文句なしに美味しかったのはマンゴージュースでした。

7.カルチャーショック

日本で外を歩いてよく目にする動物は、犬・ハト・スズメですが、オマーンではそれがラクダ・ヤギ・ハトとスズメの間のような特徴の鳥でした。自動車が走る道路の横にラクダが歩いていたり、ヤギが群れをなしていたり…日本では考えられない光景が広がっていました。また、猫が非常にスマートであることに驚きました。日本で良く見る猫とは骨格から違っているようです。
 また、実際に行く前から注意するように言われていたことですが、女性が顔や髪などを出しているのはやはり珍しいらしく、スーパーではたくさんの方と目があったり視線を感じたりしました。ですが、予想以上に女の人も働いている場面に遭遇しました。

8.最後に

日本では観察できない、世界の中でもとても貴重なオマーンオフィオライトを自分の目で見ることができ、そしてそのオマーンの最先端の研究を行う荒井先生や海野先生、荒井研究室の方々に解説して頂き、とても有意義な時間を過ごすことができました。自分の研究へのヒントを見つけることもでき、やはりフィールドに行って良かったと強く感じました。この巡検を通して、より地球科学の魅力にはまってしまったのは言うまでもありません。そして文化の面でもイスラムの世界を体験できたことで、さらに広い視野が得られた気がしています。

現在の項目:

1.はじめに
2.オマーン初上陸
3.これが噂のモホ
4.みんな大好きクロミタイト
5.新しいパラメータ
6.元気に巡検するためには、おいしい食事を
7.カルチャーショック
8.最後に

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